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コネコとシイナさんとお盆の話3:迎え火

いよいよ今夜は迎え火。朝からコネコはそわそわしています。
「早く帰ってきてにゃ。いっしょに火をつけてほしいのにゃ」
「わかったわかった」
お膳の上に用意されたチャッカマンを遠巻きに見つめて、コネコは日暮れを待ちます。
「どんなきうりが来るのかにゃ…。ずっきーにかもしれないのにゃ…」  
あいにくの雨も日が暮れる前には止んで、涼しい風が吹く頃には燃えるように真っ赤な夕焼けでした。
縁側にアルミのお皿を出して、短く折った割り箸を積み重ねて火をつけます。
「風情がないにゃ」
「火がつけばいいんでしょ」
何度もチャッカマンで火を近づけて、燃え始めた頃には火が暮れかけていました。  

「これでシイナさんのご先祖も来るにゃ?」「来るかなあ…。おばあちゃん、生まれる前に死んでるから会ったことないし」
「子孫の甲斐がないのにゃ」
夕焼けを見ながら、割り箸の火が消えるのを待ちます。
割り箸の焦げる匂いがちりちりします。

きらり、と空の向こうで何かが光りました。  
ものすごい速さで、西の空から飛んでくるものはなんだ!鳥じゃない!飛行機でもない!ドローンじゃない!そう、それは。
「…きうりの大群にゃ」
「なんというか、農家の人が見る悪夢みたいだね」
しゅーんしゅーん、と飛来する中には、ちらほら茄子やズッキーニやゴーヤなども混ざります。  
「きうりのみなさーん!シイナさんちは、ここだにゃあ。飛べなくなったきうりも保護してますにゃあ」
コネコは空に向かって大きく手を振ってアピールします。蒸し暑いしのどが煙でいがらっぽくてたまらないので、シイナさんはぷしゅう、とビールの缶を開けました。

「ご先祖様に乾杯」  
日も沈み切った頃、やっととべない胡瓜は顔を出しました。それまでは、ずっと野菜室の中に隠れていたのです。
「飛べないなんてばれたら、恥ずかしいですもん」
「また飛べるようになるのにゃ?」
「妖精の粉を持ってきて貰えたら、たぶん…」
それを振りかけると、どんなものでも飛べるようになるんだそうです。
「コネコも使ってみたいにゃ」  

おもに日々の角ハイボール(濃い目)代の足しになります