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うろろんとうろんな人たち

マスクというものをしなくてはいけないのだ、とうろろんたちは知りました。
どうしよう。マスクって、売ってない。
もし売っていたとしても、更に大きな問題があります。
うろろんたちには耳がないのです。
「うろろん…」
とりあえず、なるべく口は開かないようにします。
手は無いから大丈夫。

こっそり入荷したマスク、なかなか表に出されません。
トイレットペーパーも、全部は出してないみたい。
「出すと、いつもと同じ人が持って行っちゃうからね。あいつがいなくなるまで出さないよ」
と、店長。
店長の周りを守るようにうろろんたちが囲んでいます。
がんばれ、店長。
「うろろん」

ふようふきゅうだから、と店じまいしているお店があります。
灯りのついていない店内に、うろろんたちは入ります。
いつもはニンゲンでぎゅうぎゅうの立ち飲み屋さん。
今日はうろろんの貸切りです。
背が足りないうろろんはビールケースに乗って。
ジョッキに入った薄いカルピスで乾杯です。
片隅には、ビールケースに座っている居酒屋の店主さん。
一人だけキンキンの生ビール。
「はあ、なんだかなあ」
と、大きなため息です。
うろろん、うろろん。しゅー。
店主さんのうろんをみんなで吸いこみます。
「うろろん、うろろん」
大丈夫。店主さん、耳もあるし。
「ろろん」
すてきな福耳。
うろろんで満員の居酒屋の中を、通りすがる人たちがかわるがわる覗いていきます。
店頭には「当面休業」の貼り紙。
あ、今の人すごくうろんだった!
「うろろん!」
いっぴきのうろろんがその人を追いかけて飛び出しました。
うろんな気持ちを吸い込むからね。
まっててね。

「うろろん、ろん!」

カルピスを飲み終わったうろろんたちは、ジョッキをきちんと下げて、ビールケースも元に戻します。
そうしたらお店の鍵をしめて。ふらつく足取りの、福耳の店主さんの後ろを二ひきのうろろんが付いていきます。
「店、休み?」
「おう、たまんねえよ」
すれ違う知り合いもみんなマスク姿です。

閉店時間が前倒しになったスーパーにも、うろろんはいます。
カゴの中には食パン一斤とカップ麺と、ストロングゼロが4本のひと。
卵もお肉も品切れで、もうお夕飯なんてどうでも良くなってしまったのでしょう。
後からそっとうろろんがついていきます。
レジ袋を有料で買って更にうろん。
「しゅー!」

おもに日々の角ハイボール(濃い目)代の足しになります