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コネコとシイナさんとお盆の話:2 二人のおばあちゃん

おばあちゃんの魚屋さん、今日は臨時休業みたいです。
シャッターの横の細い階段をきしきし登って、コネコは勝手知ったる風に二階にあがります。
「おばあちゃん、コネコ来たにゃー」
声をかけても返事がありません。
「出かけてるのかにゃ?」
「すぐ戻るから、座ってなさいな」
「誰にゃ?」 
いつものおばあちゃんにすごくよく似てるけど、ちょっと違うおばあちゃんです。
「あの子は買い物にいったよ、あんたが来るからってアイス買いに。すぐ戻るよ」
「アイス!楽しみにゃあ」
コネコはごろん、と畳に転がります。転がったまま扇風機の風が一番当たるところに移動します。 
「…ところで、どなた様ですにゃ?」
転がって風を受けて、はたとコネコは尋ねます。
「おばあちゃんの…ごきょうだいですかにゃ?」
「大当たり!」
笑った頬のえくぼまでそっくりです。
「そっくりにゃ」
「ふたごだからね」
もうひとりのおばあちゃん、風に吹かれても髪も服も、揺れません。 
「あたしはだいぶ前に死んだから。お盆だから帰ってきたんだよ」
「にゃあ。きうりに乗って?」
「今年はズッキーニとかいうのだったよ。安かったけど乗り心地はまあまあ」
「乗れればいいのにゃ」
「その通り!あと、迎え火の日は高いから、早めに来たのさ。帰りもゆっくりしていくつもり」 
「ただいまあ」
とんとんとん、と階段を登って生きている方のおばあちゃんが帰ってきました。
「あらコネコちゃん、来てたの!これね、あたしの妹。そっくりでしょ!」
「でも死んでるのにゃ」
「そう、だいぶ前にね。あたしが結婚する前だったっけね」
「そうよ、この子の旦那さん、お葬式が初対面」 
「ここでお葬式したのよ。こんな狭いとこで」
「階段を棺が上り下りするの、大変だったのよねえ」
同じ顔のおばあちゃんが二人で、ひとりは汗だくの顔に髪の毛が貼り付いて。
もう一人は汗もかかずに。
「死んだのに年取ってるにゃ」
「一緒に年取ることにしたのよ」
「やあねえ、真似っこで」 
ふふふ。ふふふ。おばあちゃんたちは同じ顔で笑います。
「そうそう、アイス食べましょ」
買い物袋からアイスが三つ、出てきます。ヘラも三本。バニラとチョコと抹茶。
「あたしはバニラがいいわ」
と、死んだおばあちゃん。
「いっつもバニラねえ、あなたは」
「死ぬと食わず嫌いになるの」 
コネコはチョコ、生きてるおばあちゃんは抹茶を選びました。抹茶は期間限定ですって。
「ああ、ひんやりして甘くて美味しい」
「生き返るねえ、あたしもう死んでるけど」
「今更生き返られても困るわよお」
四本足のついた黄色いズッキーニは窓辺に停車して、黙って三人を見つめています。 

【つづく】

おもに日々の角ハイボール(濃い目)代の足しになります