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コネコとシイナさんの、素晴らしき人生

なにかの拍子に
「シイナさんの人生はつまらないにゃ」
などと言われてしまい、まあでもその通りだよな、と思ったので特に反論もせずにシイナさんは二本目の缶チューハイを開けました。
つまらないのに、けっこう辛いのです、人生ってやつは。
ぷしゅう。
炭酸の缶飲料を開ける音を聞く時、新発売の酎ハイの最初の一口目を飲むとき、だらだら飲んでそのまま昼寝する時、くらいがシイナさんの最近の幸せなのではないでしょうか。

面白そうな人生を過ごしている人は、つまらない人生の人よりも辛くないのかな。
それとも、もっと辛いのかな。

ごろんと寝転がって天井の板目を眺めながら、友人たちの顔を思い浮かべて、ひとりひとりの幸福度と人生の辛さを推し測ろうとしたものの、思い浮かぶような友人はシイナさんとおそらく大差はなく、幸せそうな友人の顔はぼんやりと霞かがっています。
そもそも卒業以来会ってもいません。
「類は友を呼ぶのにゃ」
「あ、おかえり」
コネコはシイナさんに頼まれて駅の方までお使いに行ってきたのでした。
「コネコビトには缶チューハイは売ってもらえなかったにゃ」
「それは残念」
でも、家には備蓄しているトリスがまだあるからいいのです。精神の安寧。
「にゃ」
と、コネコは持ち帰ってきたものを差し出します。
ふんわりと良いにおいの漏れてくるビニル袋が、今日のコネコの戦利品です。
中に入っているのは明るいクラフト紙のような色味の紙袋で、内側が油紙になっていて開け口は密封されているのですが、それでも漏れてくる良いにおい。
「カシラ、ハツ、レバ、豚トロ、ぜんぶ塩にゃ」
「ばっちり」
コネコが買ってきたのは焼き鳥、ではなくて厳密に言うと焼きとんというやつです。
関東の一部の地域では「串に刺さって焼いた肉」を総称して鶏肉以外も「やきとり」という概念として呼び習わすのですが、今はその話は置いておきましょう。
「コーラも買ったのにゃ」
「できるコネコ!」
いつものコップにコネコはコーラ、シイナさんはトリスのコーク割を入れて、乾杯です。
「いったい何に乾杯するにゃ」
コネコが選んだのはタレ味のツクネとネギマ。串から外して白いご飯に乗せて、焼き鳥丼にするのです。
「そうだねえ」
半分開けたサッシ窓から日の光と風が入って、コネコのヒゲをそよそよと揺らします。
「この素敵な春の日に」
「にゃ?」
それにつけても誰かに買ってきて貰ったやきとりの美味さたるや。 次はタレにしよう、とシイナさんは思い、そしてまた寝転がりました。

「乾杯」
「にゃ」

おもに日々の角ハイボール(濃い目)代の足しになります