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『おっちょこちょい』第二回


 例をあげればキリがない。ざっとこんなことが、俺の人生にはつきまとい、社会人になってもまるでドジが直らない。むしろ社会人になれたことを奇跡と思えと、親兄弟までが言う始末。

 つい先日も、商談の日時を間違えて、会社に大きな損益を出したばかりだ。おかげで休日の今日もまったく気分が晴れず、一日中布団を被ってくよくよしていたら、アパートの西の窓から日が差し込んできた。

 ああ一日無駄にした。よくないなあ。よし、駅前の焼き鳥屋にでも行って気分転換するかと、ようやく起き出す決心がついた、その時だった。

 枕元のスマートフォンがメールを受信した。

 見ると、送信者の名前が俺の名前になっている。よくある迷惑メールだろう、と思った。件名も『500年前の俺よ。ありがとう!』となっている。全く意味不明だ。フィッシングにしても、これで一体誰がどんな興味を抱くというのか。もちろん無視して、立ち上がり、着替えて家を出た。

 三鷹台駅の焼き鳥屋「日本一」は、近所に有名な医学研究所があって、よくそこの職員や研究者らが飲みに来る店だ。今日も店の一角で、難しい専門用語を飛びかわせて美味そうに飲んでいる研究者らしいグループがいた。
 

 俺は俺で、皮とぼんじり、つくねとネギ間、という俺的に定番のラインナップで梅サワーを飲んでいた。すると、またメールが届いた。

 送信元は、また俺になっている。だが、件名に『ちゃんと読んでくれたか? お前はおっちょこちょいだから・・・』と後半が隠されていて読めなくなっていた。俺は、少したじろいだ。

 (なぜ、こいつは、俺がおっちょこちょいだと知っているのだ?)

 もしかしたら、知り合いのイタズラだろうか? だが、確かに俺のメールアドレスから送られていることになっているのだ。迷惑メールの中には、俺のメアドをどこかで入手したのか、あるいはそういうプログラムがあるのか、時々、そうした手の込んだものが混じっている。だが、俺の知り合いや友人が、イタズラのために、わざわざそんなことまでするとは思えない。

 では、なんだ? 焼き鳥を食べながら、あれこれ考えてみたが、やっぱりよく分からない。開いてみようかな、とも、思うのだが、今一つ怖い。

 と、また、メールが来た。もちろん俺からである。今度は件名に『日本一を出る前に必ず嫁!』とあった。

 俺が今『日本一』にいることを知っているのか! しかも、「読め」が「嫁」になっている。俺がやりそうな間違いだ・・・。

 こいつ、何者だろう・・・?

 とうとう好奇心を押さえきれず、届いた3件のメールを順番に開いてみた。すると、そこには「500年後の俺」からの言葉が届いていた。

つづく

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