【短歌連作23首】 ♪(initialized)

それから で始まる話が好き 焼いたきゃべつのにおいを風が届けた

初耳

伸びてくるひげはひげでもねこのひげ マイネーム、のあまい響きよ

知らない人の名前のあとに(クジラ博士・故人)が空色にひかってる

友だちにカスタネットとかめはめ波くらいのかたちの距離感で会う

歩くとき踵がかぱかぱ脱げるけどいいんだこの色が ついてきて

語源から遠く離れた者として強く踏み合うお互いの足

きらきらの目が公園に向けられてからすが見つめるまぼろしの雪

本当のありがとうがまだ言えなくて冷たい麺の汁はすっぱい

とびうおの 思い出せないたくさんの名前に泣きそう 透けてるおなか

鼻とつま先と乳首がいつだってわたしの小さな矢印 いいでしょう

台風をまだ見たことがないけれど台風の目らしきものは、いつも

逃がしたと思った虫を窓枠で轢いてしまった手触りで の、愛?

Turkish March みみずは内臓を口から出し入れして進みます

強いのは水の浮力と季節の浮力どっち?強いほうに寝転ぶよ

目蓋がカメムシみたいに光っててひなたより街灯で見せたい

夢まで届けるはずだったのに届かずに帰ってきたヒヤシンスの香り

音符マークの当て逃げ

祈りすぎですよと先生は言ってわたしの膝に軟膏を塗る

コーヒーマグの内側それぞれの水位 揮発した感情のそれぞれ

ドーナツの砂糖が紙を透かしてく速さ 仕込み刀 無問題

くやしなみだにごきげんなみだの広い海 おまえの命の余白がほしい

母を詠むことはそれきり う、ん、め、い、のいの口のまま息絶えなさい

飛行機と同じ値段のぬいぐるみ・(復讐に生きるな)・ミーツ・ガール

甘く狂わせる薬なんて、

退屈なお遊びを先立つ不幸? 焦げた銀紙から覗く星

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