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アイツとアノコと時々オレ (1)

DMはいつだって突然。
ポンッと小さなアイコンが浮き上がり、だがそれは見慣れないアカウントだった。

もう何年も前のこと。
その日は上司の無茶な要求に振り回されてグッタリ。何にも考えたくない……って気持ちでぼおっと眺めてたスマートフォンにメッセージが現れて、急に目が覚めた。

差出人はユーコ。何度か挨拶したことがある程度の知り合い未満。そんな彼女からなんの用だろう。開くとこんなことが書いてあった。

「いまM駅近くで遊んでます、近くにいますか?」

M駅なら近い。なんだかよくわからないが不審な誘いには乗るタイプである。
行きます行きます、具体的にどこでしょうといった返事をした。

「Sホテルの412号室、ついたらドアをノックしてください」

どういうこと?と思いながらそこに向かった。
あまりにも情報がない。
だけど何してるの?とか、誰がいるの?とかアレコレ聞くのも野暮であろう。
せっかく誘ってくれたのだから。
ぼくに声をかけてくれたのだから。
でも。
もしかしたら、やんちゃな人たちがいて変な絡まれかたしたらどうしよう。
もしかしたら、こわい人たちがいて無理に酒飲まされたらどうしよう。
そんなもしかしたらがぐるぐるしたままついに412号室ドアの前に立った。

結局そのぐるぐるは杞憂だった。
ノックしたドアが開いたところに立っていたのは知っている顔の男、コータだった。
ん??ん??なんでコータがココに??

コータはもう10年くらい続くバカ話仲間で、時々飯を食いに行ったり、妙な性癖の話を聞かされたりする仲である。
知ってるやつだ!と安心してまずは固く握手をした。
コータのうしろからユーコがヒョイと顔を出して軽く会釈した。

聞けば、コータとユーコはこうやって時々宿泊する仲だという。
今日も早くからチェックインして、ひとしきり飲んでベロンベロンになって、そういえばアイツが近くにいるんじゃ?と思ってぼくに声をかけてくれたとのこと。

まあまあ座ってくださいよと椅子を勧められ。なんだかよくわからない三人で乾杯して彼ら二人の話を聞いて。妙なところで繋がりがあるもんだねえってすっかり打ち解けた空気感に嬉しくなって。
彼らはとにかく酒を飲む。気がついたら缶ビールがなくなっていた。

ユーコがお手洗いに立ったときコータがぼくにひそひそと耳打ちした。
(ちょっと買い物行ってくる。15分くらい。よかったら遊んでて。遊んでる最中に帰ってきて目撃しちゃうってやつをやりたい)
なるほどこれをネタに後でたっぷりお仕置きプレイをしたいわけだね。
変態はいつも楽しそうだ。承知した。

お手洗いから戻ったユーコに
「ビール買ってくる。30分くらいかかるかな。一緒に留守番してて」
「はーい」

コータが部屋を出て残されたぼくたちは。
ユーコの横に座りそっと肩に手を回すと、体を預けてきた。
酔ったからなのかどうなのか体はとても熱い。
そっと口づけるとすぐに舌を伸ばしてぼくの舌を絡めとろうとしてくる。

時間がたつのはとてもはやい。
ユーコがすっかりとろんとろんになって荒く熱い吐息になってきた頃、コータが戻ってきた。
あっ!という顔をするユーコに
「続けてて」

コータはパソコンを開き仕事をしているようだ。
そのすぐ側のベッドでぼくたちは気にすることなく思うがままに重なった。

……

ユーコとぼくの呼吸が落ち着いて、視界がクリアになってきた。
二人で没頭してるときって、視界がギュッと狭くなってお互いしか見えなくって他のことは気にならなくってひとつのかたまりになってしまって、な感覚になる。
そこから解放されて、あ、そうだ、コータがいるんだった。

仕事終わりとは違う意味でグッタリしながら、おつかれーって三人で乾杯して。
あっという間に帰らなきゃな時間になって。
また遊ぼうねってみんなでハグして、412号室のドアから、現実に戻った。

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