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サル

 じめじめした空気で首の周りがべたついて鬱陶しい。空は灰色の雲に覆われて、焼けるような日の光は射していないのに、むせるように暑い。  母さんは日傘を差して、少し先をのんびりと歩いている。最近は無理やり手を繋いだり、やたら隣を歩いたりしないようになっていた。  以前、学校の帰り道に母さんと一緒に話しているところで友達とすれ違ったことがあった。クラスで人気者のその友達は、手を繋いでいる僕を見て、ニヤニヤと薄ら笑いをしながら、よぉ、と一言いって通り過ぎた。そのあと家に着くまで、僕は

    • 二人

       背後で寝返りを打った気配がした。ぼんやりと漂っていた眠気が引いて、クリアになった視界に朝の小窓が眩しい。  起きているのか、と彼女を踵で二回小突くと、首筋をくすぐるような鼻息が返ってくる。 「……昨日、いつ頃寝たんだっけ」 「映画見始めて、すぐ。寝ますぅって自分で言ってたぞ」  そう、と彼女は呟き、気怠そうな腕で抱きしめてくる。コツコツと鎖骨を突く手を無視して、スマートフォンの画面を見ているうちに、昨晩の会話が途切れ途切れに浮かんでくる。  一杯目の酒が回り始めて

      • 追伸

        「私、思うんだよね。あなたが下駄履いてたらなぁって」 「ん? あぁ、ごめん。作業に夢中で聞いてなかった」 彼はやかんを片手に、ドリッパーから少しも目を外さない。眉間にしわを寄せ、唇の先を尖らせている表情は真剣そのものだ。 私は少し呆れつつ、作業の邪魔にならない場所に立ったまま 「あなたが下駄を履いていたら、面白そうだと思ったの」 「カランコロン鳴らして迎えに行くと、待っているんだろう。浴衣も着ていない君が」 彼の歌うような口調にむっとして、自分のTシャツの後ろを引

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