すべての面とのあいだにある厚み
(西澤徹夫|建築家)
自分にとってすべての面がこっちを向いているだけではなく、他の誰かにとってもすべての面がその人に向いている状態にあるということの確かさ。僕たちがモノを見たり触ったりすると同時に、モノたちも他の誰かを見返したり触り返したりしているということの確かさ。
絵画や建築が僕たちのさまざまな感覚の媒介となっていくことによって、なにか僕たちの営みのようなもの全体、見たり触れたりしたことの膨大な履歴のようなものが、自分と表面のあいだに近寄りがたく圧縮された空気のように漂っているように感じることがあります。
そしてさらに言えば、建物として実体化する手前の、日々更新される建築図面がまだ線の集まりでしかない時点でさえすでに、やがて建築が受け取り、跳ね返すであろう無数の視線や接触の厚みのようなものを想像してしまうときがあります。そのことがなにかとても重圧に感じるときもあれば、軽やかに揚々と線が進むときもあります。
「すべての面がこっちを向いている」という言葉を発した彼に、ぜひ自分と絵との距離がもたらすこのことについて、聞いてみたいと思いました。