中園孔二「すべての面がこっちを向いている」〜高速回転の渦の中〜

(川島秀明|画家)

中園くんを知ったのは、2013年、小山登美夫ギャラリーでの初個展でした。
当時僕はベルリンに滞在していて、直に展示を観る事はできませんでしたが、iPadの画面からも何か収まり切らない勢いを感じ、「どんな人なんだろう」と遠くから想像を膨らませていました。

初めて直に観られたのは、翌年の 8 /ART GALLERY/ Tomio Koyama Gallery での個展。
展示作業にとても時間がかかったと聞きましたが、やはりこの時も、収まり切らずに全体が動いている印象を受け、会場で流れていたインタビュー映像を見ながらも「どんな人なんだろう」と、更に想像が膨らみました。

2015年、僕はある企画で映像を撮ってくれる人を探していたところ、中園くんの親友であるアーティストの稲田禎洋くんを紹介されました。
その打ち合わせに来てもらい、近くの喫茶店に入った際、稲田くんの電話が鳴り、会ったばかりの彼は、「すみません」と言い残して即座に駆け出して行きました。
事情をよく知らないながらも、それが中園くんの消息に関わる重大な知らせである事は分かり、僕は現場に居合わせたような気持ちになって動揺したのをよく憶えています。
結局、一度挨拶を交わした事があるだけで、僕の中で中園くんは、突然にいなくなったミステリアスな存在のまま、強く残りました。
その謎を追うように、今も彼の作品を観ています。

今回のANB Tokyoでの展示は、そんな僕に、中園くんのリアルな姿を垣間見せてくれるものでした。
展示は建物の3階と4階に分かれていて、3階にはペインティング、4階にはドローイングや写真、更にはドローイングブックをページを繰るように構成された映像と、インタビュー映像が展示されています。
ペインティングも然る事ながら、この4階の展示がとても面白い!
壁の向こうでインタビューに答える彼の言葉を聞きながら、ドローイングブックに描き留められた夥しい数のイメージを追っていると、高速回転する彼の頭の中、その渦の中に引き込まれていくようです。
何処かへ連れて行かれるような、戻って来られないような、そんな感じ。
しかし彼の言葉からは、クールで自覚的な意図も窺えます。
個々のイメージを練る事よりも、次から次へと進んで行く事、たくさん描く事。
そこに脈絡は必要なく、むしろ脈絡の入る隙を与えないよう、止まらずに高速回転を続ける事。
その結果として「すべての(画)面がこっちを向いている」時に現れてくる、個々のイメージとは別の次元の「何か」、それをこそ彼は見たかったし、見せたかったのではないか。
そう思い至った時、僕が最初に受けた「収まり切らない」「動いている」という印象は、むしろ当然だと思えました。
以上は勝手な解釈ですが、僕にとって今回の展示は、中園孔二というミステリアスな存在に輪郭を与えてくれ、その面白さに改めて気付かせてくれる、そんな嬉しいものでした。

小山登美夫さんは、作家は死んで初めて作家になる、という事をよく仰います。
中園くんはそれを分かっていたのか、止まるまで完成する気も無かったのかもしれません。
早過ぎたかもしれませんが、既にその倍も生きてしまった僕には今更成し得ない事を彼は成し得たとも言え、とても眩しくてカッコイイ。
そして依然ミステリアスであり、観れば観るほど知りたくなる。
まだまだ。
僕はこれからも中園孔二を追って行こうと思っています。