無垢で複雑な「なにか」に会いたくて

(村田沙耶香|小説家)

 最初に中園孔二さんの絵を知ったのは、東京都現代美術館のコレクションに行った編集さんが、「すごい! 村田さんは絶対好きだと思う!」とメッセージをくださったときでした。そのときの印象は、「はっとするほど鮮やかで、それなのに複雑に絡みあう不思議な色彩だな、すこし怖いけれどかわいい、愛おしい」という、なんだか、無垢な感情しか生まれてこなくて、それがこの絵の力であるという気持ちでした。

 編集さんも私も中園さんの絵に魅了され、本の装丁に使わせていただきました。装丁家さんも、「とってもいい絵だった」と仰っていて、自分にとって本当に大切な本になりました。

 いつか実際の絵が見てみたいと思っていたので、今回の展覧会、物凄くうれしかったです。実物の絵は、写真のイメージとはやはり全然違うものでした。「世界」への入り口でした。絵の具の立体の凹凸だとか、素材の面白さだとかを肉眼で見ることができたのはすごく幸福なことでした。

 絵は年代がわからないものが多いそうで、絵の雰囲気などによって集められていました。それが、私にはすごく不思議で、絵の前に立つたびに、それぞれの世界の中に入って立ち尽くしている気持ちになりました。

 中園孔二さんの絵は、私をとても無防備にします。その色彩の中を泳いでいると、何時間でも漂っていられそうな気持ちになります。あどけないのに複雑な世界で、こちらもどんどん無垢になってしまう。「なにか」に会えた気になるのです。中園さんでも、絵のモチーフでもなく、本当に無垢な世界にしかいない、「なにか」、自分の中に今もいるかもしれないけれど見えない、不思議な生き物。

 今も、展覧会にならんでいたいくつかの絵に、「また会いたい」という気持ちになります。中園さんの絵は、観るだけではなく体験させてくれる。だから、これから何度も、その絵に会いに行きたいのです。