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75歳以上の医療費負担増の影響を考える

今回の改正で何がかわるのか

 2021年6月4日の参院本会議で、一定以上の所得がある75歳以上の高齢者を対象に、医療費の負担を現行の1割から2割に増額する法案が可決された。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA03C310T00C21A6000000/
(出典:2021年6月4日 日本経済新聞)

 対象は75歳以上の20%程度にあたる370万といわれており、2022年後半の導入を目指して調整にはいる。

 今回の改正法は患者さんにどの程度影響を及ぼすものなのか考えたい。

負担額を試算してみる

2020年1月4日の日本経済新聞の記事によると、2017年度の1人あたり医療費は下記の通りだった。

https://www.nikkei.com/article/DGXKZO54343010T10C20A1NN1000/
(出典:2020年1月4日 日本経済新聞)

0-14歳  163,000円
15-44歳   123,000円
45-64歳   282,000円
65歳以上 738,000円
75歳以上 922,000円

0-14歳においては乳幼児の医療費がかかるので15-44歳より医療費は高くなっているが、年齢とともに医療費は増加傾向にある。今回の対象となる75歳以上の医療費は922,000円となっている。
従来、75歳以上の医療費は一定以上の年収がある世帯を除いて1割だった。一定以上とは概ねの年収が383万円以上を指しており、これは75歳以上の人口全体にしめる7%程度である。
今回の法改正の対象は20%程度といわれており、75歳以上の人口全体にしめる2割負担の割合は27%程度となる。

75歳以上の1人あたり医療費は922,000円であり、この負担額が1割増えると試算すると92,200円、おおむね100,000円程度の負担増となる。月あたり8,300円程度だ。

次に75歳以上の収入と収入に占める負担増分の割合について考えたい。

収入と負担増分の割合について考える

今回の法改正で対象となるのは、単身の場合の年収が200万円以上かつ383万円未満の方となる。
75歳以上の方の収入が国民年金および厚生年金の2つのみだったと仮定して概算すると

国民年金:110,000円/月 
厚生年金:175,000円/月
https://mymo-ibank.com/money/3106
(出典:mymo そなえる|中村賢司 様の記事より部分的に抜粋)

となり、月あたり280,000-300,000円程度の収入があると試算される。200万円以上の年収割合が全体の27%であると考えると、平均値として試算されたこの数値に対して、中央値は試算より少ないと考えられる。
なので、200万円-383万円の年収レンジを4分割してそれぞれの年収における増額割合を考えたい。

年収200万円の場合
今回の1割負担増により92,000円/年の医療費負担増となるため、
92,000÷2,000,000=0.046 となり年収の約4.6%の負担増となる。

年収250万円の場合
92,000/2,500,000=0.0368 となり年収の約3.6%の負担増となる。

年収300万円の場合
92,000/3,000,000=0.0306... となり年収の約3%の負担増となる。

年収350万円の場合
92,000/3,000,000=0.0262... となり年収の約2.6%の負担増となる。

年収によって異なるが、概ね2.5-4.5%程度の負担増となることがわかる。
あまりピンとこない場合は、「毎月だいたい1万円、諭吉1人分くらいいなくなる」と考えたほうがわかりやすいかもしれない。

患者さんは治療を辞めるのか?

疾患による患者さんの受け止め方は違うかもしれない

今と同じ治療行為を受けていると毎月諭吉が1人いなくなる、と知ると患者さんは治療行為を辞めるのだろうか?
例えば膝や腰に痛みがあって整形外科を受診している場合、顕在化している痛みに対して治療を行っており、かつ治療行為による改善を感じられれば通院に意義を感じてくれるかもしれない。
例えば糖尿病や高血圧など慢性疾患の治療をうけている場合、ここまで順調にコントロールしてきた症状を「この歳まで順調にきているし、きっとお医者なんも念のために薬を出しているのだろう」と解釈して服用中断してしまうケースがあるかもしれない。

コミュニティが目的となって通院が続くかもしれない

たとえば私の地元の医療機関では、患者さん同士が顔見知りで診察・薬の授受を終えても30分程度医療機関で患者さん同士話している光景をよく目にする。
75歳以上で単身の場合、こういった交流の場はQOLの観点で非常に重要であり、患者さんの中には慢性疾患の治療というより、交流の場として医療機関を利用しているケースがあるかもしれない。

今回の法改正は2025年頃まで段階的に影響を及ぼす

今回の法改正は2022年後半を目処に導入スケジュールを検討する。また、外来患者においては月あたりの負担額の増分を最大3,000円までにする暫定措置を3年間設ける。
つまり、実質的に患者さんの負担が増えるのは2025年頃になるということだ。
今回の法改正単独で見た場合には全体に占める影響範囲や暫定的な負担増など治療行為に対する影響は小さいかもしれない。しかし、2割負担の対象となる年収金額の引き下げや65歳以上の負担額増など若年世代では解消できない社会保障費の膨らみを分散する時が来るかもしれない。
それらを念頭におくと、顕在化した症状に対する治療のみならず、疾患啓蒙やアドヒアランス向上の取り組みはますます重要になるかもしれない。

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