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カメラを用いる可視光通信、OCCとは?

わたしたちの日々の生活のなかで、無線通信はなくてはならないものとなりました。今回は、中山研究室の多種多様な研究テーマのうちのひとつである、OCCと呼ばれる光通信技術について、ご紹介します。


①    OCCとは?

 OCC(Optical Camera Communication)とは、送信機にLEDやディスプレイといった光源を、受信機にカメラを、それぞれ用いる通信技術です。LEDなどの光源から光信号として送信したデジタルデータをカメラで撮影し、画像から光信号を読み取る処理をすることでデータ受信を行います。いわゆる無線通信の中でも、人間の目に見える波長の光を使って通信する「可視光通信」と呼ばれる通信方法の一種です。ある意味、カメラを「目」としてデジタルデータを「視る」方法とも言えるかもしれませんね。イメージとしては、QRコードを撮影することに近いのですが、データの表現方法(符号化や変調などと呼ばれます)が異なります。

●コラム・光ってなんだろう?

 光。太陽の光、電気の光。これらは私たちが目にすることができる光です。一方で、目に見えないテレビやラジオの電波も、光の仲間なのです。電子レンジのマイクロ波や、こたつやテレビのリモコンに使われている赤外線、レントゲンに使うエックス線、日焼けを引き起こす、肌の天敵紫外線、これらすべて光の仲間です。私たちが日常的に「光」と呼んでいるものは、電磁波の一部なのです。1888年ハインリヒ・ヘルツによって電磁波の存在が実証されました。彼の名は、Hzという単位となっています。様々な電磁波が、それぞれ無線通信に用いられています。
 さて、電磁波の一部が「光」である、というのはどういうことでしょう。みんな光の仲間なのに、何が違うのでしょうか。その違いとはすなわち、周波数の違いです。電磁波と一口に言っても様々な周波数のものがあり、そのうち、人の目に見える周波数のものが可視光です。電磁波は連続した波なのですが、1秒間あたりの繰り返し回数を周波数と呼び、その単位がHzです。周波数の違いによって、性質が大きく異なってくるのです。そのうちのある領域のものが、人が認識している目に見える光、というわけなのですね 。

②  OCCのメリット

・送信機、受信機に身近なものが使える

 通信には、送信機と受信機が必要です。OCCでは送信機にLEDを使用します。部屋を明るく照らしてくれる蛍光灯などにも、用いられていますね。目に見える波長の光で通信をする方法を可視光通信と呼びます。可視光通信にも様々な手法があるのですが、フォトダイオードという特別な装置を受信機に用いることが一般的です。OCCの大きな特徴が、受信機にカメラを用いることです。現在私たちの身の回りにはスマートフォン、タブレット、デジタルカメラといったものがありますね。これらに搭載されている身近なカメラを、改造などすることなく、そのまま受信機として使用することができます。ポケットの中に入っているスマートフォンについている、そのカメラも!思いついたらすぐに手の届くもので通信できてしまいそうですね。もちろん、Webカメラや監視カメラなど既に設置されているものも含め、あらゆるカメラを受信機として利用できます。手軽で便利、それがOCCなのです。

・安全性

 私たちが日ごろ使っている無線通信として、Wi-Fiがあると思います。家にWi-Fiが設置してあるとき、家のそばまで来ると繋がったりすることはありませんか?もし、繋げたのが家族ではなく、悪い人だったらどうなるでしょう。知らず知らずのうちに、他人に不正にアクセスされてしまっている可能性もあります。セキュリティ面が不安ですね。
 そんな場合を考えたとき、OCCでは、どうなるのでしょう。部屋で送信をして、外から受信確認してみましょう!あれ?部屋の外には届きません。そうなのです。なぜなら、OCCの通信では人の目に見える光を用いるからです。懐中電灯で照らしたときに、陰をつくると、当たり前ですが光は途絶えますよね。OCCの通信でも、同じようなことが言えるのです。つまり、陰ができたり、壁があったりすると、それを超えて通信するということはありません。ということは、見えないところから知らない間に、知らない人からアクセスをされてしまう、といったことを防ぐことができるわけです。セキュリティ面を保てる通信方法として、これから活用できそうですね!


・ライセンス取得の必要がない

 私たちが普段何気なく自由に使っているBluetoothやWi-Fiといった無線通信は、それぞれ決まった周波数の電波を使います。様々な周波数の電波がありますが、中には免許を取得しなければ使えないものがあると、ご存知でしたか?電波は有限かつ国民共有の資産なので、みんなが好き勝手に使うと困ったことになります。そのため、勝手に使ってよい範囲などが電波法によって細かく定められているのです。周波数などによっては、利用に際し免許が必要になります。
 さて、ではその免許は、どのように取得するのでしょうか。無線を使うための免許には、2種類あります。ひとつは、総務省が定めている無線従事者制度というものです。無線をどのように使うかによって、いくつもの国家資格が定められています。国家試験を受けるとともに、業務経験なども合わせて認定され、免許を取得する必要があります。もうひとつは、無線免許というものです。実際に無線を扱うには、無線局を開設しなければなりません。例えば、ラジオやテレビの放送局などです。無線局を開設して電波を使うには、総務大臣の免許を受ける必要があります。免許を受けるためには申請と審査を繰り返し、合格しなければなりません。長い道のりですね…。もちろん、先ほど触れたBluetoothやWi-Fiなどは、免許不要で自由に使えますのでご安心ください。OCCも、免許を取得する必要がなく、自由に使うことができるのです。

・電波を使わず無線通信ができる

 みなさんは、スマホの通信が遅いとき、スマホを持って、電波が届きそうな場所を求めてスマホを高く掲げながら歩き回ったりしたことはありませんか?普段は便利な電波通信ですが、電波が届きにくいところや、電波を使ってはいけないようなシチュエーションもあります。例えば、山間部などインフラが十分に整っていない地域があります。また、飛行機の離着陸時など、電波の利用が制限されることもありますよね。また、5Gで用いられるミリ波と呼ばれるような高周波になると、遠くまで届きにくい、といったこともあります。OCCは可視光で通信をしますが、これは電波ではありません。ですから、電波が使えないような場所でもOCCなら使うことができる、といったことがあり得るのです。
 電波が使えない場所で、OCCが使える例は、どのようなものがあるでしょうか。身近な例として、水中が挙げられます。空気中では早く遠くまで届く電波ですが、実は、水中に入るとたちまち弱くなってしまいます(この現象を「減衰する」といいます)。水中では可視光も影響(吸収・散乱)を受けますが、そうした影響を上手く取り除くことでOCCによって通信することができます。

③  OCCの活用

 ここまで、OCCの様々なメリットをご紹介しました。身近なカメラを使える手軽さ、壁を透過しない安全性といった特長を応用して、様々な分野で活用できる可能性があると考えられます。広告や駅での案内板として使用されているデジタルサイネージを光源として活用しデータを送信する、といったユースケースも考えられます。これからOCCがどのように活用されていくのか、楽しみですね。みなさんも、OCC、こんなことに使えるかも?と街中や日々の生活の中で想像してみてくださいね。

 人々の暮らしがもっと便利になったら…そんな思いで私たちは日々研究を行っています。研究するにあたって、様々な課題にぶつかります。そんな課題をひとつひとつ乗り越えていくのですが、その世界を、次回は覗いてみたいと思います。ここまで読んでいただきありがとうございました。



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