足をあげて、腰おとせ。

最近、週末のジョギングが定番化している。


いつまで続くか分からないけれど、

今のところ、

かれこれ1ヶ月半ほど。



最初はゆっくり2km走っただけで、

もう走れないと足を止めていた。



中学時代に陸上部で

中長距離を走っていた経歴は、

もうとっくに時効切れだった。




そんな調子だから、


無理をしても続かないだろうと



「とりあえず1時間」



とだけ決めて、


あとは自由に

歩いたり、走ったり

を繰り返した。





3回目のジョギングだったか。



45分ほど走ってくたびれた私は、



さぁ、そろそろスピードを下げて

ゆっくり家に向かおう…



いやいや、

それとも歩いてしまおうか…



そんな風に迷いながら

スピードを落としはじめていた。



丁度そのタイミングで、

聞いていた音楽が途絶え、

自分の乱れた足音が聞こえてくる。








あぁ、ヘタクソな足取りだな…



そう考えていたらふと、

ある声を思い出した。



「こら〜」



陸上部の顧問だった、

佐々木先生の声だ。



「とまるな〜」


「足あげろ〜」




終盤になるとスピードが落ちる私に向かって、

叫んでいた懐かしい声。




先生の声に合わせて

足を上げると、



「もうこれ以上はムリ〜」


と思っていた速度が、

毎回、ほんの少し上がるのだ。



「歩くな〜」

「走れ〜」



記憶の声に合わせて、




私は速度を落とさず、

足を上げてみる。



佐々木先生には抗えないのだ。



スピードが、

あがる。



「腰おとせ〜」



はーい。



「アゴひけ〜」



はーい。





足音が少しずつ、

中学時代のリズムに戻っていく。



「そうそう」



あ、ほんまに?



「とまるなよ〜」



はーい。



佐々木先生ならこう言うだろう、

そんな風に考えながら走っていると、




いつの間にか目標の1時間は

とうに越えていた。



佐々木先生の声が、

大人になった私にまた、

指導してくれたのだ。



それ以降、

疲れてきたら、



「足をあげて」


「腰をおとして」


「アゴ引いて」


と、自分で唱えながら走っている。



おかげさまで、

走る距離はどんどん伸びているのに、

一度も息が切れたことがない。



3年にも満たない期間の指導が、

今もまだ、私の姿勢を正してくれるのだ。



佐々木先生、ありがとう。




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