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ファクタリングの厳しい問題状況を知ってください(企業に関係する全ての皆様へ)

 はじめまして。私は、弁護士の中谷仁亮と申します。専門は、企業法務、紛争解決(金融関連紛争等)です。

 この度は、企業に関係する全ての皆様に、金融庁が繰り返し警鐘を鳴らし、また、裁判でもその適法性が激しく争われている、「ファクタリング」の厳しい問題状況について広く知っていただきたく、noteを書かせていただくことにいたしました。

 ファクタリングは、現在の企業活動において急速に普及しており、無関係な企業は少ないと思われます。自社は利用していなくても、自社に対する債権を無断で売却され、紛争に巻き込まれるおそれがあります。
 そこで、企業に関係する全ての皆様におかれましては、以下長文で恐縮ではございますが、ご一読賜りますと幸いです。


ファクタリングは、現在、無法状態にあります

 「ファクタリング」とは、債権売買による資金調達方法のことであり、企業が有する売掛債権等の様々な債権を、債権の履行期前に売却して、早期に債権を現金化するものです。企業の皆様も、ネット広告やをDMで、「簡単な審査で」、「即日入金」などという魅力的な言葉を、頻繁にご覧になるのではないでしょうか。

 ただし、多くの皆様が誤解され、ご存知ないことは、ファクタリングに明確な法律や所管の官庁はない、ということです。すわなち、ファクタリング業は、いわば無法状態にあることを、まずは知っていただきたいと思います。

 現在、ファクタリング事業に、多くの企業が参入しておりますが、その理由は、何らの規制法規がなく、手数料をいくら取ってもよく非常に儲かるから、です。そして、主なターゲットは、銀行融資の審査が通らない等の事業資金の逼迫した企業であり、そのような困窮者から多額の利益を得ようとするものです。

二者間ファクタリングと貸金の酷似性

 特に問題となるのが、「二者間ファクタリング」というものです。二者間ファクタリングは、顧客とファクタリング業者という二者間のみの間で、契約書面の締結と金銭の交付・返済が行われ、債務者は関与しません。債権の回収は顧客が行い、顧客が、回収した資金を原資に、ファクタリング業者に弁済をします(債務者を含む三者で行われる通常のファクタリングを、三者間といいます。)。

 どうして問題なのかを端的に申しますと、取引の実態は、貸金と同じであるのに、貸金業法、出資法、利息制限法の適用がない、ことにあります。

 二者間ファクタリングは、書面と金銭のやり取りが、顧客とファクタリング業者のみで行われるという外形があり、外形上、金銭消費貸借契約に酷似します。

 のみならず、ファクタリング業者が握る、いつでも行使可能な債権譲渡通知権や債権譲渡登記設定権は、売主にとっての生殺与奪権ともいえるものです。すなわち、債権譲渡通知がされると、債権譲渡禁止特約違反を理由とする他、無断の債権売買や信用状態悪化の発覚、紛争からの回避等の理由で、債務者である取引先から取引を打ち切られる可能性がありますし、債権譲渡登記がされると、銀行融資の審査等に重大な影響を及ぼし、顧客の経営の破綻に直結し得るものです。したがって、顧客は、債権譲渡通知や債権譲渡登記を避けるために、ファクタリング会社に事実上の支払義務を負うといえ、実質的にも貸金と酷似します(貸金は、貸主の金銭の交付と借主の返済約束により構成されています。)。

 このように、現在、二者間ファクタリングは、貸金と、外形、実質共に酷似しているのに、貸金業法等の規制が一切及ばない状態にあります。

二者間ファクタリングの高額な手数料

 貸金の利息は、最大でも年20%(1ヶ月約1.6%)です(利息制限法1条、出資法5条2項)。年20%(1ヶ月約1.6%)という上限は、長い歴史を踏まえ、これ以上の利息を認めると、当該融資は資金需要者にとって有害なものとなるとして示された基準(レッドライン)といえます。

 ちなみに、1998年ころの商工ローンの問題においては、高利業社は、出資法の上限金利(当時)の年40.004%(1ヶ月約3.3%)に近い高金利を収受した結果、経済的理由の自殺者が2年間で倍増し年間5,000件超という莫大な数の倒産を生み出したとされています。

弁護士茆原正道、同苑原洋子著「利息制限法潜脱克服の実務 第2版」3頁以下

 ところが、二者間ファクタリングの手数料金額は天井知らずであり、現実には、1ヶ月あたり数%から数十%、年換算で数十%から数百%の手数料を収受するものが多くあり、商工ローンの問題と比較しても、はるかに深刻です。

 これに対し、ファクタリング業者は、手数料は債務者の破綻の危険(デフォルトリスク)等を負っているから高額であると主張しますが、当該リスクの乏しい債権(例:大企業に対する支払確実な債権)であっても手数料が高額なものも多いというのが実態です。
 そもそも、顧客にとっては、金銭消費貸借の利息か債権売買の手数料か、という名目の違いに関わらず、いずれも資金調達の手数料であることに何ら変わりはありません。資金の逼迫した企業が、レッドラインを大きく超える高額な手数料を返済することは極めて困難であり、その支払いにより経営破綻に追い込まれる可能性が高いといえます。

二者間ファクタリングの危険性

 ファクタリング業者は、「取引先にバレずに資金調達」と謳って営業をかけていますが、二者間ファクタリングは、表面的には、魅力的な資金調達手段です。

 しかし、裁判例を分析しますと、その実態は、ファクタリング業者が、債権譲渡通知権等を留保して、顧客から繰り返し利益を搾取し、最後は、債権譲渡通知権等を実行して、顧客を破綻させる、という大変恐ろしいものです。

 ご説明しますと、顧客は、銀行融資や補助金等を使い切り、緊急に資金を必要とする経済的困窮者であり、ファクタリング会社の提示した手数料額を検討交渉する余裕すらなくそのまま受け入れることが通常です。
 取引を開始しますと、顧客は、高額な手数料により余剰資金がすぐに枯渇し、他の支払もあるため、債務の履行期に、債務者から回収した資金をファクタリング業者にそのまま交付することは困難となることが多いです。
 その際、顧客は、債権譲渡通知や債権譲渡登記を避けるため、債務の弁済期に、再度、ファクタリング契約を締結して、弁済をすることが多く(実質的な借り換えです)、以後、これを繰り返して、高額な手数料を支払い続けることになります。
 そして、顧客がもはや返済不可能となると、最終的に、ファクタリング業者は、債権譲渡通知や債権譲渡登記を実行し、顧客は、債務者から取引を打ち切られ、銀行融資を受けることも困難になり、破綻に至ります。

 二者間ファクタリングは、利用した一瞬は資金繰りから逃れて楽になるのですが、繰り返しの利用に陥って、使用量が増加し、いずれは破滅に至る「麻薬」のような大変恐ろしいものです。

顧客経営者の孤立、自死の危険性

 二者間ファクタリングの顧客経営者は、取引先(債務者)に隠して勝手にその債権を売却するため、許されないことをしているような後ろめたさを感じ、周囲にすら相談できずに孤立する傾向があります。
 また、顧客経営者は、取引を繰り返し、高額な手数料を支払い続けなければならなくなると、「罠にハマってしまった」と感じることが多いですが、ファクタリング業者が債権譲渡通知権や登記設定権を握っているため、取引から離脱することや裁判所に救済を求めることは極めて困難です。
その結果、顧客経営者は、従業員の生活等を守ろうと藁にもすがる思いで利用した二者間ファクタリングが、実際には、企業の利益を大きく流出させてしまったことに気がつき、経営者保険(生命保険)をもって責任を取ろうとする深刻な危険があります。

 旭川地裁令和3年10月1日判決・D1-Law28293495は、資金繰りに窮した顧客(会社)の支配人が、二者間ファクタリングを利用し、9回取引を繰り返して債権の月十数%ないし三十数%の手数料を支払い、更に困窮して、返済が不可能となり、ファクタリング業者が債権譲渡通知をなした直後、「自殺しようと包丁を所持しているところを警察官に保護された」などと、顧客経営者が追い詰められていった状況を克明に認定しています。

D1-Law.com

歴史は繰り返すのか

 二者間ファクタリングの手口は、平成11年の出資法改正のきっかけとなった商工ローンの被害等、従前、社会問題化してきた高利業者のものと驚くほどよく似ています。

 その内容は、高利業者が、高金利と過剰な貸付けにより、借主が元本を支払い切れない状態に置いて、借り換えを繰り返させ、永続的に利息を収受し、自らは巨額の富を得る一方、借主を破綻に追い込むというものです。
 歴史上、高金利によって、莫大な数の企業の倒産が生み出され、その背後にいる役員、従業員やその家族が生活の糧を失って人生が破壊され、取引先を連鎖倒産に巻き込み、税収の減少と滞納の増加をもたらし、社会全体に大規模かつ深刻な影響を与えることが繰り返されてきました。そして、最悪の場合、個人の自死にも繋がってしまったのです。

弁護士茆原正道、同苑原洋子著「利息制限法潜脱克服の実務 第2版」3頁以下

 既に、二者間ファクタリングにおいても、同様の被害が頻発している可能性を容易に想像することができ、非常に強い危機感を抱かざるを得ません。

 特に、二者間ファクタリングの利用者は、利用の事実を口外し難いため、最悪の事態が多発してから被害が社会に噴出する可能性があります。

ヤミ金との同一性

 いわゆるヤミ金融業者は、返済期日において、利息のみを収受して返済期日を延期するジャンプという手法や、更なる追加融資をする追い貸しという手法等の手口により、借主の元本の完済を妨げて、継続的に高額な利息を収受する例があります。

 債権売買契約を繰り返させる二者間ファクタリングは、このようなヤミ金の手口とも非常によく似ています

二者間ファクタリングは違法なのか

 二者間ファクタリングの違法性は、「金銭の貸付け」(貸金業法2条1項と出資法5条3項)にあたるのではないかとして争われていますが、これは、まだ答えが出ていない問題である、というのが正確です。なぜなら、その答えを出す裁判所の判断が分かれているからです。 

 下記金融庁のホームページには、「ファクタリングが貸金業に該当しないと判断された裁判例」が2件、「ファクタリングとして行われた取引が貸金業に該当するなどの判断がされた裁判例5件、地裁と高裁の裁判例の概要が計7件掲載されています。

金融庁ホームページ

 法律の世界では、地裁や高裁の判断が分かれた時には、いずれ最高裁判所が判断を下すことになりますが、未だその判断がなされていないため、答えが出ていないといえます。すなわち、二者間ファクタリングは、現在、白でも黒でもない、グレーの取引であり、最高裁判所による判断が待たれている状況にあるのです。

 ご注意いただきたいのは、その答えを出すのは「裁判所」であり、「ファクタリング業者」では決してないということです。ファクタリング業者は、「自らは適法なファクタリング業者であり、違法な業者(偽装ファクタリング業者)には注意しろ」と喧伝することが非常に多いのですが、そのように喧伝する業者の取引が、裁判所により違法とされる可能性もあります。  

 上記金融庁のホームページには、「ファクタリングが貸金業に該当するかについては、契約書にノンリコース(売却した売掛債権等が返済不能になっても売却した事業者に返済義務は生じないこと)の規定があるかなどの形式的な要素だけでなく、経済的側面や実態に照らして判断されるものですので、注意が必要です。」とされており、ファクタリングの違法性の有無は、各取引の実態に応じた高度な法的判断により決せられるものです。

金融庁ホームページ

 また、下記の金融庁のホームページには、「ファクタリング契約や売掛債権売買契約において、譲受人に償還請求権や買戻請求権が付いている場合、売掛先への通知や承諾の必要がない場合や、債権の売り主が譲受人から売掛債権を回収する業務の委託を受け譲受人に支払う仕組みとなっている場合は、ファクタリングを装ったヤミ金融の可能性が高い」とされており、二者間ファクタリングが広く違法となる可能性が示唆されています。

金融庁ホームページ


今後の展望等

 色々と申し上げましたが、もちろん、ファクタリングが全て有害なものという訳ではありません。例えば、中小企業にとって、銀行による不動産担保融資が受けられない場合に、利息制限法の利率の範囲内で、ファクタリングを利用して資金調達ができるのであれば、有用なものとなり得ます(債権担保貸付として、貸金業法等のルールの下、運用するということです。)。

 しかしながら、何らの法規制がなく、困窮した企業から、天井知らずの手数料を収受する二者間ファクタリングは、多くの企業の破綻を招き、顧客経営者の人命をも脅かすもので、健全な金融取引秩序を著しく毀損しています。
 
速やかに、最高裁判所による判例法が形成されると共に、規制法が制定され、ファクタリングが健全な金融取引として我が国で定着するように、心から願うばかりです。
 特に、現在、二者間ファクタリングの利用と被害が急速に拡大しており、早期の対策が求められます

 もっとも、最高裁判決が下され、規制立法が制定されるまで、もう少し時間がかかる可能性があり、それまでの被害を少しでも減らすために、企業に関係する全ての皆様に、ファクタリングの厳しい問題状況を知っていただきたく、本稿を執筆させていただきました。

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