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中村修平のリミテッド解読「指輪物語:中つ国の伝承」

authored by Shuhei Nakamura

※当記事を、事前の承諾無く複製・転載・加工・配布・再出版等することを禁止します。


(1)「指輪物語:中つ国の伝承」全体の印象

キーワードをすくい上げて、デッキをまとめ上げる環境。ゲームスピードは中速で、アグロ優勢。

カードパワーは全体としては標準的。除去は絶対数に難。特に軽除去が少なく、また低マナ域クリーチャーもここ最近のインフレ具合からだいぶ抑えられている印象を受ける。

(1.1)環境定義サイズ

1/1トークンもそれなり出てくる環境なので、タフネス1はかなり苦しい。ここしばらく空気だった、2マナ1/3も意外に仕事をしてくれる。一方で、高マナ域のスタッツは非常に良く、全色で4マナ域が4/4相当。5マナ域で4/5+とかなり高めに設定されている。

マジックナンバーは4。4ターン目に出てくる4/4クラスのカード。3マナのクリーチャーではほとんど太刀打ちできず、除去で排除しようにも、タフネス4以上を処理できるカードのほとんどが5マナ相当というゲームデザインになっている。前述の軽除去難もあって、基本的にはクリーチャーにはクリーチャーで対応する構図になりやすく、これが立ち遅れると概ね取り返せない。

ここまでが環境理解の前提段階、レベル1といったところ。基本的にはクリーチャー戦主体で、お互いの盤面をすり潰すような展開になりやすい。

毎度のことながら、2マナ圏はきっちりと展開したいので、最低で5枚、できれば6枚は用意しておきたい

4~5ターン目に、高スタッツが襲いかかってくるという認識を持っておくとよい。4マナ圏のクオリティには気をつけること。4/4が基準点となるので、それより弱いカードをプレイするだけで不利場となりやすい。

まともにサイズと向き合うならば、殴る側はパワー4が必要という認識は必須。もちろん3ターン目より早く4/4クラスを作れるなら、言うまでもなく強い。この事情により土地はなるべく伸ばしたいので、17より少し多め推奨。

ただし、4/4クラスが出せたからといって、それで盤面が止まらないのがこの環境の特色。指輪の誘惑から誰も逃れられず、その4/4も対戦相手を倒すためにひたすら攻撃に駆り出されてしまうことになる。

(1.2)土地と土地サイクリングの枚数について

土地は、土地サイクリングを1枚入れた上での17枚。あるいは、土地サイクリング3枚に土地15枚あたりくらいまでの構成が今のところしっくりきている。

ちなみに、土地サイクリングカードについては土地1枚+それ自身でキープが可能なので、ほぼ土地と換算している。厳密にいうと、タップ状態で場に出る土地の亜種といった扱い。土地16枚+サイクリング1という構成も5マナが頂点の構成ならそれなりにやったりも。

4枚目以上に関しては、そもそも手番を消費してただの基本地形を取ってしまっているだけになりかねないことに加え、表がほぼ6マナと高コストなのも減点。手札にありすぎると、終盤の2アクションができない事態になってしまうとそれなりによろしくないため否定的。

複数枚あっても嬉しいのは、単体でゲームを決めうる能力を持っている《カザド=ドゥームのトロール》と、リソースカードでもあり、墓地にソーサリーが落ちることに価値もある《ロリアンの発見》までで、目指すゲームの方向性としては合致しているものの、マナコストが重すぎる《北方の大鷲》が境界線上で2枚までギリギリで許せるかなといったあたり。

他の6マナ域のカードもあるからね

色のタッチについては、あまりマナベースに負担をかけるのはお勧めできない。中盤カード達の質が高いので、色マナ事故によるターンロスが致命傷となる。

この環境に《進化する未開地》はない、ということを念頭に置いたほうが良い。《ホビット庄の段々畑》は序盤の土地事故リスクに繋がりやすく、必要な土地を持ってくるには都合2マナが必要と、序盤の1ターンをパスしないといけないし、《城塞の大広間》はほとんどの場合ただの無色土地。黒だった場合、これで《いとしいものを取り返す》が打てなかったら夢に出てしまう。

同じように、土地サイクリングもやはり《進化する未開地》ではない。土地事故を減らすために、3色目の土地を1枚に絞るという構成に使えなくはないが、そうした場合6マナのカードが手札にあるだけというリスクも許容しないといけない。

タッチする場合は、極一部のスーパーカードを土地では最小限に、それ以外のマナ獲得手段、《ウォーゼの先導者》や宝物といったものを用意しつつで運用したい。

ダメ案件

(1.3)各種キーワード能力と指輪があなたを誘惑する

環境全体を見渡したときに、特徴的な箇所がもう2点ある。

1つ目は、キーワード能力がひたすら散らかっていること。特定のカード、キーワードに複数の属性が重なっていることが多々あるし、キーワード能力同士にかなり親和性が高く、実質的にはほぼ同じようなものということも結構あったりする。

現実的に、ドラフトで単一キーワードのみでデッキを作るというのはほぼ不可能で、メインとなるキーワードを定めてそこに相性の良いキーワードを重ねていくというのが定石となってくる。

もう1つが、攻撃に向かうことへの報酬が非常に多いこと。そのどちらにも密接に絡んでいるのが、「指輪があなたを誘惑する」。まさに環境の核、このキーワード能力だけは主軸となることはないが、どのキーワードを主軸においても2番手あたりに収まってしまう。

接着剤的な、いや原作的な言い回しを使うと、全てを統べているというのが相応しいキーワードで、この環境でドラフトでは必ず相対する要素になる。

効果としては主に3点。

A:伝説のクリーチャーにすることによる伝説キーワード補強
B:小型クリーチャーへの補強。特にブロック制限をつけることによるアグロ支援
C:攻撃時ルーター(カードを1枚引いて1枚捨てる効果)によるドローサポート

Aに関しては、運用するのに不足気味な伝説キーワードの補強。そして、環境をアグロ有利へと決定づけているのがBとC

優秀な4マナのブロッカーを出されても、ブロック制限能力のおかげで低マナクリーチャーが攻撃し続けられる状況を維持することができる。

Cの攻撃時のルーティング能力、特に後半戦でのマナフラッドの抑制が可能なことによって、更に殴りに行くことへの強力な利益誘導となっている。

それにしても、第2段階の盤面に与える影響は本当には大きい。デザインとして自動的にブロック制限がつくので、序盤の小型クリーチャーで立ち上がりの土地不足/カード不足に対応できるし、後半の大型クリーチャーのみが単騎でブロッカー不足といった状況にも対応できる。

何より、戦況にかみ合っていないキーワードカードを違うカードに入れ替えることができるので、デッキの弱さをある程度まで補ってくれる。クロックをかけつつ、対戦相手より倍のカードを引いているのだから、この状況になればだいたい勝っている。逆に対戦相手にこの状態を一方的に維持されてしまうようなら、まあ終わりは近いとしか言いようがない。

第3段階は、そもそも小型クリーチャーを保持者にすることが多く、その場合、ブロックされたときはだいたい相打ちになるのでほぼ空気。

第4段階は、保持者の打点が跳ね上がるという点でかなり価値があるが、達成への手間が非常に大きく、やはり単体で考えるとコストには見合っていない。どちらかというと、保持者を除去されて乗り換えを繰り返していたら勝手に付いてしまう、という感覚になる。

とりあえずは、第2段階にまでいけることが重要。そのために運用するのであれば、ある程度はまとまった数の誘惑付きカードが欲しい。理想としては、序盤はただのブロック不可クリーチャー、中盤で処理しないといけないルーターとして除去されて、もう1度誘惑されて隣のクリーチャーが保持者になるといった流れ。

だいたい5~6枚くらいが理想ではあるが、現実としてはダメージを通すのが主目的の3~4枚運用というのもよくある。単体で複数回の誘発をしてくれるカードは、もちろん評価が跳ね上がる。

それと指輪の誘惑付きカードの使用上での基準点は、1ターンを費やす何かのついでであること。単体の効果として見るなら、序盤の1ターンをただ誘惑されるだけに費やすのはコスト対効果でとても見合ってない。誘惑はあくまでおまけ、そもそもとしてそのカードが適正ターンにプレイされたとしてその価値があるかが焦点となる。

いとしいものを取り返す》がソーサリーとはいえ、環境基準から2マナも軽い確定除去+指輪の誘惑でトップコモンというのは分かりやすい。1マナと軽いので2アクションを取りやすい、実質的に3アクションともなりうる《サムの捨て身の救出行》や《誕生日の旅立ち》。

ウルク=ハイの狂戦士》や《容赦なきロヒアリム》、《怒り猛るフオルン》がやや弱めとはいえ、マナ域的に及第点のスタッツに指輪の誘惑が付いているので、プレイアブルなのは分かりやすいと思う。

0-3請負人

逆に本人が死なないと誘発せず、出したターンに戦線に影響を与えない上に大したスタッツも持たない《トゥック家の収穫人》や《鏡の湖の守護者》、唱える機会が受動的で、攻撃を通すために自分から使うことが難しい《指輪嵌め》や《嵐のごとく恐ろしき》、マナ加速と補正というアグロにとって事実上のターンパスな、《受け継いだ封筒》あたりは運用において難がある。

当初から評価が上がったのは、序盤で打点を稼ぎつつ、ある意味適正ターンで誘惑へと変換できる《ロヒアリムの槍兵》や、最も倒したいクリーチャーをなかなか倒せないので、類型的にはかなり使いづらい除去ではあるのだが、誘惑がついたことによってダメージを通す目的で、必ずしも本命を倒さなくも良くなった《旅の仲間の断絶》あたりは使ってみると意外とカードだった。

これですら、出たターンに何もしないので思ってたより強くないという印象を受けてしまった

ここまでが環境序説。これらの要素を踏まえて、求められるデッキの形としては下記のようになる。

・マナカーブ通りに展開できるなるべくシンプルなマナベース
・クリーチャーを主体として攻撃的に立ち回れる構成
・できればまとまった量の指輪の誘惑
・除去カード
・コスト比で損になりやすいが、サイズが大きな相手を倒す確定除去
・可能であれば、序盤の展開を担保するためと指輪保持者を排除するための軽量除去

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