閃光という眩しい記憶媒体。

機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイを遅ればせながら鑑賞してきました。恥ずかしながら3部作とは知らず、モビルスーツも出てこずにゆっくりと人間模様を語って聞かせるようなストーリーに、(これ95分で終わるのか…)と不安になりましたが、半分過ぎたあたりから、(こりゃ絶対に今回じゃ終わらん、次がある)と確信して、世界に飲めり込めるようになりました。よかったポイントは3つ。ハサウェイのデザインが、過去作品の延長線上でありながらもスタイリッシュである事、アレクサンドロスが歌う主題歌「閃光」がかっこいい事、登場人物の心理描写が丁寧に描かれている事です。

まずハサウェイのデザインですが、Zガンダム登場時の7歳から逆襲のシャア登場時13歳を経て、今回閃光のハサウェイでは25歳と成長しています。13歳からの癖っ毛のような飛び跳ねた毛は25歳でも健在で、逆に目は13歳の頃よりも若干7歳の頃のようなつぶらな瞳の延長線上に進化しているように見えました。白兵戦での格闘センスを感じさせる動きを可能にする、しなやかな筋肉、決してマッチョ体系では無いので実戦的な筋肉と言えるのでしょう。物語前半はスーツ姿ですがジャケットを脱いでウロウロと街を歩く姿は、夏の暑さの外回りで疲れるサラリーマンを思いださせてくれて、コミカルで親しみが持てました。後半、ようやくノーマルスーツを着込みますがアムロの白と対比された黒のスーツは、テロという手段しか取りえなかったハサウェイの背景を表現しているようにも思えました。

次に主題歌の「閃光」。今回の映画のためにロックバンド「アレクサンドロス」が書き下ろしたと曲だそうですが、ハサウェイの歩んできた歴史と現在の行動理念をよく表している歌詞だと感じました。「当たり散らし乱れた 認めたくない過去思い出して」これは、おそらく逆襲のシャアの時に、誤ってアムロの恋人だったチェーン・アギを撃墜してしまった事を詠んでいるのではないかと。その上で、「気づけばいつのまにか 新しい世界に染まり出していく」テロ組織マフティーのリーダーとして歩んでいく自分がいたと。スピード感バッチリのこの曲は、閃光という名にふさわしい、一筋の光を放っていると思います。「鳴らない言葉をもう一度描いて」「赤色に染まる時間を置き忘れ去れば」この部分も、もう還らないシャアとアムロの言葉を思い返して、シャアの理想を求める自分との対比を比喩しているのではなかろかと感じます。

そして最後の心理描写。本作のヒロインでありトラブルメーカーでもある19歳のギギ・アンダルシアは奔放に見えて繊細、大胆に見えて保守的な相反する様相を見せますし、敵の司令官であるケネス大佐は豪快、快活そうな人柄の中にある「抜け目なさ」を醸し出し、そしてハサウェイの中には、非常に成りきれない「育ちの良さ」を垣間見ることができます。マフティーの姉御であるエメラルダ・ズービンが宇宙空間で流す涙が正規パイロットになれなかったことに由来するのも、サブキャラクターの性格や心情にもきちんと背景を入れて表現をしていると感じました。脇役などない登場人物それぞれに歩んできた歴史があり、その上にこの話は成り立っているということです。

僕は11歳だった頃、小説版「閃光のハサウェイ」を読みました。今では全く内容を覚えていないので、幸いなことに映像を新鮮な気持ちで見ることができます。3部作すべて見終わったら、小説版を読み返すのもいいかもしれません。それにしても、当時11歳だった自分が読んでいた小説を、30年後の世界でブライト・ノアと近しい年齢になった自分がその映像作品を観ることになるとは。ガンダムというコンテンツの強さを感じずにはいられません。それと共に、今はまだ小さいと思っている自分の子供達も、すぐに彼らだけの物語を描くようになるのだろうなと思うと感慨深くもなりました。ブライト・ノアのように年を重ねるのは(出世も!)難しいですが、ランバ・ラルぐらいの潔さを持って生きていきたいと思います。彼は1年戦争時35歳のようですが…。

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