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原木が手に入らない!?

秋の自然生えのしい茸『秋子(あきこ)』の収穫が終わると、次のシーズンに向けての準備が始まります。原木の準備と、原木に植えるための菌の準備です。今回は、原木の準備について書きます。
仲しい茸園では、できる限り地元北摂地方の里山からの調達を続けて、里山との共存を目指しています。しかし、その原木の調達もいろいろな理由で手に入りにくくなっています。今回は原木を伐りだす現場に行って、原木を手に入れることの難しさを教えてもらいました。

今年の原木を伐り出している現場

先日マモちゃんに今年の原木を伐り出している現場に連れて行ってもらいました。今年は能勢町の一角をメインの調達先として、伐り出しています。軽トラで山の麓まで行き、山道を登っていきます。
マモちゃん ず~っと、このエリアはいい樹だね
ツトム どう見たら良い樹なんですか?
マモちゃん クヌギだね、30年前に人が植えたところだと思うよ。台(伐り株からひこ生えしている状態の樹)が少ないでしょ。全部若い樹だね

原木の伐り出し作業をされている後北さん

ブウィ~ン・・・・・

チェーンソーの音が聞こえてきます。奥で原木を伐ってもらっている後北(うしろきた)さんが見えてきました。後北さんは、うちの原木を伐ってもらうのを依頼している方。山につけた道の上いっぱいに伐り出した原木が並んでいる。樹の上をジャンプしながら道を登っていきます。

ツトム こんにちは、ご無沙汰しております!帰ってきたので山を勉強させてもらいに来ました!山につけた道に、伐り出した原木が所狭しと並べられていて、思わずバランスをくずして転んでしまいました(笑)すごいですね!
後北さん ははは、そう。全部道に集めてるんで。

ちょうど燃料が伐れたタイミングだったそうで、降りてこられました。

マモちゃん やっぱり、良い樹やな~。ちゃんときれいな年輪入っているし。

伐りたての原木 年輪が分厚くとてもいい感じ!

ツトム 良い樹が多いように見えますが、このあたりは若い樹が多いんですか?
後北さん
 そうやね。多分30年たってない、25年くらい、、かな。多分このエリア、昔も伐っているエリアなんですよ

このエリアは、森林組合の方が30年ほど前に一度伐っているようで、その時にクヌギを植えておいてくれたおかげで、今とても良い樹が採れているんだそう。クヌギの原木はしい茸の榾木の他に、薪ストーブや、炭焼きの原料など需要は多いそうですが、今では伐り手が少ない。後北さんはその少ない伐り手の一人だ。


シカ対策も危険が伴う

マモちゃんが、伐りだした樹を指さして言いました。

マモちゃん 伐った切り株から生えてくる芽を食べられないように、中伐りにしているんだよ

確かに、通常の台場クヌギよりもずいぶんと高い位置(人の顔の位置)で伐られています。シカがせっかく生えてきたひこ生えの芽を食べてしまい、樹が回復する前に枯れてしまう『シカの食害』を受けている現場が多いのは聞いています。これでは、里山の再生が続きません。

後北さん この高さで伐れば、上から(山側から)食べれても谷側は食べられへんよ。基本足元が寄り付きにくいように伐っているんですよ

山側から人の顔ぐらいの高さで伐っておくことでシカが山側に生えた芽を食べたとしても谷側に生えてきた芽までは食べられないように工夫して伐っておられました。

マモちゃん かといってこれ以上顔の上で伐るのも、危ないんよね

あまり無理な体制で、樹を伐るとチェーンソーがキックバックして(作業中に意図せずチェーンソーが作業者向きに急激に跳ね上がる現象)大事故になってしまいます。

後北さん 樹も若いので、芽が立つ(芽が生えてくる)と思うよ。ナラと違って、クヌギは元気だったらすぐ立つからね。シカはナラが大好き このエリアはクヌギばっかりやから大丈夫や思いますよ

私たちもできる限りの工夫をしてシカからの食害を最小限に食い止めたいと思っていますが、なかなか簡単なことではないのですね。。


生物多様性との共存

今年原木を伐っている山は、ゼフィルスというシジミチョウの一群が生息するエリアに隣接する山になります。となりの山はゼフィルスの森と言い、自然保護団体の『大阪みどりのトラスト協会』さんが管理されておられ、今回の原木の伐りだしについても、相談して伐るようにしてくれています。

後北さん 蝶々については、始めに会話したよ。伐り始めに、こっち側にしか生えてない樹があるから調べに来たんよ。こちらは、鹿対策でこの高さで伐るけどという話をしたところ、どうも先方は柏の樹を大事にしていらっしゃるんですね。柏の樹を伐らずに残した方がいいのか、伐って芽を出した方がいいのか聞いたところ『伐って芽を出してください』と、こんな高くなったら無理なんでということで、同じように伐ってますよ。今朝も少し来られて会話しています

結局、里山の樹が更新して若い樹が育つことで維持される里山の生態系も、私たちも何も知らないと傷つけてしまうことがあると思います。こうして教えてもらいながら、一緒に守っていければと思います。
ところで、どれが柏の樹なのかわからなかったので、後北さんに聞くと、、

後北さん 柏、柏はと、、、、、。あれが柏の樹なんよ

と、指さして教えてくれましたが、僕には他の樹と見分けがつきませんでしたが(笑)

温暖化の影響も・・

後北さん あと、今年は樹の水上げが止まらなくて、ずっと水を上げたままやったんよ。12月15日くらいになってかな、ようやく寒くなって止まったんですよ。もう伐ったら、水がぽたぽた出てくるくらい。暖かくなったら樹がすぐ水をあげてしまうから、伐り始められる時期が年々遅くなってしまって、、

しい茸の原木に使う広葉樹は、春の芽吹きどきから秋の10月頃まで水上げが大変盛んな樹木で、根から水を樹木に吸い上げています。この辺りでは11月末ごろの寒くなるまで水上げしています。原木の伐りだし作業は、通常寒くなり水上げが終わった時期に行われます。ところが、最近は12月になっても暖かい日が続いて作業になかなか入れないんだそう。でも、なんで水を上げている樹を伐ってはだめなのでしょうか?聞いてみると

後北さん 水を上げている樹は、皮がめくれやすい。で、クヌギは特にめくれやすいからね

マモちゃん しい茸の栽培に原木の皮は大切だからね

しい茸栽培において、原木の樹皮はしい茸の菌が活着するのを助けるためとても大切な存在。水上げをしている樹を伐ってしまうと樹皮がめくれやすく、良いしい茸が採れない。ただ、年々冬が短くなってきており、原木を伐りだせる時期が少なくなっているんだそう。梅が咲くころには菌入れがはじまるので、それまでにはある程度の原木を確保したいところですが、作業が12月末からしか始められないとなると大変ですね。。


来年伐る山は今のところない

マモちゃん 今年はこれだけまとまった良い樹がある場所を、知り合いに紹介してもらったので、伐ることができたけど来年はないよ。こんないい物件はなかなかないんよ。仮にあったとしても、人のつながりがないと伐らせてもらうこともできないからね

今年は人のつながりで、ありがたいことに素晴らしい山を紹介いただけたのでこうして原木を伐りだすことができていますが、住宅地が近くにできてしまったり、山の樹が年を取りすぎてしまっていたりして、年々伐りだせる山が減っているのだそう。来年伐る場所は今のところ見つかっていないと聞いて、原木しい茸栽培を続けていくことの難しさを感じました。

最後に、お話を聞かせてくれた後北さんにカメラを向け写真をおねがいすると

後北さん この頭は、、やめて。今日夕方やっと散髪以降思うてたのに~。山男やん。ははは~。

と最高の笑顔をくださいました!後北さん、手を止めてしまいすみませんでした。ありがとうございました。

いろいろと、なかなか難しいこともありますが、できることを積み上げて楽しく進んでいきます!

伐りだした原木と後北さん


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