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2022年 91冊目『中世幻妖』


松岡正剛さんの塾AIDA(日本語としるしのAIDA)の課題図書です。
ポイントをまとめておきます。
事前課題を書くためです。



ざっくりいうと

現在の中世像は近代のフィルターを通して
それもアメリカなどと戦争をする際に
かつての中世の日本は(西欧に負けないくらいの)素晴らしかったのだという事を探したかった

だから、確証バイアスで良い所をパッチワークしている可能性がある
西行、実朝、世阿弥、平家物語、歎異抄もそうだ!


・中世的な定義が難しい
・無常が中世の本質などというステロタイプの人が多い
→「時代に本質などない」が筆者田中貴子さんの立場
→近代知識人は「近代というフィルター」を通して中世を描いた

本書の問題意識
・中世的とは何か
・中世のイメージがステロタイプとなった原因は何か

時代区分
・三分法:過去・現在・未来
→今ここ:現在と始原としての古代に挟まれた中間の時代

近代知識人の定義
・近代:明治から現代

・近世:江戸時代までは町人文化が力を持っていた
    当時の知識人(武士、町人、僧侶)は国家的アカデミズムに所属していない

・知識人:知性のある人では定義が難しい
→アカデミズムと切り離せないエリートの事
→歴史の転換期に社会的に要請される知的開拓者←エリートとしての知識人
→人類の両親ともいうべき哲人王(の小集団)⇔俗人の集団

・日本の知識人
→外国崇拝の傾向が強い


1発見された中世

・「奈良朝や平安朝は中世でよいではないか」井上章一
→中国史の区分から見ると

・近代というフィルターがかけられた中世
 西行、実朝、世阿弥、平家物語、歎異抄

・日本国民の中世:教科書が教える
→鎌倉幕府(武士の世の中)~豊臣秀吉の太閤検地 12世末から16世紀末の400年

・宮崎の言う中国の中世
→隋・唐(581~907)から。その後の宋代は近世
→だから、井上は奈良や平安を中世という
※日本の主流の見解は、宋代以降が中世

西洋史学をモデルとして
・中世はなんだかわけわかんない中途半端な時代をとりあえず呼ぶ言葉として現れた

2日本における「中世」の誕生
日本文学史から
・古代、平安、中世、近世、近代
・奈良、平安、鎌倉、室町、江戸、近代
・筆者が問題にしているのは、日本文学史における「中世」

西洋史学の三分法から(独自の)五分法へ
・明治32年:1899年 上古ー中古ー近古ー近世ー現代
・明治41年:1908年 太古ー平安ー中世ー江戸ー明治
・明治39年:1906年 古代ー中世ー近世ー最近性
・大正13年:1924年 上古ー中古ー鎌倉室町ー近世ー明治
・大正3年:1914年 情中心の時代ー法中心の時代ー道中心の時代
・大正5年:1916年 貴族文学の時代ー武士文学の時代ー平民文学の時代
・昭和7年:1932年 上古ー中古ー近古ー最近世
・昭和17年:1942年 平安・鎌倉・室町を中世

平安と近世のゆくえ
・西洋史学的な三分法
→古代:奴隷制の時代、中世:封建制の時代、近代:資本主義の時代
→日本では、奴隷制?江戸時代も封建制だ!
→中世は暗黒的なイメージが尾を引く
→平安と近世が三分法の隙間を埋めると五分法
→五分法でも、院政期と安土桃山時代が入れられない
  院政期:今昔物語集、新古今和歌集

3中世は中世に生まれた
白石と真淵の中世
・白石の中世:武人の世:平安中期の摂関期の終焉~江戸時代の治世
・真淵の中世:理想の上代(かみつ代)、唐文字が入ってきて中途半端になった中つ代(現在まで)

暗黒時代
・大過去と現在にはさまれた「暗黒時代」、これは西洋歴史学の中世と似ている

時代意識のめざめ
・三分法の始まりは古来風定抄

4中世文学のイメージを決めたのは誰?

・古典といえば源氏物語
→鎌倉時代後期の「とはずかたり」→レビュアーは皆平安時代だと勘違い

中世「本質論」の恣意性
・中世=武人の時代、平家物語、徒然草のイメージ
・中世の上限と下限が明確にならない
→外側ではなく、内側から時代区分をする(中世の本質論)
・平安末期の「さび」と芭蕉の「さび」は同じであり得ない←長い時間経過がある
・「幽玄」も同じ
・内側を見ようとして、結果的には外側にある何らかの理念を作品に当てはめているに過ぎない!
・中世文学の対象も限りなく広がっている。あまりにも多種多様すぎるのが現状!
→「本質」があるかどうかも疑問

5「日本文化の根源」は中世にありや

時代祭に室町はなかった
・京都の祇園祭、葵祭、時代祭→これには室町の風俗を表す行列が無かった
→足利尊氏は逆賊!だから室町時代は無かった→京都の文化が花開いた時代→加わった
→日本的なものは、室町時代に成熟:書院造→現代の住宅建築、庭、茶道、華道、能、禅

理想化された東山文化
・足利義満時代:北山文化:華麗
・足利義政時代:東山文化:枯淡
→日本文化、茶、庭、能
・フェロノサ:政治的に義政は無力だが文化的創造には力があった:メディチだ
→現在では否定
→西洋歴史学がルネサンスを意識
→1高利貸しが繁栄、2同朋衆(脳芸能集団)、3古典復興や研究が盛ん

6 東山文化へのゆれるまなざし
花の乱の弊害
→これでイメージが広がった

東山文化優位論
・サイデンステッカー、ドナルド・キーン
→足利義政に対して、フェノロサと類似の評価
・平安文化はみやびだが頽廃的→相対的に東山文化を上げる

日本的なるものというテーマ
・中世は日本的な宗教と道徳の基礎が作られる→日本的な基礎的性格が見られる
・東山文化が、日本人精神の形成と関係
・応仁の乱が太平洋戦争のアナロジー
→苦しい時代に生きても、戦意発揚のためのモデルケース!

Ⅱ旅する西行
1西行、実朝、世阿弥はまるで「三題噺」

主人公にむかない3人
なぜ有名になったのか?
→正剛さんも取り上げている
中世トリオ(西行、実朝、世阿弥)

・評論家と小説家が彼らを何度も取り上げている
→歌人や俳人、詩人といったジャンルで一括
→西行と世阿弥は 「道」:プロフェッショナルで真摯

芭蕉の憧れ
・西行の自作:山家集の和歌:謎多き人物
→旅する歌僧、漂泊の歌人

2漂泊の歌人と呼ばれた西行
西行背負の由来
→後世の人がつけた

西行がなぜ旅をしたのか
→実は旅をしたのは3年くらい??

私だけの西行
・白洲正子
→800年も伝承されたので信じたい

3西行は何度富士を見たのだろう
旅に生きた歌人
様々な仏僧の所業が西行に集約している
江戸時代に絵になっていて、そのイメージが増幅している
反・旅する西行
・和歌をもって旅をしていたと考えるのは早計かも
・西行は裕福でもあった

西行は荒野を目指すか?
・宿は鎌倉時代に発達したので、縁者を頼ったのではないか

4僧としての西行をめぐる論争
西行は高野聖か
→厳密に異なる

修行としての旅
・何宗で、誰につき、何を目的に旅に出たのかも分からない

勧進聖論争
・これはあり得たのではないか

5想い人さがし(その1)
想い人はただひとり?
・問題1 文学と史実を混同させる
・問題2 想い人を1人にする(複数いてもおかしくない)
・西行の出家の理由
→厭世、失恋、政治的理由、和歌や数寄への志向 など諸説あり

西行の恋歌
・数ならぬ心、月
→想い人に結び付けて解釈

身分違いの恋
・待賢門院たまこ(王へんに章)、待賢門院堀川

年上の女性・堀川
・金葉和歌集の勅撰集に入集している歌人(西行より14~25歳年上)

6想い人さがし(その2)
2人は女の肖像
・詳細不明な尼僧が待賢門院たまこと言われている

妖艶な女院
・西行と待賢門院は何らかの関係はあったようだ
→美貌(上述の肖像の影響?)、性的な放埓さ

芹摘み説話の影響
・身分の低い男が貴女に恋する
→類似の話がたくさんある


Ⅲ実朝のかげを追って
1実朝がはやる時代
実朝にまつわるイメージ
・けけれ 万葉集の東歌にある「こころ」の東国方言
・実朝:近代知識人が好んで論じた中世人の1人
→万葉調

悲劇の詩人
・万葉調は屈折する青年の魂の叫びか?鎌倉と京のはさまで揺れる激動の28

年間の軌跡!
・悲劇性
→28歳で甥の公暁により殺害
→北條義時の傀儡としての将軍
→金槐和歌集(実朝の内面、力量も分かる)

実朝世代
・悲劇の詩人
→1935年代、太宰治や小林秀雄が取り上げた
→1970年代、中野孝次、吉本隆明が取り上げた

実朝=万葉調という構図
・賀茂真淵が実朝は万葉集の影響を受けている
・正岡子規や斎藤茂吉も同様の評価
→文尾の「かも」という終助詞が万葉集に多く見られる
→単純な語を畳みかける口調
→超革新的で素朴派→万葉調!

2沈鬱な青年・実朝
近代人の無言の拘束力
・小林や太宰の影響が宇月原の本に大きく見える

太宰と大佛ー乗り越えるべき実朝像
・実朝のイメージ:関東武士なのに都に憧れて和歌ばかり作る
→太宰は、プラスと捉えた
→大佛は、強い実朝(義時を超えるために官位昇進にこだわった)

実朝の顔
・学生に想像させると、マッチョな男を思い浮かべる人はいない

3秀雄VS秀雄

金槐和歌集という方法
・慈円:公暁が武士の家から出たのも問題だが、殺された実朝は不用心で愚鈍な大将

インテリゲンチャの憂鬱
・小林秀雄:沈鬱で憂悶する孤独な青年詩人
→小林がこう読みたい実朝

小田切秀雄の舌鋒
・小林自身の理想像であり、実朝の真実は二の次

4遠い地鳴りの様な歴史の足音

実朝という面をつけて
・小林の影響を受けて実朝を論じる知識人が多い

詩魂という抵抗の思想
・実朝は沈黙し、無常を観ずる。何もしないことが、何かを饒舌に語る
→詩魂、詩精神=ある状況においてインテリゲンチャが取るべき姿勢

太平洋戦争のメタファー
・白洲正子:小林の上澄みだけを飲み干し、感情と感性で「美」を語ろうとした

5「近代の超克」と実朝への道
中野孝次の「東国」回帰
・京と鎌倉(関東)の対比と西洋と日本の確執
→実朝は京文化がない鎌倉で表面だけ京文化をまねた。それは日本と同じ
→実朝は定家に歌を学び、京から妻を迎えた

近代の超克
・座談会:文明開化以来支柱として西洋(近代)が、日本の敵となった時、
日本がいかにして自分を取り戻すのか

純粋な日本という幻想
・急速な西洋的な近代化は、日露戦争から大正時代にかけて綻びを見せた
→資本主義に搾取される労働者、中央の繁栄と地方や農村の衰退

6「万葉調」の使い道(その1)
戦時下の万葉集
・平城京遷都1300年記念事業に万葉集は欠かせない呼び物であった
・万葉集を国民的歌集にする動き
→近代に天皇から庶民までの歌を網羅した国民歌集
→西洋近代に侵される前の日本を発見する必要があった

実朝歌は万葉調か?
・真の日本の発掘と関わっている
・当時の流行りの新古今調のものが多い(という説もある)
・子規は、中身のない新古今集が流行る中で万葉調の歌を作れる実朝は偉い!

斎藤茂吉の評価基準
・実朝に先天的に優れた素質があり、万葉集の歌の心を理解し得たから
・万葉集の熟読もしていた

7「万葉調」の使い道(その2)
金槐和歌集の発見
・吾妻鑑によると1213年定家から実朝に万葉集が贈られた
・川田順:実朝歌→万葉体60、新古今体174、古今体488、実朝創造体27

万葉調への拒否感
・万葉調の特徴
→雄々しさ、古代風、おおらかさ、線の太さ、素直さ、明るさ
・小林は、実朝を万葉調と言ってはいけないというが、説明していない
→小林は、万葉美学が嫌なのだ

8祭祀の長者としての実朝
帝王の詠むべき歌
・民を思う歌

祭祀の長者説の不可解さ
・吉本隆明が実朝を祭祀の長者と呼んだ
・頼朝は祭祀を司り、政治は北條時政、義家、政子が担当

帝王体と王侯体
・鎌倉将軍の代表は頼朝
・実朝は武ではなく文を求められた
→しかし祭祀と結び付け、慈悲をかけ、神仏の力で天地を動かく=帝王
・後鳥羽院の帝王体と実朝の王侯体

Ⅳ世阿弥という名の芸術家
1発見された世阿弥
日本人になりたかった男:立原正秋
・好んだ中世人の筆頭 世阿弥

世阿弥知らぬ能楽師
・世阿弥の著作の実物が公開されたのは明治末期
→風姿花伝を含む世阿弥十六部集
→本格的な研究+外国演劇の評価基準が援用+世阿弥が個人としての芸術家
→世阿弥の評価は近代知識人による
・世阿弥を男に寵愛された美しい稚児と捉える問題点
・能役者は口伝で伝わったので無関心

聖なる稚児
・風姿花伝:まず、童形なれば、なにとしたるも幽玄なり

男色の衝撃
・白洲正子が賛美

2 韋駄天婦人、おおいに世阿弥を語る
「オカマ」か稚児か
・白洲正子が何度も取り上げる
両性具有の美
・白洲は、能で女性になる際に、なりきっては女体は死ぬ。(これがオカマ)
→女でもあり男でもある両性具有≒児姿は幽玄の本風なり(世阿弥)

男になりたい女の願望
・白洲:女が男に越境することは論外
・キーン:しろうとの能で本当の女の人が舞うでしょう。ほんとうに気味が悪い

3「芸術家」世阿弥の登場
能と歌舞伎の位相
・能を歌舞伎役者が観に行き参考にすることはあっても、逆はない

作者という存在の登場
・世阿弥:日本初の個人としての芸術家
→能が芸術として歌舞伎より上に置かれた背景

芸能者から芸術家へ
・五十嵐力が能を中世文学の精華として国文学史にデビューさせた
→世阿弥は芸術哲学を作った偉大な文芸評論家
→シェークスピア、モリエール、ワグネルにも比するべき
→稀有の天才
「近代人」という評価
・1936年から20年間の世阿弥能楽論研究
→近代人と同じ分析をしている

4世阿弥評価から中世の問題へ
近代的な行為
・世阿弥を西洋の空間芸術家個人と比較する

西洋のライバル
・世阿弥は、〇〇のように素晴らしい
・キーン:世阿弥は全世界の戯曲の中でもすぐれたものの1つ。

スタニスラフスキーとの比定
・旧ソビエトの演出家兼俳優のスタニスラフスキーと比較される
「わが国」の文化人
・能は、日本人による、日本人のための、日本人の演劇の源流
・日新日露戦争時に、日本人がいかに文化的に優れた資質をもつのかを過去のテクストに求めるのは必然

中世的なるもの
・何が中世的なるものか
→答えが出ていない
→批判してきたが、問題の立て方に無理があった
・近代知識人は、中世を中世と名付け発見したことによって、内実を本質という言葉で語らなければならなかった
・中世は解釈されるものであり、その解釈は時代とのかかわりで流動する

あとがき 本書はなぜ書かれたか
・今自分が生きている近現代と中世とを何かの形でつなぎたいという願い

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