デンソーの燃料ポンプリコールの根底にあるもの

デンソーが燃料ポンプリコールとして、300万台越えのリコールを実施することとなった。

詳細は、

に詳しく載っている。

直接的原因は?

リコールの内容は2つになる。

①低圧燃料ポンプの作動不良
これは、燃料ポンプの樹脂製インペラの膨潤によって起きている。
原材料はPPSであるが、これは熱硬化樹脂である。
その熱硬化過程に問題があった(十分な熱を加えていない)為に、完全に硬化していない部分が残り、そこにガソリンが入るこむことによって膨潤を起こしている。

②HEV用燃料ポンプの作動不良
こちらは、ポンプ本体ではなく、それを駆動するモーターのブラシ部分でのスパーク発生によるブラシ摩耗である。
ブラシの取り付け角度に問題があった場合に、そのブラシにかかる電圧や回転速度によってスパークが発生しやすくなり、そのスパークによってブラシが摩耗して、電力供給に問題が発生した。

なぜ発覚が遅れたのか?

これは死亡者が多く出ていないことが大きな原因である。
つまり、いつも起こる問題ではなく、たまにしか発生しない問題であるという点である。
同様な問題は、GMのイグニッションスイッチリコールやタカタのエアバックリコールの問題でも起こっている。
例に挙げた2件のリコールでも死者は出ているが、それが原因の死者数は大変多いように伝えられているが、年あたりの死亡者に換算すると大変小さい数字となる。
特にタカタのエアバックリコールに関していうと、経年変化であるので早期に発覚することは難しい面がある。
なので、「なぜ、早期に発見できないのか?」と言われると、「発見が難しい」としか言いようがない。
但し、アクシデントになる前のインシデントを十分に集めることによって、アラートを極力早期に出すことが可能となるであろう。
ただし、枯れた技術である燃料ポンプに対して、そこら辺のチェックが甘かったということである。
インシデントを集めている部門も、枯れた技術であるので、ちょっとインシデントが増えてきたけど大丈夫だろうと見ていた部分もあったであろう。

このような事態が起こる原因は?

これは枯れた技術であるからこそ起こる問題である。
推定の部分がほとんどであるので、その点は理解してもらいたい。

①低圧燃料ポンプの作動不良
設計者は、エンジニアリングプラスチックのメーカーより新しい素材の提案を受けていたと思われます。
そのプラスチックメーカーの営業も十分に説明を行ったと思います。
当然のように、試験設備で試験的な試作を行って、強度を確認していると推定される。
但し、問題が発生しているので、ガソリンに対する膨潤試験は今回の材料に対して十分な時間実施していなかったのであろう。
設計をレビューする人間も、枯れた技術であるので、通り一片の確認のみを流れ作業のように実施していたと推定される。
多分、デンソーが最初に設計した時には、多くの失敗を元にどのようなことに気を付けて設計するかが残っていたが、それがチェック項目のみとなり、チェックする理由が理解されないままで、チェックだけが行われていたのであろう。
多分、膨潤に関するチェック項目もあったのであるが、それは過去の材料に対するチェック項目であり、自分たちの設計に用いている材料の試験項目ではなかった可能性があると思われる。
なので、試験項目をクリアしているのに壊れるのはおかしいと設計者や品質管理者は思ってしまうのである。

②HEV用燃料ポンプの作動不良
これは、設計公差の問題である。
つまり、最初は厳しい設計公差で作成を行っていたが、その公差では問題が発生しないので、「もう少し緩くても大丈夫であろう」と考えて設計を変更した結果であろう。
現状で、利益を大きく取れない燃料ポンプで利益を上げるためには、設計を変更して工場の工数を下げることが重要である。
そのために、作業に時間がかかっている部分を洗い出して、作業時間を短縮するための設計変更を行った結果である可能性が高い。
設計部署は頑張って利益率向上に向けて努力を行った結果がリコールになってしまった可能性が高い。
これも枯れた技術であるために、試行錯誤して設計していた先人の失敗がチェック項目のみになってしまったために発生していたと推定される。

これは、どのような会社でも発生する可能性があることである。
特に、製品に対するチェックが厳しく規定されている会社で起こりやすいといえる。
こと細かくチェックする項目が定められているほど、担当者は「チェック項目をクリアする」ことに力を注ぐし、チェックする側も「チェック項目をクリアしているか?」を確認することに力を注ぐ。
それが、枯れた技術(自動車の創成期からある技術)のものであればなおさらである。
品質が非常(過剰)に高い日本の製品であるが、それは多くの品質チェックの上に成り立っている。
ところが、設計している人間は「どうしてそのようなチェックをしているか?」について本当に詳しく理解はしていない。
これが「ちょっとした素材変更」や「ちょっとした設計変更」の時に馬脚を現すのである。
マニュアル的なチェックの仕方に意味がないわけではないが、「なぜ、そのようなチェックをするか?」を重視することが重要である。
つまり、「何の発生を防ぐ」のかである。
そして、今までのチェック項目で十分であるかを確認する必要がある。
特にこれからの複合的に機械と電子機器とソフトウェアが一体化して動作する機器が増えていく中で、機能的に安全であることが重要となってくる。
その時には、ソフトウェアを変更すると、今までのチェック項目の一部は使えなくなってきてしまうのである。
積み重ねられたチェック項目だけで品質を確保する時代は終わりつつあるのである。

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