#1-2 動きのある場面をひとつ

 きい、といつもはたてない音をたてる扉。把手から離れる指先がひやりとする。誰もいない。誰もいないことを確かめるため、私は暗闇にむかいそっと手を伸ばした。過敏になった指先が家と外との境界を感じ取る。ぬるりと外の空気に触れる。死角から掴みかかってくる腕なんか、当然いない。耳鳴りがしそうな静寂の中へ私は静かに降り立った。サンダルが砂利をねじる音が鋭く響く。砂を噛んだような不意の不快感に眉をすがめる。不安を押しつぶすように息を吸い込み、さっきまでしきりに鳴り続けていたドアベルを見る。赤いランプがこちらを見つめ返す。やっぱり、誰もいない。振り返ると、家を出る前に感じたほど外は暗くなかった。少しずつ目が慣れ始め、家の前の田んぼが薄く姿を現す。虫たちの声も戻ってきてくれた。誤作動? 止めていた息を吐き、なーんだ、と声に出してみる。情けない声でひとり笑いそうになる。引き返そうとしたそのとき、カチリと音がし、開け放たれた扉の中でドアベルの音が響いた。砂利がねじれる音が背後から聞こえた。

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