武装メイク

 人生つまんないなと思ったら渋谷においでよ。  

 死のうと思いロープを探している時に私はそのギャル雑誌を見つけた。母が押し入れにとっておいたものだろう。ロープは見つからなかった。ワークマンへ行きロープはどこかと尋ねる。店員は首を振り、百均とかなら売ってんじゃねとかいう。私の命はその程度かと思うと虚しくなり帰宅する。空き巣に入られたように散らばった部屋の中で、今朝放り投げたギャル雑誌が目にとまった。

 ページを開くと「武装メイク」という言葉が飛び出してきた。メイクによって武装し、周りに流されず、自分のやりたいことをやる。ギャルとそうでない者の違いは何か。それはマインドだとギャルはいう。流行っているから、こういう場ではこういうものが求められているからといった考えではなく、ただそうしたいからそうする。それがギャルマインドらしい。そうしたマインドを貫いたギャルたちは二十代前半で年商一億円のブランドを立ち上げエステサロンのオーナーを務める。私はもう二十五歳だった。そして私は、何もやったことがなかった。ギャル雑誌に雫が溢れ、黄ばんだシミが広がっていく。私は、自分が何をしたいのかわからない。もうしばらく、何も求められない時間を生きてきた。ギャルはいう。やり切ればたいていワンチャンある、と。私は何もしたことがない。何もしないこともやり切れば、何かになるのだろうか。

 人生つまんないと思ったら渋谷においでよ。

 雑誌の中のそんな言葉と出会ってから、私は数ヶ月かけ、YouTubeやTikTok、時にはインスタライブでギャルメイクを学んだ。そして今日、私は私を武装し、初めてひとりで新幹線に乗った。遠く感じていた渋谷は、動いてみれば数時間で辿り着ける場所だと知った。渋谷にはしかし、ギャルが集まっているわけではなかった。それでも私は、ひとりでここまで来ることができた。私は私を生きていける。ここから、どこまでも。

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