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晴れ、ときどき台風 (第四回) 「構造的円安論」  居林 通

貿易収支と経常収支を比較すると

経常収支がより大きな範囲をカバーするのはご存じの方も多いと思います。 問題は、為替に与える影響(円がドルになる量、ドルが円になる量)が貿易収支と経常収支では全く異なることです。 今回は、意外に中身を見ることの少ない、「経常収支」が為替市場に与える影響を理解して頂き、なぜ私が「構造的円安論」を唱えているのかをお判りいただければ幸いです。


貿易収支はモノの売買の結果であり、貿易収支に「サービスの売買」と「投資」と「投資収益」を含んだものがおおむね「経常収支」となります。 (下図)


問題は、貿易収支はモノの売買なので、その分(赤字なり黒字なりの金額は)はドルなり円なりの通貨のやり取りが実際に起きます。 つまり、日本の貿易収支が赤字であれば日本企業は円を売って外貨に変換して、海外に送金するということを意味します。 2023年の場合には、貿易赤字の3.5兆円の部分がそれにあたります。 また、サービス収支の赤字2.4兆円もおおむね、円売りドル買いとなり海外に送金されます。 

しかし、経常収支には貿易収支の何倍もの大きな部分を占める「投資収益」を含みます。 直接投資まで含めると35.5兆円です。おかけで日本の経常収支は黒字です。 

「黒字」と聞くとよい事で円高になりそうですが、事はそう単純ではなありません。

この「投資収益」は実は海外で日本の企業が海外に投資した金額(日本から海外に出て行ったお金の額)、またはその結果として稼いだ利益を意味します。  そのため、これらの金額は外貨で利益を上げてた後、日本円には交換されず、外貨(多くの場合にはドル)のまま海外に留まります。 なので黒字なのに円高要因にはなりにくいのです。

証券投資も同じ傾向があります。 例えば、海外の債券を買ったり、海外株式を日本の投資家が買った場合には、円はドルに換えて送金されるので、円が売られる要因になります。 その後、もし海外債券の利息をもらったり、海外株式の配当を受け取ったとしてもそれらを外貨から円に換えて日本に送金しなければ、経常収支上はプラスであるものの、為替市場には影響を与えない(黒字なのに円安になりにくい)と言えるのです。

つまり、貿易収支はその黒字/赤字がダイレクトに通貨の需要に影響を与えるのですが、経常収支はそう簡単ではありません。 特に、現在のように日本の貿易収支が赤字で、さらにサービス収支も赤字である状況(みなさんが海外の動画に月額課金を支払うとこのサービス収支は赤字になります)だと、為替の需給という意味だけで経常収支を見ると、経常収支は黒字であるものの、為替レートを円高に動かす力にはなりにくく、逆に円安に動かす要因になっていると考えています。 

よって、ドル円を動かす要因としては、経常収支よりも「貿易収支」を見る方が良いでしょう。 ご存じの通り、日本の貿易収支は赤字が続いています。 これは、日本がエネルギーと食料の多くを輸入する必要があるためです。 そして経常収支は大幅な黒字なのに、貿易収支が赤字のために、円安が進む構造になっていると筆者は考えます。

経常収支は、いわば過去の投資・たくわえによって、どれだけ利益を上げているのか、も含みますがそうしたお金は、日本に還流するとは限りません。 よって、経常収支は黒字でも油断がならないのです。 確かに海外にある日本の民間の資産を日本に引き上げて、日本円にすればそれは円高になります。 しかし、日本企業・日本の個人はそうするでしょうか?  私はそうは思いません。 よって、「貿易収支の赤字」と「海外への投資(資金流出)」が構造的な円安を作っていると考えています。

もちろん、為替の動きは2国間の金利差にも左右されます。 むしろ、上述した経常収支の話は、日米の金利差が拡大しているからこそ、証券投資が日本から米国に流れているとも言え、実は表裏一体なのかもしれません。 とはいえ、世界の為替市場で日本円の需要が減っているというのは、このような経常収支の動きと関係があると考えており、これが「構造的円安」を作り出していると筆者は考えています。



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