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晴れ、ときどき台風  (第五回) 「株価はなぜそんなに大きく動くのか?」  居林 通

この連載の1~3回目は株価の基本構造についてお話ししました。 簡単にまとめると、株価はごく一部の人によって作られること、そして株価の決まり方にはいくつかのパターンがあり、基本的には株価は企業収益のトレンドに沿って動くことが多い、ということをお話ししました。

今回は、株価の「動き方」についてもう少しお話したいと思います。 最近の株価のあまりにも大幅な下落はそれまで大きな危機はないと思っていただけに、「晴れ、ときどき台風」のような値動きでした。

今回のコラムでは、株価の動きのメカニズムを解明してゆきましょう。

今回のコラムの結論としては、株価は企業の業績予想の「動き」に投資家の心理による「プラスマイナス」が加わります。 業績予想がそして、この投資家の心理の変化幅が短期間で非常に大きく振れることで、株価が短期間で大きく振れることがある、ということです。 

24年7月後半から8月初旬での大きな株価下落は、全体の業績には大きな変化は見られません。 むしろ堅調に伸びていたように見えます。 それがここまで大きな株価の下落になるということは、投資家心理が急に楽観から悲観へ大きく振れた、心理的な現象という事が出来ると考えます。

もう少し具体的に見てゆきましょう。

株価の動き方の分解というのは、いくつもあるのですが、一番シンプルなのは

株価の「変化」 = 業績予想の「変化」 + PERの「変化」 
というものです。
これは 株価 = 業績予想 × PER の変形です。

これはどういうことでしょうか?  簡単に言えば、業績予想の変化は景気の変化(動向)、そしてPERの変化は投資家の心理状態の変化を表しています。 下の図は米国のSP500株式指数と、その指数の一株当たり純利益(EPS)予想(12ヵ月先)を示しています。 もし、株価が完全に企業の純利益の予想と一致して動くとすれば、この二つの線は同じ動きをするはずです。 しかし、実際には業績予想が上昇しているのに株価は上がらなかったり、逆に業績予想は上がっていないのに、株価は上がったりします。

こうした業績予想と株価が一致しない部分というのは、投資家心理の変化と考えてよいと思います。 投資家心理の変化はPERの変化ですから、PER(赤い線)が下のグラフでどう変わったか見てみましょう。


こうしてみると、現在の米国SP500のPERは約20倍で、過去の水準からみるとレンジの上限の方にいますが、それほど過熱した水準でもないことがわかります。 2022年の年初などはコロナ禍の影響やインフレが進んだことからPERは15倍程度まで低下しました。 その時は、投資家心理が低すぎたことを示しているように思います。また、2020年のコロナ危機の急落は14倍のPERを下回る水準まで下がりました。 これも投資家心理が下がり過ぎていたものとして捉えることが出来るでしょう。

一方で、上記二つのグラフを見てみると、2023年から最近までの米国株は「業績予想の上昇」と「PERの上昇」という両方がプラスになったことで大きな株価の上昇を実現したことが見て取れます。 つまり、二つのエンジンがあったわけです。 これから景気動向がやや弱くなってくることを考えると、アメリカ企業の業績の伸びは今までよりは低下するかもしれません。 (ただし、アメリカ企業は自社株買いが活発なので業績は変わらなくても一株当たり純利益が増加するという要因はあります)

よくPERが高すぎるとか、低すぎるとかいう議論がなされますが、これは将来のある時点の業績(一株当たり純利益, EPS)に対して30倍とか20倍とかで株価が取引されているのをどう考えるのか、という議論です。

PERは一株当たりの純利益(EPS)の何倍で取引されているのかを示しますが、20倍と言ったら20年分の利益で株式が取引されている、30倍と言ったら30年分の利益で株式が取引されているということになります。 つまりは、株価を利益で回収すると仮定すると、20年回収なのか、30年回収なのかということです。 しかし、PERの本当の意味は、将来の業績が足元よりも伸びれば回収期間は短くなるので、結局は将来の業績伸びに対する期待値、と訳すことが出来ます。 

よって、PERがあまりに高い時には投資家心理が強気に触れすぎていないか、逆に株価が大きく下落した時には、PERが過去と比較して低いところまで来ていないかどうかを見ることで、株価は投資家心理によって下落しすぎではないか、をある程度判断することが出来るのです。

この記事は情報提供を目的として、なかのアセットマネジメント株式会社によって作成された資料であり、金融商品取引法に基づく開示資料ではありません。
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