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新型コロナウイルス感染の第6波への備えは大丈夫か?

(1) 新型コロナウイルス感染の現状

日本全国各地で猛威をふるい過去最大の流行となった新型コロナ感染症第5波も2021年8月20日に過去最多の新規感染者数25851人を記録した後8月下旬頃から次第に減少傾向に転じ11月6日現在でも減少し続けていて収束の方向に向かっています。

日本国内の1日ごとの感染者数、重症者数および死亡者数の推移をみると第1波から第4波に比べ今次の第5波の流行がいかに凄かったかが分かります。

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(画像:NHKより引用)

ここで注目したいのは、感染者数に対する重症者数および死者数の比率が第3波、第4波と比較して大きく減少していることです。

重症化率や致死率が大きく減少したのはコロナワクチン接種が進んだためと考えられます。

さらに第5波では抗体カクテル療法が承認され、重症化リスクの高い軽症~中等症患者さんに早期から投与され、重症化を防ぐことが出来た患者さんも多くいたことも指摘されています。

第5波で感染者数が急激な減少を示したことについては、専門家の中でも意見が分かれていて、明確な答えがない状況です。

この第5波ではオリンピックやパラリンピック、お盆休暇などで人流が増え、感染者数がさらに爆発的に増加することが懸念されました。

第5波のピークが8月20日頃で、人流増加がコロナ拡大に反映されるとされる2週間前はまだオリンピック (7/23~8/8) は開かれていて、それに引き続いてパラリンピック (8/24~9/5) も開かれたことから、コロナ感染者数の急激な減少は人流の増加・減少のみでは説明がつかないと思います。

コロナワクチンの接種が進行したことが感染者数、重症者数、死者の減少に関与したことは間違いないと思われますが、人流の減少や感染対策の徹底だけで感染者数の急激な減少を説明することは難しいのではないでしょうか。

人流は以前とほとんど変わっていませんが、感染症対策は日本が諸外国と比べて明らかに徹底していて、感染拡大防止に寄与している可能性があると思います。

今コロナ収束についてホットな話題となっているのが、コロナウイルスがゲノム変異を修復する酵素である「nsp14」に関係する遺伝子が変化して変異が修復出来なくなり死滅したとの説です。

国立遺伝学研究所と新潟大学のチームが研究結果をまとめ10月に開催された日本人類遺伝学会で発表しました。

それによると、第5波の大流行を引き起こしたコロナウイルスデルタ株でゲノム(遺伝情報)の変異を修復する酵素であるnsp14が変化し、働きが低下したことがコロナ収束に影響した可能性が示唆されました。

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(北國新聞ニュース 2021/10/30より引用)

日本では第5波が収束の方向を示していますが、欧州では再び新型コロナウイルスの感染者数が急増しています。

11/6配信の朝日新聞デジタルによると世界保健機関 (WHO) はロシア、中央アジアなど欧州53カ国で10月最終週の新規感染者数、死者数がともに世界の約5割を占め、再びコロナウイルス感染の震源地になったと発表しています。

WHO欧州地域事務局によると、10月最終週は管内の新規感染者数が約180万人、死者数が約2万4千人と発表、来年2月までにさらに50万人が死亡する可能性があると警告しています。

WHOが懸念するのは接種率の伸び悩みで、管内で接種完了した人は47%でバルト諸国や中東欧で接種率が低く、10月に感染が急拡大したロシアも1回でも接種した人は11月5日現在で人口の39.4%にとどまっているとのことです。

このような情勢の下、日本でもワクチン接種から一定期間が経過して来ていて、先行接種を受けた医療従事者や高齢者から順次ワクチンの効果が低下することが予想されています。

政府はワクチン2回接種後8ヵ月を経過した人を対象に2021年12月から3回目の追加接種を開始する予定です。

第6波がいつ来るか、どの程度の大きさかは現在全く予測出来ませんが、デルタ株に代わる感染力、病原性が異なる新たな変異株の出現の可能性もあるため、今から第6波に対する十分な備えが必要です。

(2) 第6波に向けてのコロナ対策

第5波での経験から、ワクチン接種者では重症化が起こりにくいことが改めて確認されました。

今後ワクチン接種がさらに進むと、さらに重症化率は減少すると考えられますが、先程述べた通りワクチン接種から6~8ヵ月経過するとワクチンの効果が低下することが予想されますので、第3回目のブースター接種を円滑に実施することが重要となります。

重症化に備え、重症病床の確保も引き続き重要となりますが、今後は特に軽症・中等症の病床の確保が課題となります。

現在軽症~中等症を対象とした治療薬は抗体カクテル製剤 (ロナプリーブ)、中和抗体製剤 (ソトロビマブ) のみですが、年度内にも飲み薬タイプの治療薬が承認される可能性も出て来ています。

さらに、2021年7月に特例承認された抗体カクテル製剤のロナプリーブは11/4に新型コロナ発症前に投与する「予防投与」の適応拡大が承認されました。

現時点では、適応対象として患者と同居している濃厚接触者や無症状感染者、重症化リスクがある人、ワクチン接種歴がないか効果が不十分と考えられる人に限定されていますが、今般の第5波でも家庭内感染等で適切な対応が困難であった多くの人達の救済が可能になると思われます。

今後はワクチン接種に加え、治療薬の開発を進め、その中で行動制限の全面的な解除や経済活動の制限解除等が検討されるものと考えられます。

(3) 新型コロナ治療薬の現状と今後の動向

現在日本で承認または未承認で使用されている新型コロナ治療薬は次の通りです。

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新型コロナ飲み薬の開発スピード加速化❗❗

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11/4配信の朝日新聞デジタルによると米国製薬大手メルクは、11/4新型コロナウイルスの飲み薬「モルヌピラビル」の販売を英国当局が承認したと発表しました。

新型コロナの重症化リスクのある軽症者~中等症患者向けの経口薬として世界で初めて実用化されます。

モルナピラビルは英国医薬品・医療製品規制庁 (MHRA) 発表によると服用は1日2回で5日間で、コロナの症状が出てから5日以内に服用を開始することとされています。

モルヌピラビルはウイルスの増殖を抑制することを狙った薬で、メルクは米国や日本でも最終段階の治験を進め、10月に結果を公表、米国食品医薬品局(FDA) にも緊急使用許可を申請、12月には許可が得られる見通しと発表していて、米国審査終了後ただちに日本にも申請する予定です。

ファイザーも新型コロナウイルス経口治療薬として開発中の「パクスロビド」が重症化の恐れのある成人の入院または死亡リスクを89%低下させたとする臨床試験結果を公表しました。

重症化リスクの高い人に対し、発症後3日以内に使用するというもので、3錠を1日2回、5日間服用します。

ファイザー社は初期の臨床試験結果が非常に良好だったため、臨床試験を早期に打ち切り、臨床試験中間結果を米国食品医薬品局 (FDA) に申請する予定です。

ファイザー社はパクスロビドを米国以外に、日本を含めた各国の薬事規制当局に承認申請する見通しとなっています。

ロシュ・中外製薬は「AT-527」と呼ばれるC型肝炎治療薬として開発を進めて来た抗ウイルス薬が新型コロナウイルスにも効果があるかどうか、日本の患者を含めて最終段階の治験を進めていて、年内にも結果をまとめ、2022年に厚労省に承認申請する予定です。

塩野義製薬は国内で新型コロナウイルス新規感染者が大幅に減少していることから、現在行っているコロナ飲み薬の臨床試験をシンガポールなど海外でも実施する方針を明らかにしました。

12月中旬までに薬の効果などに関するデータをまとめた上、早ければ年内にも厚生労働省への承認申請の準備に入るとしています。

(4) まとめ

今後も軽症~中等症向けのコロナ飲み薬の開発が進むことが期待出来、飲み薬で自宅待機しながら治療が可能となるため、重症患者の治療を行う医療現場などの負担を大きく軽減できると考えられます。

軽症患者用の飲み薬は感染が分かった時点で出来るだけ早く投与することが望ましいので、コロナウイルス感染の検査体制を質・量ともに拡充していく必要があります。

新型コロナウイルス感染は日本では第5波が収束に向かっていますが、世界を見渡すと依然パンデミックな厳しい状況は続いています。

いつ何時日本に第6波が襲来してもおかしくないと思われます。

この2年間の経験を生かし、コロナ対策をより有効に実施していくことが望まれますが、ワクチンに加え、治療薬も使用できるようになるためこれまでよりはるかに効果的な対処が可能と思われます。

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