クラシックと著作権法

あの曲はまだ保護期間内

「クラシックなんて全部著作権切れてるんじゃないの」と思う方がいると思う。クラシックのほとんどの曲はそうなる。しかし、近年に作曲され、没後70年を迎えていない作曲家も多いため、実は権利の切れていない作曲家がいる。

実のところもう少し書き足したかったのだが、文量が多くなりそうなので、とりあえず作曲家とパブリックドメインについてのみ書き込んだ。

各国の著作権の保護期間

まずこれらの著作権に関する国際的な取り決めとして一般的なのが「ベルヌ条約」というもの。正式名称は長いので省略。簡単に言えば「その国の作曲家はその国の著作権法の保護期間でどの国も保護してね」というもの。日本なら1967年以前に没した作曲家はPD(パブリックドメイン)になり、1968年以降に没した作曲家は死後70年保護される。この保護期間がそのまま他の国に適用される。ここで主要な国の個人著作物の保護期間を見てみよう

日本 50→70年に延長
アメリカ 70年
EU加盟国 70年
ロシア 70年
中国 50年

クラシックに関連する作曲家の国々は原則として死後70年が適用されている。EU諸国はEUに加盟する際に著作権法の改正が行われ、改正前にはPDになっていた作品にも保護期間が遡及され、一律死後70年になっている。また、ロシアに関してはソビエト体制下での著作権の扱いは不明。著作権に関するものは見つかったが、精査してると時間がいくらあっても足りなさそうだ。参考として同じ共産主義をとっている中華人民共和国は死後50年となっている。このように、欧州を中心とした国々が、著作権者の死後70年を保護期間として定めている。これは作曲家も例外ではなく、2020年現在だと1949年没までの作曲家の曲が使用可能である。ここまでならば‥‥

戦時加算

日本の場合はここにさらに戦時加算というものが加わる。これは第2次世界大戦時の日本国内で連合国側の著作権が保護されていなかったことを理由に約10年ほど保護期間が増えている。(連合国側が戦時中に枢軸国の著作権を守っていたかというと怪しいし、実際撤廃するような動きはあったが音沙汰なしだ)
クラシック音楽上ではイギリス、アメリカ、フランスの著作物は戦時加算が適用される。ただ、JASRAC上では1958年没のヴォーン・ウィリアムズ(英)がPDに入っているのでよくわからない加算である。

まだ著作権の切れていない作曲家

ということでまだ著作権の切れていない作曲家と有名な作品をリストアップしてみた。
・作曲家名(国,没年) 代表的な曲
・パウル・ヒンデミット(独,1963) 画家マティス,米亡命時代も含む 
・ルロイ・アンダーソン(米,1975) トランペット吹きの休日,タイプライター
・イゴール・ストラヴィンスキー(ソ,1971) 火の鳥,春の祭典
・ドミトリー・ショスタコーヴィッチ(ソ,1975) 交響曲第5番「革命」
・アラム・イリイチ・ハチャトゥリアン(ソ,1978) 剣の舞,仮面舞踏会

また、特定の曲が著作権切れしていない作曲家もおり
・ラプソディ・イン・ブルー(管弦楽編曲版) 
 ガーシュイン(米,1937没)の著作権は切れているが、編曲した
 グローフェ(米,1972没)が保護期間のためPDではない。
 ガーシュイン本人によるピアノ版はPDになっている。

・アメリカ亡命時代のプロコフィエフ作品
 ロシアーソ連時代のプロコフィエフ(ソ,1953没)作品は日本国内の法ではPD
 になっている。ロシアの法律を当てはめるなら保護期間に入る
 確実なのはアメリカ亡命時代の作品はアメリカの著作権法が適用され
 るので、保護期間に入っている。
があげられる。

まとめ

PDになっているかを判断する材料は多く存在し、国内法準拠と、出身国準拠だけでも基準が変わることに加え、戦時加算を考慮するか、亡命先での著作権法を考慮するかが判断基準にかかわってくるので、PDかどうか判断するのは困難である。一応出身国準拠+戦時加算で計算したが、結局はJASRAC等の管理団体のさじ加減一つになってくる。前述のヴォーン・ウィリアムズやプロコフィエフもPDかどうかは怪しい線上にいるのだ。

まあ個人で楽しむ分にはこんなことを気にする必要はない。自由に聞いて大丈夫だ。ルロイ・アンダーソンの曲でも聞いて固いことは忘れよう

アンダーソン作品だとボストンポップスオーケストラを推しておく

参考文献


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