クラシックと録音とパブリックドメイン

ネズミのとばっちりを受けるかもしれない

 クラシック音楽に詳しくない人はすべての曲がパブリックドメイン、すなわち権利者の許諾を得ずに加工、再利用等ができると思うが、そうではない。著作権法における保護期間によって、他者の著作物が何年保護されるかは決まっている。どの曲が使用可能で、どの録音が使用可能なのかが変わってくるわけだ。

1,日本は70年に改正、1967年以前はパブリックドメインに

初めに日本国内について語っていく。日本においてだが、2017年までは作者の死後50年、法人著作物(複数人が関与)は発表後50年、映画は公開後70年であった。2018年にTPPに関連して法律が改正され、年数は一律70年になった。この時の施行は2003年の著作権法改正時に起きた裁判を踏まえ、2018年12月30日に施行されており、1968年没の作者の著作物は2038年まで保護されることになっている。要するにクラシック音楽なら1967年までの録音が使用可能。曲なら1967年没までの作曲者がパブリックドメインになっている。国内での著作物の使用ならこの範囲を覚えておけばいいのだが、海外やインターネットとなるともう少し面倒になる。

2,ベルヌ条約とローマ条約

さて、海外の著作物をどう処理するのかというものはベルヌ条約とローマ条約によって規定されている。ベルヌ条約は著作権の取り扱いを、ローマ条約は著作隣接権(録音や実演家の権利)についてを規定している。どちらも著作者の国籍の国の保護期間を遵守するようにするとのことだ。これを「内国民待遇」つまり自国民と同じ待遇にすることをほかの国にも要求しているということである。
 例として日本で2020年没の著作者が出た場合、日本国内の法律では2090年まで保護される。これがホンジュラス(死後75年)、アメリカ(死後70年)やカナダ(死後50年)でも日本の死後70年が適用され、これらの国でも2090年まで保護される。
 EUになる前の欧州では本国ドイツは保護してるのにイタリアは保護期間が終了していたといった話があったそうな。(現在はEU加盟により一律死後70年に改正)

これは作曲者、編曲者や録音に関しても同じことが言える。なのでそれぞれの国の保護期間を調べるのがセオリーなのだが‥‥

3,インターネット上ではどこの国の法律に準拠?
3.1,二つの仮説

 例としてYoutubeを挙げてみよう。YoutubeはGoogleの子会社で、アメリカに本社機能を置いている。だからアメリカの著作権法が優先されると私は思う。DMCA(デジタルミレニアム著作権法)の強制的なコンテンツの停止等もYoutubeもといGoogleは行える。というか行わざるを得ない。そうしないとGoogleが罰せられる強力なものだから。
 これはアメリカに本社を置くTwitterでも起き、艦これの公式アカウントが虚偽のDMCA侵害で停止させられたという話は一部では有名な話だ。

 Youtubeの場合には、規約内に準拠する法律は明記されていない一方、パブリックドメインの項目には「保護期間が国によって違う」という文言が存在する。ここから考えられる仮説は2つある。

 1つ目は、運用方法はアメリカ著作権法だが、保護期間はアクセスしている国のものが適用される。(ベルヌ条約等での内国民待遇は保護期間に関してであり、運用方法はその国の方法にすると書いてある。)

 この場合には、ベルヌ条約にのっとって著作者の国の保護期間を気にすればよいのだが、次の仮説が問題になる。個人的にはこっちであってほしくない。こちらのほうで話を膨らませていく

 2つ目の仮説は「Youtubeをはじめとしたアメリカに本社を置く企業はどこの国のアクセスからであってもアメリカの著作権法に準拠する」という仮定で話をさせてもらう。

 Youtube等アメリカに本社のあるサービスでパブリックドメインなものを上げるにはアメリカの著作権法をクリアしていることが必要になる。ではそのアメリカ合衆国の著作権法はどうなっているのかというと「ミッ〇ーマウス保護法」と揶揄されるほど厳しいものとなっている。

3.2,"ミッ〇ーマウス保護法"

 ミッ〇ーの銀幕デビューは1928年の蒸気船である。この権利が切れてしまわないように、著作権切れが近くなるとロビー活動をして延長していくという光景が何度となく繰り返されている。直近では2003年に著作権が切れる予定だったが1998年に著作権法を改正することで、20年延命することに成功している。となると2023年にはまた著作権が切れることになるのだが、どうせまた延長することになるだろうと踏んでいる。
 ただ、蒸気船の著作権が切れるからと言って、ミッ〇ーは自由に使えない。商標等でがっちりガードされているので、問題はないはずなのである。

 話がそれたので戻そう。この、「ネズミを徹底的に守る」著作権法の改正が、Youtube上でパブリックドメイン音源を制約なしに出しづらい原因になる。米国著作権法のパブリックドメインについて以下のサイトに細かく書かれている。

 録音に関しては下のサイトに細かい規定が書いてある。現状ではすべての録音が保護期間に入っており、2022年までパブリックドメインになる録音は存在しない。それはつまり、Youtube上に挙げられる商業録音でパブリックドメインになっているものが存在しないということになる。

 個人的な願望としては、アクセスした国の保護期間が適用されてほしい。

4,カナダに希望はあるか

 ところ変わって、カナダの著作権法では共同著作でも著作権者がすべてわかっていれば、最後の権利者の没後50年が保護期間になる。著作権者がすべて明らかでない場合には公表後50年が適用される。クラシックの録音には演奏者がクレジットされないので公表後50年を適用していいだろう。

 いきなりこんなことを言っているのはどうしてかというと、imslpというサイトはカナダにサーバを置いている。imslpは言ってしまえば楽譜版青空文庫でPDになった楽譜を集積している。カナダにサーバを置いているのはこういった事情もあるのかもしれないと思ったからだ。

 カナダに本社機能を持つ有名な動画共有サイトがある。ポルノ動画サイトであるPornhubなのだが、前述の仮説2が正しいとなると、カナダにある動画サイトがパブリックドメイン作品を配信するとても良い環境なのではないかと思えてくる。

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