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夜話

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みたま市という架空の街で怪異を収集する大学生たちが体験した、恐怖譚・日常譚。10,000〜15,000字程度の中長編が多いので、お時間のある際にどうぞ。 ※「眠らない猫と夜の魚」…
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#小説

夜話 『落下と移動』

『自殺者の霊が、同じ場所で自殺を繰り返す』  この手の怪談はよくある。先日、小夜が仕入れてきた怪談もその系統で、飛び降り自殺者の霊が同じ場所で飛び降りを繰り返すというものだった。テンプレと言ってもいい話だ。  でも小夜の話にはひとつだけ、テンプレと異なる箇所があった。     *  五月も半ばを過ぎて、吹く風は綿毛のようにあたたかい。海は凪いでいて、いつもは等間隔に並んでいるサーファーの姿も、今日はほとんど見えなかった。かわりにシロギスを狙う釣り人の姿がちらほらと。

夜話 『夜を泳ぐ』

夜明け前。 真夜中と朝のちょうど中間くらいの時間。 空の碧が一番濃くなる時間に、街を歩く。 夜の街を歩くのが好きだ。 目的はなくて、ただ単に、夜を歩くことが好きなだけ。 寝静まった人気のない商店街を覗いたり、 コンビニのガラスに並んだ雑誌の表紙を眺めたり、 河川敷に座って対岸の灯を眺めたり。 そんな風に寝静まった街並をふらふらしながら、 夜の断片を拾い集める。 歩く人なんてほとんどいない。 すれ違うのは猫ばかり。 真っ黒な影絵のような街。 誰もいない交差点で点滅する