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【独占インタビュー】謎多き「選挙ギャルズ」が目指す未来

2022年8月20日、銀座・数寄屋橋交差点は物珍しい光景が広がっていた。老若男女約110人が、軽快な音楽とともに「憲法改悪ムリぽ~ん」と書かれたのぼりやプラカードを掲げ、街を行進していたのだ。参加者の多くはピンク色のファッションに身を包み、とにかく派手。物々しいイメージのデモとはだいぶ違って見えた。

銀座西六丁目交差点付近を行進するパレードの参加者たち

沿道の人々の反応は様々で、一緒に体を揺らしていた宅配業者のお兄さんたちもいれば、あっけにとられて見ている女性2人組、「なにこれ?なにこれ?」と不思議がるカップル、「後で全部晒してやるからな」と嘲笑するサラリーマン風の中年男性グループもいた。

一緒に盛り上がっていた、カザフスタンから半年前に来日したという女性は「日本は家父長制が強く女性の権利がない」と述べたうえで「女性が無関心でいたらこの国は変わらないと思うから、今こそ変わる時なんだ」と応援した。【詳細はYouTubeをご覧ください ↓ 】

謎多き「選挙ギャルズ」

主催したのは、「選挙ギャルズ」(略称:選ギャ)という若者グループ。
メンバーは平均年齢約21歳の15名程度だが、メインで活動しているのは4~5名(関東・九州・北海道など居住地は様々)とのこと。この「選挙ギャルズ」がSNS上で呼びかけを行い、「ラブ&ピース・パレード」(通称:ラブピパレード)が行われたのだった。

パレードの様子が報道されると、Twitterでは誹謗中傷とも捉えかねない書き込みが多くされたうえ、真偽不明な憶測も飛び交った。その後しばらくして、パレード前は活発に投稿されていた本人たちのSNSも投稿がピタリと止まってしまった。そのため、一部の新聞報道を除き、「選挙ギャルズ」の情報は限られてしまっている。

一体、「選挙ギャルズ」とは何であり、何を考え、何を目指しているのか?
筆者は、知人を通じてメンバーの一人と連絡を取り、今回インタビューすることができた。

「選挙ギャルズ」結成秘話

今回インタビューに協力してくれたのは、あーにゃさん(22歳・左上)、もえギャルさん(22歳・左下)、めいギャルさん(18歳・右下)の3人。

「ラブピパレード」の際は、警察への申請書類に記入しなければならないなどの便宜上、さきギャルさん(24歳)が代表的存在を務めたが、グループ自体は特にリーダーがいるわけではない。

結成のきっかけは、昨年10月の衆院選でメンバーの多くが初めて選挙ボランティアを経験し、その楽しさを知ったことだった。その後、佐賀県の鳥栖市議会議員選挙長崎県知事選挙今年7月の参院選と、行ける人は現地まで出向き、行けない人はオンラインで「推し」の候補者を応援、その過程で「選挙ギャルズ」が作られた。

メンバーの多くは、もともと「気候変動阻止」のために活動する若者団体に所属しており、比較的政治や社会問題に関心はあったそうだ。

「共産党の手先」は本当か?

「選挙ギャルズ」と、現在活動している他の若者・学生団体を比較して大きく異なる点は、特定の政党を応援、批判しているという点だと筆者は考えている。
他の若者・学生団体の多くは、「○○を改善させよう!」「投票に行こう!」「政治に興味を持とう!」という主張が多く、政治家からのメッセージを受け取ったり、直接会いに行ったりすることはあっても、団体として特定の政党・候補者を応援することはほぼなかった。

Instagram(@senkyo_gals)より

一方で、「選挙ギャルズ」の Instagramをのぞくと、「#ウチらの推し政党」(応援している政党)として、立憲民主党日本共産党社会民主党れいわ新選組の4党の名前が挙げられており、「#ムリポン政党」(応援できない政党)として、自由民主党公明党日本維新の会国民民主党参政党新党くにもりNHK党幸福実現党の6党・2政治団体の名前が挙げられている。ここまで明確に推す・推さない政党を区別し(国会に議席を有していない幸福実現党までも網羅し、LGBTQ権利拡大抑止政策などを猛烈に批判している)、広く発信している団体は、政党傘下の青年組織を除けば、珍しい。

更に、8月20日の「ラブピパレード」では、福島みずほ 参議院議員(社会民主党 党首)、田村智子 参議院議員(日本共産党 副委員長)、吉良よし子 参議院議員(日本共産党)、山添拓 参議院議員(日本共産党)の4議員も参加。台風で延期になる前の当初の日程である8月13日は、大石あきこ 衆議院議員(れいわ新選組 政策審議会長)、奥田ふみよ 元公認候補(れいわ新選組 統一地方自治体選挙対策本部・副本部長、のちに体調不良による欠席を表明)も参加を予定していた。

「ギャルピース」で写真に映る、福島みずほ 社民党党首(右から5人目)ら野党議員とメンバーら

このような特定政党との深い関わりから、Twitter上では「『選挙ギャルズ』は共産党の手先なのでは?」との書き込みもあっただけでなく、私がお世話になっている比較的リベラル系のメディア関係者も「共産党系なんだっけ?」という認識をしていた。

この、応援する政党を明確に区別することや、「特定の政党が裏にいるのではないか?」という噂について、メンバーに直接伺った。

「変に『中立』じゃ、なんも言えん」

もえギャルさんは、「明確に政党を区別することは、私たちが発信するうえで大事にしていることの一つ」としたうえで、

「『投票に行こう!』っていうアカウントならもういっぱいあるし、そういうアカウントは全ての政党を紹介したうえで『決定するのはあなた次第ですよ』といったような変に『中立』なことが多い。そんなこと言ってたら何も言えんし、意味わかんないよねって思った。うちらには明確に『こういう未来にしたい』ってビジョンがあるから、『それならこの政党を推せるよね、推せないよね』ってはっきり言っている」

と、特定の政党を応援するのは、目指す未来があるからだと教えてくれた。

ピンク色の装飾が施されたパレードの先導車両

あーにゃさんは、前述したように以前から気候変動阻止に関わっていたメンバーが多かったことから、「政党に目を向ける前の社会的な目標が明確にあるメンバーが多くて、それが政党に目を向けたときに、『気候変動対策してくれる政党はこれとこれだ』って必然的に決まっていった。関心を持つだけでなく、票を獲って勝つためにも、もう一歩踏み込まないとダメだと思った」と、応援する政党が明確なもう一つの理由を教えてくれた。

「特定の政党が裏にいるのではないか?」という噂については、「全くそうではないですね」と否定した。「とにかく私たちは勝手に推してるただの選挙ガチ勢ギャル。でも、政治変えたい思いは強いから、今後党員として応援するメンバーが出てくるのも自然だと思ってます。むしろそれくらいガチです(笑)」(もえギャルさん・あーにゃさん)

「ギャルの定義論争」は想定外

「ラブピパレード」の際、「選挙ギャルズ」は、憲法改正反対や民主主義を守ろうといった点を論点として提示していた一方で、Twitter上では全く別の観点から「選挙ギャルズ」を捉える風潮も目立った。それは、「『選挙ギャルズ』はギャルではない」「見ていて痛々しい」といったような、「ギャルの定義」に関する論争が交わされた点である。筆者としては、ギャルについてあまり詳しくもないネットユーザーの発信した意見については、特筆する必要はないと考えている立場だが、ギャルタレントのあおちゃんぺさんや原宿を拠点に活動するモデルの紅林大空さんなど、ギャルの専門知識を持ち合わせている人も「選挙ギャルズ」を批判したことは、興味深い現象だと感じ、この点についても「提示したかった論点とは異なると思うが」と前置きしたうえで、質問した。

もえギャルさんは、「そんな批判がまさか来るとは全く思っていなくてびっくりした」と述べたうえで、「『選挙ギャルズ』はギャルじゃないから謝れ」といったような批判については、「私たちは自分たちをギャルだって思ってるからこそ言っていて、それを周りからいろいろ言われるのも違うなって思うので、これからも堂々と『選挙ギャルズ』として活動していきたいなとは思ってますね」と、今後も「選挙ギャルズ」としての活動を継続させていくことを話してくれた。

めいギャルさんは、「ギャルの定義ってそれぞれみんな持っていると思っていて、私たちもギャルだし、髪とか染めて、つけまつ毛2個とか付けているのもギャルの形だし、でも、それが元にあるから私たちのことはギャルじゃないって言われるのは違うかな。私たちが『選挙ギャルズ』として活動しているのは、忖度しないとか大きい組織にこびないとかの『ギャルマインド』があるからで、例えば立憲(民主党)の悪いところとか、共産党のホームページ見づらいとか、応援している政党の悪いところもどんどん言っているし、自分たちの言いたいこと、正しいことを言っていく姿勢とかは『まさにギャルやん』って思ってて…」

「私たちは自分たちをギャルだと思ってプライド持って活動していて、ギャルにも多様性があると思うから、それぞれ思い描くギャルが違うと思います。見た目だったりマインドだったり。その中でも私たちは『選挙』ギャルズとして、活動したいと思ってます」と「ギャルマインド」や「ギャルの定義」について、考えていることを教えてくれた。

「良い意味で空気を読まず、自分たちの信じているものを突き通す『ギャルマインド』を社会とか政治に向けたバージョンって感じで私たちはやっている。決して自分を偽った姿ではないですね」(もえギャルさん)

メンバーの一人は、他メディアの取材に「意識はしてないけど、『Y2K』っぽくなった」(しんぶん赤旗 2022.8.29)と話す。

「Y2K」とは、2000年代当時のファッションや文化のことで、近年、当時は生まれたばかりの若者世代によって、再評価される動きが加速している。少し前に話題となった、若者世代による「昭和レトロブーム」に似た、文化の再流行である。選挙ギャルズの雰囲気が「『Y2K』っぽいもの」であれば、「時代遅れ」という指摘は的外れであり、元々のギャルからの批判も、特定のジャンルに新しいものが誕生したときに起こりがちな「元祖 VS 新星」というテンプレートに当てはめて考えれば、納得がいくような気もする。

再始動!今後なにをしていくのか?

冒頭に記したように、「選挙ギャルズ」は「ラブピパレード」終了後、しばらくの間、SNS投稿が止まった。

これについて、もえギャルさんは「休止期間だった」と明かす。「結成してから、選挙ボランティアを続けたが、その結果に納得できず『ラブピパレード』を主催した。ずっと走りっぱなしだったので、一回落ち着いて話し合いたいよねということになった」

「前回の参院選で私たちのアカウントを見つけて、『初めてボランティアしました』『街頭演説行ってみました』っていう若い子たちからのDMも届いたことがすごい嬉しくて、今後は統一地方選挙(2023年4月予定)に向けて、ボランティアができるギャルズを増やしたり、具体的な候補者を紹介したりしていきたい」と、今後の目標について話してくれた。

「選挙ギャルズ」が伝えたかったこと

報道では、安倍晋三元首相の国葬と時期が近かったこともあり、「国葬 うちらは求めてない」(東京新聞 2022.8.21)や「安倍氏国葬・改憲に反対『選挙ギャルズ』が都内でパレード」(神奈川新聞 2022.8.23)など、国葬と関連付けて報じる記事も多かった。また、パレードで参加者が掲げたプラカードには、「改憲反対」「家父長制是正」「気候変動阻止」など、様々な主張が並んでいた。

一体、「選挙ギャルズ」はパレードで何を伝えたかったのか?そして、今は何を考えているのか?本人たちに聞いてみた。

様々なプラカードが見える「ラブピパレード」

「まずは自分が生きづらくて困っているから、これ以上困らせないために、改憲をさせないってところで。自分たちのためにやっているっていうのは大前提にあります」と、めいギャルさん。

もえギャルさんも「国葬も反対だし改憲も反対だし気候変動も止めたいって思いはあるんですけど、国葬が中止されたからオッケーって感じでもなくて、あくまでも通過点に過ぎなくて、もっと希望を持って生きられる生きやすい社会っていうのを、メンバーみんな目指してますね」と、ゴールはもっと漠然としたものだと「選挙ギャルズ」の目指す社会について教えてくれた。

「うちらほんと言葉足らずだから、このへんちゃんと伝えられてないよね、もっとポストしないと」(もえギャルさん)

最後に

特徴的な、ど派手なインスタ投稿。「選挙ギャルズ」は、SNS発信も等身大の自分たちの言葉で伝えることを意識しているそうだ。友達に話すテンションで、カラフルなデザインに載せて投稿したものを、メンバーは「可愛い作品たち」と呼んで、気に入っている。

「とにかく仲は良いです」と笑いながら話す、めいギャルさん。

「別の社会活動やってても、なんかタスクみたいに感じるけど、選ギャの活動は楽しいし、趣味みたいな感じ。選ギャのアカウントのことをみんな『趣味アカ』って呼んでます。社会活動って誰もお金くれないから楽しくないとやってらんないですよね(笑)」(※「ラブピパレード」の際はカンパを募集し、のぼりなどを作る費用に充てた)

もえギャルさんは、「今の社会やばすぎやろって思ってても、一人じゃ活動できないから、一緒に活動して、マジでおかしいよね、なんか一緒にやろうよって言ってくれる仲間がいるからこそ、こうやって選挙ギャルの立ち上げもできている。選ギャ愛はみんな強いです(笑)」

おわり

取材/写真 中村眞大
 Twitter @NakamasaTube
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取材協力 選挙ギャルズ
 Twitter @senkyo_gals 
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