乳癌検診

【症例】40代女性
【主訴】乳癌
【現病歴】「11月初め頃に乳癌の診断を受けました。きっかけは人間ドックです。要精密検査ということで、近くの婦人科クリニックに行きました。右の胸の小さなしこりに針を刺して組織をとって、細胞診で癌細胞だと確定しました。「さっそく手術しましょう」と先生から言われました。
驚きました。自分が癌で、しかも手術が必要だなんて。言葉にできないくらい、本当に驚きました。
何の症状もないんです。検査して、ようやく見つかったような癌なんです。「手術しないとダメですか?あわてて切る必要がありますか?」と聞きました。すると先生、「待ったなしです。仮に放置すれば、3,4年でステージが進行して死にますよ」って。
癌だと診断されてから、ネットでいろいろな情報を検索しました。いえ、正確には、その前からうすうす疑問を感じてはいたんです。"マンモグラフィーは早期発見のメリットよりも放射線被爆のデメリットの方が大きい"とか"がん検診は無意味"とか、そういう記事はSNS上で目にしていましたから。それで、検診も今年で最後にしようって思っていたんです。最後のつもりで受けた検診で見つかってしまって。。。見つけに行って、見つかって、あー、って嘆いて。自分でも何をしてるんだか、って思います。
でもここ一番、踏ん張りたいと思っています。このまま流されて、標準的な治療レーンには絶対乗りたくない。その思いは固いです。それでいろいろネットで調べて、"栄養で何とかしよう"と思いました。
もちろん、勇気が要ることです。
それに、癌となれば自分だけの問題ではなく、家族の問題でもあります。家族は喜んでいるんです。"早く見つかってよかったね。人間ドック万歳だね"って。そんな家族に、一般的な癌治療を受けないと説得することは大変なことです。
もともとヘルシー志向で、健康には気を遣っていました。野菜はできるだけオーガニックで、お肉も質にこだわっていました。お米は普通に食べていて、パンは好きでした。乳製品は昔は牛乳を飲んでいましたが、よくないと知ってから、豆乳ヨーグルトに甘酒かけてを飲んでいました。手作りです。甘酒も麹から自分で作ります。
毎週ヨガもしています。お酒も飲みません。
"こんなに健康的な食生活を自分が癌になんてなるわけがない"と思っていました。だから、腫瘍が見つかったことは本当にショックでした。
今取り組んでいるのは、藤川理論です。朝晩プロテインを飲んで、ビタミンC、B50、鉄などのサプリを飲んで、肉もたっぷり食べています。糖も完全にやめました。癌細胞は糖が大好きということなので。パンはもちろん、お米もやめて、代わりに卵を食べています。
でも体調がいまいちよくなくて。今日はそのあたりを相談するためにこちらに伺いました。
藤川先生の本には、"プロテインを飲んでいる人は元気で快活に動ける"って書いてあるんですね。でも、私、肉をたくさん食べ始めてから、むしろ息切れがしやすくて。あと、耳がずっと詰まってる感じがあります。トンネルの中に入ったような。
私の体に合ってるんでしょうか。藤川理論を試し始めてからまだ1か月経ってないぐらいですけど、このまま続けて問題ないでしょうか?」

当院に来られる患者のなかには、"藤川理論でよくならなかった"、あるいは、"藤川理論に疑問がある"という人が少なくない。僕は、栄養療法界隈の一部から、"アンチ藤川理論"の急先鋒と目されているようで、それで藤川理論で失敗した人の受け皿になっている格好だ。
まず、誤解を正したい。
僕は別に、藤川先生の信者でもなければアンチでもない。そもそも誰かの提唱する治療体系について、一から十まですべて正しい(あるいは間違っている)ということは、そんなにない。それなりの臨床経験を積んだ人が提唱しているのだから、汲み取るべき教訓があるものだし、同時にエンピリックなものでもあるから、必ずしも万人にあうものとは限らない。絶対的に正しいもの(絶対的に間違っているもの)なんて、ない。僕が言っているのは、結局それだけのことだ。
プロテインや鉄を飲んで改善するなら、それでいい。"藤川理論で改善するとはけしからん!"とか思いません(笑)臨床は結果がすべてだから、藤川理論であれ何であれ治っていけばいい。
それに、藤川先生は"オーソモレキュラー"という言葉を世間一般に広めた立役者ともいうべき人で、それだけでも僕ら栄養療法の実践者にとってありがたい存在だし、さらに僕について言えば、先生のおこぼれ(藤川理論でうまくいかなかった人)を顧客として頂いている格好なのだから、先生への感謝こそあれ、"アンチ"であろうはずがない。

さて、上記の患者についてである。
癌に対して、プロテインの積極的摂取や肉の多食が、治療的な効果を持つかどうか。
疫学研究では、肉食(特に赤身肉と加工肉)は癌(特に直腸癌)と相関がある、とする研究が多いようだ。
『肉と癌』
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0309174009001764
また、癌に対して有効と言われる民間療法(ゲルソン療法、甲田療法など)の多くは、動物性タンパクは血液の酸性化を招くため禁忌とし、菜食を推奨している。ソール先生(オーソモレキュラー療法の権威)も、肉はあまり食べないって言ってた。

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鉄剤は癌に対してどうだろうか。
過剰の鉄はフリーラジカル(活性酸素)の発生源となる。また、癌患者では、わざわざ鉄剤を投与せずとも、フェリチン(貯蔵鉄)が高い傾向にある。
『癌におけるフェリチンの重要性~抗酸化、炎症、腫瘍発生』
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0304419X13000395
「癌患者の多くではフェリチンの血中濃度が高く、また、高いほど、癌が進行し、予後も悪い」

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B50というNOW社のサプリについてはどうか。
ビタミンB群を補うこと自体は悪いことではない。ただ、このサプリの質はかなり微妙だと思う。
できれば、ビタミンB6はピリドキシン塩酸塩ではなくてP5P(活性型ビタミンB6)が、葉酸はfolic acidではなくfolateが、ビタミンB12はシアノコバラミンではなくメチルコバラミン(あるいはハイドロキシコバラミン)が、それぞれ好ましいと考える。
というのは、folic acidやシアノコバラミンは長期投与によって発癌性があるとする研究があるから。
『folic acidサプリの癌リスク~系統的レビューとメタ解析』
https://bmjopen.bmj.com/content/2/1/e000653.short
『folic acidとビタミンB12治療後の癌発生』
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/184898
癌対策として飲んでいるつもりのサプリなのに、むしろ発癌性のリスクがあるというのは、ちょっと嫌ではないですか?

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ビタミンCや酵素風呂は癌に対して確かに有効だと思う。しかし、動物性タンパク、鉄、B50が本当に癌に効いているか、ちょっと分からない。
それに、糖質制限についてもどうかな。
砂糖菓子や小麦は、確かにやめることが望ましいと思う。精製糖質による血糖値の乱高下や小麦グルテンによる炎症増悪は、癌にいい影響を与えないだろうから。
でも糖質のすべてを断ってもいいものだろうか。
個人的には「米を適量食べるくらいはいいですよ」と助言している。日本人って、なんだかんだ二千年くらいお米を食べ続けてきた民族なわけでしょ。炭水化物だというだけで、そんなに悪者扱いする理屈はないと思うのね。

しかし、上記患者のそもそもの失敗は、本人もすでに自覚している通り、検診を受けたことにあると思う。今回の一連の苦悩はすべて、そこから始まっている。
いいですか、皆さん。今日一番大事なことを言います。
検 診 は 受 け て は い け な い 。
もちろん、この主張には理由があります。
『乳癌発生および死亡率の25年フォロー~カナダ乳癌研究』
https://www.bmj.com/content/348/bmj.g366
40~59歳の女性8万9835人を25年間追跡した研究。9万人近くを25年追跡したんですよ?すごく時間と労力をかけた研究なんだけど、カナダがなぜこんなにエネルギーを注いだか、わかりますか?それは、"結論を出すため"です。
癌検診といえば、なんとなく"ありがたいもの"ということになっている。しかし癌を早期発見し抗癌剤なり手術なりで早期治療することが、本当に役に立っているのか。患者が知りたいのは当然だけど、治療にあたる当の医者さえ、実は知らなかった。少なくとも、それがよいことであるという科学的エビデンスは存在しなかった。"多分いいことだろう"という、なんとなくの推測に基づいて、医療が行われていた。
この"なんとなく"を排し、きっちり数字で有効性を評価したい。この思いで以て、25年のエネルギーを注いで研究を行ったわけ。
さて、その結論は、
「定期的にマンモグラフィー検診を受けている人では、そうでない人に比べて、乳癌の死亡率は減少していなかった」
要するに、意味ない、ってことです。
というか、被爆のリスクとか公費負担(税金)で行われていることとか考えれば、むしろマイナスだろう。
しかしこの研究を踏まえて「じゃあ日本でも乳がん検診、廃止しようか」という話になっているかというと、全然なっていない。
なぜか?「カナダ在住の主に白人女性を対象にした研究であって風土も文化も違う日本人女性には当てはまらない」とでも?いや、人種差をうんぬんするのであれば、日本人は欧米人に比べて乳癌罹患率が低いから、検診の必要性はますます低いと思う。
検診が相変わらず行われている理由、それは、単純に医療利権の話なんだ。
先ほど「一から十まで絶対的に正しい(間違っている)ことなんて、ない」と言ったけど、そういうのがあるとするとこの利権構造だよね。
”病人が増えれば増えるほど儲かる"。この構造だけは、もう誰が何と言おうと、絶対的に間違っていると思う。