日光と健康1

これから太陽がどれほど体にいいか、という話をします。この記事を読む前と後とでは、太陽というものに対するみなさんの認識が変わると思います。認識が変わるということは、行動が変わる、ということでもあります。日光浴がしたくてうずうずするかもしれません笑

まずはこのグラフをご覧あれ。

北半球南半球赤道の死亡率変化

「死亡率は夏が低く、冬が高い」ということは統計的に昔から言われてきた。何もこれは日本でだけではない。北半球が夏で死亡率が低い時期には、冬の南半球では死亡率が最も高い。逆もしかりだし、四季のない赤道直下の国々では死亡率の季節差はない。この傾向はインフルエンザの流行など他の条件を考慮しても成り立つ。
このデータはあくまで相関で、因果関係を示すものではないから、「これが太陽の重要性を示すエビデンスだ!」とは言えないけど、なかなか示唆的なグラフだと思いませんか。

さらにこんな論文。
『スウェーデン女性における紫外線曝露と死亡率』
https://cebp.aacrjournals.org/content/20/4/683
38472人を15年間にわたってフォローした研究。北欧では日光浴を楽しむために南にバカンスに行く習慣があるが、北欧女性も様々である。「紫外線はお肌の大敵!」と信じて極力日光を避ける人もいれば、特に日焼けに頓着せず山や海でのレジャーを堂々と楽しむ人もいる。そこで研究者が日光曝露と死亡率の関係を調べたところ、休暇に日光浴をしたことがある人はそうでない人に比べて死亡率が低いことがわかった。さらに、日焼けをしたことがある人はそうでない人に比べて死亡率が低いこともわかった。

画像2

今度は逆の角度から。つまり、日光を浴びることではなく、日光を避けることが健康にどのような影響を与えるかを調べた研究。
『日光曝露の忌避は全死亡率のリスク因子である』
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/joim.12251

太陽を浴びるほど死亡率が下がる

三つグラフがあって、左は日光を毛嫌いする人、真ん中はほどほどに当たっている人、右は積極的に当たっている人。各グラフの横軸は20年の時間経過、縦軸は死亡率(心疾患、癌、その他)。見てすぐわかるように、「太陽に浴びれば浴びるほど死亡率が下がっている」(用量依存性)。日光による死亡率の低下は劇的で、「日光に最もよく当たるグループの喫煙者の死亡率は、日光にほとんど当たらないグループの非喫煙者のそれと同じ」である。
この意味がわかりますか。日光忌避は、タバコを吸うのと同程度の悪影響を与える、ということです。

さて、このように太陽の恩恵を説明しても、「いや、そうは言っても、紫外線は皮膚癌の原因って聞いたことあるけど、その辺はどうなの?」と思うかもしれない。
その通り。紫外線と皮膚癌の発症率についても、用量依存性、つまり「太陽を浴びれば浴びるほど皮膚癌の発生リスクが高まる」ことは、まず間違いない。
「じゃあ日光浴なんて勧めるなよ」と思うだろうけど、話は最後まで聞くものですよ。
なるほど確かに、日光により皮膚癌の発生リスクは高まる。しかし、研究者はこう考えた。「皮膚癌になったとしても、それは太陽の恩恵をしっかり受けている証拠であって、むしろ他の病気の罹患率は低下しているのではないか」と。
実際、調べてみたところ、日光曝露により皮膚癌以外の癌(14種類)は発生リスクが低下しており、さらに心疾患、糖尿病の発生リスクも低下していた。
『日光曝露のマーカーとしての皮膚癌~心筋梗塞、股関節骨折、死亡率との関係性』
https://academic.oup.com/ije/article/42/5/1486/622917
1980年から2006年まで40歳以上のデンマーク人(のべ440万人)を対象とした研究。以下のグラフはめちゃくちゃに衝撃的なんだけど、これが衝撃的だということが、わかりますか。

画像4

三段あって、上段が心筋梗塞、中段が股関節骨折、下段が全死亡。それぞれの段について、左側は非メラノーマ型皮膚癌(とコントロール群)、右側は皮膚悪性メラノーマ(とコントロール群)。
右下のグラフ(皮膚悪性メラノーマのカーブがコントロール群とおおよそ一致)の他はすべて、
皮 膚 癌 に か か っ て い る 方 が 死 亡 率 が 低 い
という衝撃の結果を示している。
「癌にかかるような人は、さぞ弱々しくて寿命も短いだろう」というイメージは、こと皮膚癌に限ってはまったく当てはまらないということだ。皮膚癌は太陽の残した置き土産であり、他の疾患に対してはむしろ防御的に働いている。これは案外、皮膚科の先生の実感だと思う。「皮膚癌にかかるおばあちゃんって、妙に元気な人が多いんだよなぁ」と。

どうですか、皆さん。特に女性の方々。
シミやしわ、皮膚癌のリスクをとって太陽を満喫し、同時に健康な長寿を楽しむか。これらの美容のリスクを避けて太陽を遮断し、同時に健康を危険にさらすか。悩ましい選択だけど、どうか、そう太陽を目の敵にしないで。けっこういいところもある奴なんですから。

次回、この日光の恩恵は、実はビタミンDはそれほど関与していなくて、サプリで血中ビタミンD濃度を上げても(あまり)意味がなく、他に大事な要因があるということを書きます。

参考
Dr. Paul Mason - "Sunlight and health - from Vitamin D to Fish oil"