粉ミルク(遺伝子組み換え)

出産後、数日は母乳が出ないものだから、産科クリニックから勧められた粉ミルクを赤ちゃんにあげていた。「粉」ミルクというか、1回分の用量が固形になっていて、それを哺乳瓶にいれてお湯で溶かし、人肌程度に冷めれば与える。
何の疑問も持たずに与えていたが、そのうち顔に湿疹ができ始めた。粉ミルクがダメなんじゃないか?
妻「産院で勧められたものなんだから悪いわけがない。家のほこりとかダニ、犬の毛とか、そういうののせいだと思う。もっとちゃんと掃除機かけてよ!」
そんなものかなと思って、念入りに掃除をするように心がけた。しかし湿疹はますますひどくなる。
あるとき、患者から「先生、粉ミルクはどのメーカーのを使っていますか?これ、使っていませんか?」
そう、まさにそれです。なぜ分かったんですか?
「一番売れてる商品ですから。これ、遺伝子組み換えですよ。赤ちゃんにあげちゃダメですよ

画像2

衝撃は隠せない。
僕はすっかり打ちのめされてしまった。
この世に生まれて最初に口にする食事を、遺伝子組み換え食品にしてしまった。それも2、3週間もの長きにわたって。
悔しい。
何も完璧な子育てを目指しているわけじゃない。僕は不完全極まりない人間なんだから、そんなことははなからできっこない。赤ちゃんの前で妻と激しい口論をする。本気で言いあっているものだから、汚い言葉が出る。敏感な赤ちゃんの耳は、下品な罵声もすべて吸収するに違いない。「聞かせたくないな」と思ってはいるが、仕方ない。こういうのはあきらめている。温室育ちにはしない。泥にまみれるといい。
しかし食べるものは別。一応職業柄、人に栄養指導する立場である。我が子の人生、最初の数年ぐらいは、GMOフリーで育てたい。ある程度大きくなって家族で外食なんかをするようになれば、遺伝子組み換え食品が含まれていても仕方ない。しかしせめて幼児のうちだけは、食事に関しては完璧にしたいと思っていた。
でも、いきなりの挫折である。遺伝子組み換えミルクを「おいしいだろう。よしよし」なんて声掛けしながら与えていた。
そういう能天気な自分が許せない。
妻に「これ、遺伝子組み換えミルクやぞ」と吐き捨てるように言った。「ああ、そう。じゃあ、別のミルクにすればいいじゃない」これまでの失策をまったく悔いる様子がないのも腹が立つ。必然的に、こちらも声が荒くなった。
「あのさ、状況分かってる?生まれて最初に口にした食事が遺伝子組み換えだったわけ。癌になるのか不妊になるのか知らんけど、そういうカスをつかまされたわけ。悔しいとか腹立つとか、そういう気持ちにならへんの?」
「産科の先生は親身だから、それ教えてあげれば、メーカー変えると思うよ」
知るかそんなこと!
発狂しそうになる。今後その産院で出される粉ミルクがnon-GMOになりました、とか、そんなのどうでもいい。問題は、うちの子が毒を盛られた、ということなんだから。

そう、こういう経験を通じて、僕は親心の何たるかを学んでいる。それで思うんだけど、親というのは超絶自己中だよね。世間の理不尽とか不合理とか、基本どうでもいいんだよ。うちの子さえよければ、ね。
人間は子供のためにならこんなにも身勝手になれる。
親がこういう心境になるというのは、ひとつの発見でした。もちろん人間には理性があって、あまり自己中丸出しでも世間に受け入れられないというのが分かるから、普段は隠しているわけだけど。

画像4

僕がこんなふうに赤ちゃんを可愛がっていることについて、我が家の先住者(ロン、ツモ)はどう思っているのか?犬は社会的な動物で、群れの中に序列を作って生活する。彼らは、この赤ちゃんという新参者を、どのように位置づけるだろうか?
ロン(長男。2歳)は基本的に無関心。ただ、明らかに赤ちゃんに配慮している。たとえば、ロンはうれしいときに僕に飛びついてくるけど、僕が赤ちゃんを抱いているときには飛びつかない。教えたわけでもないのに、絶対飛びつかない。赤ちゃんが潰れてしまうことを分かっているみたいだ。
ツモ(次男。8か月)は動揺していた。「新参者が来たが主人にえらく可愛がられている。僕よりも上の序列みたいだ。ということは僕はずっと一番下のランクか」そういうふうにツモは思ったようだ。すると、ツモちゃん、行動に変化が見られた。
まず、僕に異様になつく。僕にしょっちゅう体をすりつけて、僕の顔を見つめる。寝る時も枕シェアして、僕のそばで寝る。遊ぶときにボールを投げてやると、ロンへの対抗心をむき出しにして、ボールめがけて突撃する。「絶対にロン兄には譲らない!」という意欲がありありと感じられる。以前はこんなにボールに執着することなんてなかったのに。
赤ちゃんが、新参者のくせに、二階級昇進でいきなり自分を追い抜いたことについては、しぶしぶ受け入れている。だから赤ちゃんを攻撃することはない。でも、それでもやっぱり寂しい。だから、「もっと僕を見て!」と。
犬が嫉妬することは、犬を飼った経験のある人には常識だろう。
https://gigazine.net/gsc_news/en/20210409-dogs-act-jealously-dont-see-rival/
でも僕は、こんなに分かりやすい嫉妬を見たことがなかった。
赤ちゃん来て以来我が家で起こった一番大きな変化は、こんな具合にツモが可愛くなったことです(笑)

這えば立て立てば歩めの親心

五体満足で生まれてきてくれただけで大満足。いや、たとえ障害があって生まれてきたとしても関係ない。全力で愛情を注いだと思う。
しかし赤ちゃんの存在に慣れてくると、つい多くを求めてしまう。「完璧な食事でないといけないんだ」という思い込みに陥る。そもそも健康のための食事だったのに、いつのまにか手段が目的化して、遺伝子組み換えを飲まされたことに延々イラついている。「テストは100点以外認めない」という教育ママみたいじゃないか。
問題を自分で自覚できるうちはまだいい。改めないとなぁ。

画像1

これ、この世に来て23日目の顔なんだけど、、表情完成されすぎでしょ(笑)
皆さんの身の回りにもいるでしょう。「お前の顔、赤ちゃんの時の写真とそっくりやな!」みたいな。こいつはそのタイプだと思います(笑)
しかし、いい面構えだ。僕よりも妻よりもいい顔をしている。魂の年齢は僕よりはるかに上かもしれない。ミルクをあげたり抱っこしたりしながら、世話「させてもらっている」感覚になる。
そしてこの子を抱っこしていると、いつも決まって眠くなる。「幸せホルモンのオキシトシンが出ているからじゃない?」うーん、どうかな。それもあるかもしれないけど、それよりも、こいつから出ている波動じゃないかな。

妻は妊娠中、ときどき張雲さんの施術を受けていた。出産予定日の1か月ほど前のある日、妻が施術をしてもらった後、僕は張雲さんにこんなことを言ってみた。「おなかの中の赤ちゃんに気を送ってもらえませんか?」
張雲さんも興味を持って「そうですね。それ、やったことないです。やってみましょう」
張雲さん、妻の下腹部に手を当てて気を送ると、なんと、送った気が跳ね返されてしまった。これには張雲さんも驚いて、苦笑しながら言った。「こんなことは初めてです。すでに『気のカタマリ』ですから、入っていきません」

赤ちゃんは、確かに何かを放っている。赤ちゃんを抱いていると眠くなるのは、その影響じゃないかな。
それと同時に、赤ちゃんは、僕の放つ何かを吸収していると思う。
真っ白なキャンパスとして生まれたこの子は、これから、何十、何百、何千という人と出会い、その影響を受けながら、次第にこの子らしさを備えた人間になっていく。
一体どんな人間になっていくのかな。