オーソモレキュラー認定士

「オーソモレキュラー」の認定制度ができるかもしれない。
数日前、オーソモレキュラー医学会会長の柳澤先生とオンラインで面談した際、次のような話を聞いた。
「オーソモレキュラー医学の普及のため、認定資格のようなものを考えています。まだ正式名称は決まっていませんが、たとえば医師に対しては『オーソモレキュラー認定医』、一般向けには『オーソモレキュラー認定士』あるいは『オーソモレキュラーアドバイザー』といった感じです。資格の取得希望者には、おおよそ15~30コマほどの講義を受けてもらおうかと思います。
そこで、一連の講義について、中村先生の翻訳された『オーソモレキュラー医学入門』をテキストとして推奨しようかと考えています。ホッファーやポーリングたちが築いてきた、いわば古典的オーソモレキュラーの定本として、これほどよくまとまった本は他にないと思います。そこで先生、講義の大枠を作るのに、シラバス(講義一覧)のようなものを作ってもらえませんか?15~30講義のタイトルと100文字前後の概要を書いていただければ、と思います」

実におもしろい企画だと思った。
まだ実現すると決まったわけではない。柳澤先生の頭の中でおおよその青写真はできているかもしれないが、現実的には何も動いていない、まっさらな企画である。そのスタートアップに際して柳澤先生から直々に協力を依頼された格好で、僕としてはこれほど光栄なことはない。すぐさま引き受けた。
「とりあえず、3月末までに一度叩き台を作ってください」
いつも診察を終えてからブログを書くのだが、締め切りのある仕事が優先である。そこでブログそっちのけで、シラバスの作成に取り組むことになった。

資格といっても、当然、民間資格である。国家資格や公的資格ではなく、民間の団体や企業が主催するものだから、別に「国家のお墨付き」というような箔のある資格ではないが、民間主催ゆえの独自性を発揮できるのがおもしろいところだ。
柔道何段とか剣道何段とかいうけど、実はあれも民間資格の一種である。英検などの外国語検定はすべて民間資格だし、TOEICもアロマテラピー検定なんかも民間資格である。有名、無名、いろいろあって、小さい資格まで含まれば、なんと、3000種類以上あるというが、当然、取得の難易度にも序列がある。

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柳澤先生がどういう構想を練っておられるのか、僕にもわからない。先生としては、「できるだけ多くの人にオーソモレキュラーを知って欲しい」という思いがあるから、比較的容易に取得できる資格を想定していると思う。
でも個人的には、取得が相当難しい資格、「オーソモレキュラー認定士の資格を持っている」と言えば周囲の人が「あの合格率5%の?!」とびっくりするような資格だったらおもしろいのに、と思う。講義はあくまで「オーソモレキュラー医学検定」を受験するための前提で、事前講義(30コマ)の出席者が本試験の受験資格を得る。試験問題は『オーソモレキュラー医学入門』をきちんと読み込んだ人なら十分合格点を取れる難易度にすべきだけど、満点をとられるのはちょっと癪なので(笑)、1、2問、かなりマニアックな知識を問う問題を入れたい。満点をとりたい人向けに「オーソモレキュラー医学検定 対策問題集」とか出版すれば売れるんじゃないかな(笑)

いや、資格には興味がなくても、「オーソモレキュラー医学について深く知りたい」という需要は、近年確実に高まっていると思う。
たとえば、医者のなかにも、自分の臨床に行き詰まりを感じている人は絶対いると思う(というか、「西洋医学の流儀だけで病気治療はバッチリだ」と思っている医者は今後やっていけなくなると思う。ネットで情報を調べまくっている患者は、自分の病気については、もはや医者より詳しくなっている)。「何か他に方法はないものだろうか」と、東洋医学、ホメオパシー、アーユルヴェーダなど、西洋医学とは別の治療体系を模索する医者が、オーソモレキュラーの存在を知ったりする。「確かによさそうだ。オーソモレキュラーを体系的に学べる本はないだろうか」となったとき、自分で言うのも何だけど、拙訳『オーソモレキュラー医学入門』に勝るものはない。
もちろん、この本は事典ではないから、「オーソモレキュラーのすべてが書かれている!」なんてことはないよ。しかし、過不足なくまとまっているというのかな、「簡にして要を得た」という点では、すごくいい本だと思うの。HofferとSaulの本気が詰まった本。すごくないわけがない。

何日か前、当院に管理栄養士の学校に通う若い女性から手紙が届いた。ざっと、このような要旨である。
「中村先生の実践しているオーソモレキュラー療法に興味があります。中学時代、子宮頸癌ワクチンの接種を受け、その副作用で1年半学校に通うことができませんでした。オーソモレキュラー療法で症状が回復し、今では元気に過ごしています。先生のもとでオーソモレキュラー療法を学ぶことは可能でしょうか」
「ああ、この人は分かっているんだな」と思った。そして、僕と同じだ、とも思った。
医学部の学生のときから、西洋医学の茶番に気付いていた。医者になってからも、「こんな薬、毒にしかならないのに」と思いながら、つまらない医療をやり続けた。ついに我慢の限界が来て、独立開業した。
この人はワクチン被害の経験から、西洋医学のデタラメを身を以て知っている。管理栄養士の学校で学ぶ知識にしても、「すべてが正しいわけではない」ことに気付いている。自分が信じられない知識を現場で実践するとなれば、きっと良心が痛むことだろう。
だから、僕は、この人の気持ちがわかった。しかし、だからといって、「では当院で管理栄養士として働きなさい」と言ってあげることが、果たして正しいことなのかどうか、そこについては自信がない。
研修医を終えてすぐに開業したかったが、不本意ながら、一般の精神科病院で勤務を続けた。そのせいで、隔離病棟で拘束され尊厳を奪われた患者、長期の抗精神病薬の投与で人間性を失った患者など、思い出したくもない無数の患者の記憶が胸に刻まれることになった。
でも、そういう経験がまったくの無駄だったかというと、そうではないと思う。二度と経験したくないことではあるけど、それでも、思う。「ああいう現場を一度は見ておいてよかった」と。あのつらい時代をすっ飛ばして即開業してたら、今の自分はなかったのではないか、とも。
管理栄養士として一般病院などで勤務する経験は、決して無駄にはならないと思う。「カロリー計算的に正しい」とされている病院食が、「パン、マーガリン、牛乳、卵1個、リンゴ1片」とかさ、「常識的に考えて、こんな食事続けたら逆に病気になるだろ」みたいなデタラメはきっとあると思う。それでも、そのデタラメを直視するのよ。目をそらさずに。
いろいろなことが見えてきて、「社会ってこういうことなんだ」って気付くこともあったりして、なんやかんや、案外矛盾に適応する人もいる。世の中の大半ってそういう人よ。当初の「社会悪、許すまじ!」の思いをずっと維持できる人なんて、実際にはほとんどいない。
もしあなたが「やっぱり矛盾に耐えられない」となれば、そのときにまた改めて、お話を聞かせてください。