フルボ酸

サプリメントは、基本的には、摂り過ぎても特にどうということはない。こういうのを薬理的には「安全域(safety margin)が広い」と言います。たとえばビタミンCとかビタミンK、マグネシウムなんかの安全域は、あってないようなもん、だと思ってもらっていい。飲み過ぎてもせいぜい下痢をする程度である。
ただ、「メガビタミン療法というくらいだから、どんなサプリもドカ飲みするもの」と思われては困る。
脂溶性ビタミン、たとえばビタミンDなんかは、多少気を遣ったほうがいい。血中濃度が充分なのにビタミンDを大量に飲むと、相対的なマグネシウム不足(Dは活性型になるのにMgを要求する)になるし、本来調和して作用する他の脂溶性ビタミン(A、E、K)とのアンバランスをきたすことがあるから。

あと、ミネラルサプリは過剰摂取しないのが基本。「メガビタミン療法」はオッケーでも、「メガミネラル療法」はあり得ない、と心得ておこう(ただし、マグネシウムをある程度しっかり摂ってもらうことはある)。
ミネラルサプリで特に気をつけたいのは、カルシウム、鉄、銅である。
以前のブログで紹介したけど、Thomas Levy博士は「カルシウムと鉄はサプリによる補給は一切不要」と主張している。
『毒になる栄養素(Toxic Nutrients)』
https://riordanclinic.org/2016/06/toxic-nutrients/
博士はもちろん、食事由来で摂取する分には否定していないよ。小魚にはカルシウムが、ほうれん草には鉄が、イカやタコには銅が、それぞれ含まれている。おいしく食べればいい。ただ「あえてサプリで補ってはいけない」という。その理由を説明しよう。

「カルシウムが骨の健康にいい」というのは全くの迷信。カルシウムの過剰摂取は、むしろ慢性疾患を促進する。血中カルシウム濃度増加→細胞内カルシウム濃度増加→酸化ストレス増大→各種慢性疾患へ、というのが一連のストーリーだ。
実際、カルシウムチャネルブロッカーというタイプの薬(血管平滑筋へのカルシウムの流入をブロックする。降圧薬として用いられる)があるんだけど、この薬の服用によって全死亡率が低下する、という研究がある。あまり薬の宣伝になるようなことは紹介したくないけどね(笑)
でも薬を飲むぐらいなら、マグネシウムを飲めばいい。マグネシウムは、天然のカルシウムチャネルブロッカーそのものだから。

鉄は安全域が狭いミネラルだから、すぐ毒性濃度になる。化学的には2価(2+)と3価(3+)の二通りのイオン形態をとって、細胞内で電子の能率的な受け渡しに貢献している。ただ、細胞内で鉄濃度が増加すると、フェントン反応によるアップレギュレーションにより酸化ストレスが増加し、電子が過酸化物に供与される。結果、高反応性ヒドロキシラジカルが発生する。カルシウム同様、「酸化ストレス増大→各種慢性疾患へ」という流れだ。
鉄サプリは、赤血球数とフェリチンが正常なら一切不要である。「ヘモグロビンが正常なら、鉄1分子さえ補充する必要はない」とLevy先生は言ってる。「フェリチンが100を超えているようであればむしろ危険である。何とかしてフェリチンを下げるよう(できれば50以下が望ましい)、努めねばならない。たとえば献血に行くとか、サウナでしっかり汗をかくとか、イノシトール6リン酸(IP6)のサプリを飲むとかするといい」

日本では逆に「フェリチンを100まで上げるべし」という考えが広まっていて、これを真に受けた人たちが鉄剤を飲みまくり、かえって体調を崩した、という話は今も時々聞く。
Levy先生も鉄剤を全否定しているわけではない。鉄欠乏性貧血の女性に対して鉄を補えば、当然不調は改善される。ただ、鉄は両刃の剣だから使い方に重々注意しないといけない

「鉄剤の投与以外に鉄欠乏性貧血を是正する方法がないものか」、僕はずっと模索してきた。
以前の記事で、シラジットというハーブを紹介したことがある。臨床でもときどき使っていて、患者の声を通じて効果の有無を調べてきたが、最近フルボ酸(fulvic acid)に注目している。
『フルボ酸とフミン酸が組織中の鉄、マンガンに及ぼす影響』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28244332/
鉄とマンガン、はおもしろい組み合わせで、「ケルブランの原子転換」的には両者は相互に変換され得る「同じようなもの」だが、その点はここでは深く立ち入らない。ただ、結論として、「fulvic acid proved to be a good iron source」(フルボ酸は鉄の供給源となることが示された) ことは有意義である。

iHerbなどでフルボ酸を検索すると、複数の商品が見つかるだろう。そういう商品をごっそり集めて、それぞれに含まれるミネラル含有量、ポリフェノール、フラボノイド含有量、抗酸化能力などを調べた研究がある。
『フルボ酸飲料のミネラルプロファイルと抗酸化能力』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6963745/
フルボ酸飲料14種類のうち8種類で、1日摂取量で鉄の1日推奨摂取量(RDA)の45~135%が摂取できた。そのうちの1種類は、マグネシウムもしっかり含まれており(RDAの40%)、別の1種類はマンガンをよく含んでいた(RDAの70%)。全ポリフェノール濃度と全フラボノイド濃度は、6.5~187 μg/mLと差があった。
結論として、「総じてフルボ酸飲料の摂取は、抗酸化ポリフェノールやある種のミネラルの供給源として好ましい可能性がある」。

治療への応用も進んでいる。
『慢性炎症性疾患および糖尿病におけるフルボ酸の治療効果~レビュー』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30276216/
長い論文を一言で言うと、
「フルボ酸が慢性炎症性疾患(たとえば糖尿病など)の予防に有効であることは確かにエビデンスがある」。これがレビューの結論。

すばらしいじゃないか。鉄剤の投与は、体に酸化ストレスを生じさせ、炎症を起こしてしまう。しかしフルボ酸なら、鉄の補給ができると同時に、むしろ抗炎症効果があるのだから、断然こっちを使うべきでしょ。

【症例】15歳女性
2020年10月19日、感情の不安定(衝動、不安、緊張)、過食を主訴に来院。
初診時、食生活の改善指導に加えて、ゲルマニウム、CBDオイルなどのサプリを勧め、その後の経過をフォローした。
症状は少しずつ改善していたが、2021年1月23日の受診時、症状が著明に悪化していた。「受験が近付いていて不安で仕方ない。かといって、勉強はできない。体がだるく、思うように動かない。そのストレスで過食してしまう。自殺衝動さえある。というか、実際に手首を軽く切ってしまった」
ここでフルボ酸の服用を勧めた。
2021年2月5日再診。
「無事高校に受かりました。いろいろサプリを勧めてもらい、それぞれ効いたと思いますが、フルボ酸を飲みだしてかなりよくなったと思います。何がいいと言って、便通です。1日3回も出るのには驚きました。
1月には自殺衝動で手首を切っていたんです。それがこうやって高校に合格できるなんて。自分でも夢みたいです」

便通がよくなった、との感想は予想外だった。
しかし、便通がよくなるということは、単に「糞づまりが解消した」どころではなく、途方もなく重要な意味を持っている。フルボ酸の持つ抗炎症作用が何らかの機序で腸内環境の改善をもたらし、結果、便通はもちろん、脳神経系の炎症に由来する様々な症状が軽快したものと推測される(誤解を恐れずに言うと「腸がよくなれば、すべてよくなる」)。
フルボ酸はまだ効能や作用機序についても研究が始まったばかりで、未知の部分が多いけど、かなりのポテンシャルを秘めていると思う。