大量に飲めばいいってもんじゃない

「先生、ビタミンCのサプリってダメですか?ちょっと前のブログでみかんで食べたほうがいいって書いてあって」
いや、サプリがダメなんて言っていません。食べ物でとるほうがベターだよ、ってだけです。必要に応じてサプリで摂取してもらって全然かまわない。
たとえば、2日前に出たばかりのこんな論文。
『マウス脳に対するLアスコルビン酸強化食の濃度依存性効果』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33719957/
ビタミンCを添加した食事をネズミに食べさせる。その添加量に応じて、脳機能や抗酸化力にどのような変化があるかを調べた。
【方法】マウスを以下の4群に振り分ける。普通のエサを食べる群、食事量kgあたりビタミンCをそれぞれ100㎎、200㎎、300㎎含む群。
8週間これらのエサを食べさせ、57日目に行動テストを行う。いろんな迷路を歩かせてみて、記憶力やら空間認知なんかを調べる。その後安楽死させ、脳組織の具合を調べる。具体的には、脳内のアセチルコリンエステラーゼ活性、脂質過酸化反応、抗酸化状態、炎症マーカー、アポトーシスマーカーを調べた。
【結果】
体重、広場行動、作業記憶、不安指数について、用量依存的な相関が見られた。つまり、ビタミンCの添加量が多ければ多いほど、体の発育がよく、空間認知や記憶力に優れ、不安行動が少なかった
また、脳内のマロンジアルデヒド、カスパーゼ3、TNFαは用量依存性に減少し、かつ、SOD(スーパーオキサイドディスムターゼ)活性、抗酸化能力、IL10濃度は用量依存性に増加した。
要するに、ビタミンCをとればとるほど、脳内の炎症性物質が少なく、抗酸化物質が多かった、ということです。

こういう実験で使っているビタミンCは、工業的に作られるごく当たり前のアスコルビン酸である。アセロラやカムカムから抽出した天然のビタミンC、というわけではない。
みなさんがドラッグストアで買うような普通のビタミンCサプリでも、しっかり摂取すれば、上記のような効果が望める、ということです。

最近、オリゴスキャンというミネラル測定器を当院で導入した。21種類の有用ミネラルと15種類の有害金属の体内蓄積量が推定できる検査である。多くの情報が瞬時に得られるので。非常に重宝している。
有害金属の異常高値は珍しくない。というか、この検査を受ける人のほぼ全員に、何らかの有害金属の蓄積が見られる。
たとえばこのように鉛が蓄積していたりする。

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どのようにデトックスすればいいのか?
拙訳『オーソモレキュラー医学入門』の119ページを参照してもらうといい。

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有害金属のデトックスといえば、まず、何と言っても、ビタミンCである。
「1日たった100㎎のビタミンCを摂るだけで」鉛中毒の症状が改善したというのだから、サプリを摂らない手はない。

さらに、こんな論文がある。
『肝臓の鉛中毒に対するアスコルビン酸とチアミン(ビタミンB1)の効果』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17878260/
結論から先にいうと、ビタミンCにもB1にも鉛のデトックス効果があるんだけど、この研究でおもしろいのは、量をとればとるほどデトックス効果が高いわけではない、と示したところ。
66匹のネズミを、11の群に分ける(各6匹ずつ)。どういう群かというと、
飲ませる飲み水が(1)普通の水の群、(2)0.2%の鉛を含ませた水の群、(3)~(11)について、体重kg当たりビタミンCが140㎎、420㎎、1260㎎、ビタミンB1が10㎎、30㎎、90㎎という具合に、3×3のマトリックスでそれぞれの群に分けた。
この飲み水でそれぞれ過ごさせ、42日後に肝細胞のDNA損傷、SOD、グルタチオン-ペルオキシダーゼ(GSH-Px)活性などを調べた。
結果、(1)群に比べて、(2)群でヘモグロビン、GSH-Px、SODが低下していたのは当然の話。これこそ鉛の毒性そのものだから。この毒性が、ビタミンCやB1を飲み水に添加することで軽減されたわけだけど、意外なのは、CやB1の添加量が多ければ多いほど好ましいわけではなかったこと。一番毒性を軽減したのは、Cを420㎎、B1を10㎎投与した群、次がCを420mg、B1を30㎎投与した群だった。最大量投与群(Cを1260㎎、B1を90㎎投与した群)では、逆に毒性軽減効果は失われていた

この結果は、僕を含めオーソモレキュラーを臨床で実践している人にとってはかなり意外である。基本的に、高用量のビタミン摂取をよしとする流儀なので、「摂りすぎては逆効果になる場合がある」という反例に出くわすと、当惑してしまう。最初に挙げたマウス脳の研究のように、ビタミンをとればとるほど症状が軽減する、という事例が多いのは確かだけど、必ずしもそうではないわけだ。
上記のCとB1の投与実験は、「過ぎたるは及ばざるがごとし」を示している。なぜこのような結果になったのか、メカニズムが気になるところであるけど、僕はこのあたりに、サプリの限界を感じるのよ。これがビタミンCとB1のサプリではなく、ミカンのしぼり汁と米ぬかの抽出液を用いたものであったら、まさか、毒性軽減効果が消滅する、ということはあり得ないと思うの。恐らく用量依存性に毒性軽減効果が見られたんじゃないかな。
サプリは病気を治療する上で有効な武器だけど、同時に、必ずしも万能ではない、ということも知っておこう。