CBDオイルと大麻取締法

最近、大麻の使用で芸能人が逮捕されて、ああいうニュースを見ると胸が痛い。また大麻のイメージが悪くなってしまうなぁ。
今回逮捕された某氏の言葉「大麻で人生崩壊するのは難しいと思うけどな。それならお酒の方が簡単だ」
まったくその通りで、この言葉には科学的な裏付けがある。
たとえばこんな論文。
『薬物有害性評価スケールの開発』
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(07)60464-4/fulltext#:~:text=Discussion-,Summary,abuse%20are%20major%20health%20problems.&text=The%20process%20proved%20practicable%2C%20and,used%20by%20current%20regulatory%20systems.
論文中に、このようなグラフがある。

画像1

アルコールによる害(アルコール依存などの健康被害、酔っ払い運転、酩酊によるケンカなど)は誰しも身近に知っているが、大麻はそれよりも無害、というのがデータの示すところである。

しかし現在の日本では、酒はオッケー、大麻はアウト、ということになっている。なぜ大麻はダメということになったのか。
答えは簡単で、戦争に負けたからである。大麻の禁止はGHQの占領政策のひとつだった。
もともと日本では大麻は古来から有用な植物として利用されてきた。神道の祓いにおおぬさ(大麻)は欠かせないし、宝物を封じる麻ひも、弓の弦、大相撲の化粧まわし、さらに庶民の着物、下駄の鼻緒、ずだ袋などなど、すべて大麻の恩恵にあずかっている。大麻がダメというのは、日本文化の否定そのものといっても過言ではない。

『大麻取締法の設立経緯』
https://asafuku.net/?p=4628
「しかし結局のところ、これが"戦争に負ける"ということの意味である。GHQはわかっていた。建物や家屋を空襲でどれだけ破壊しても、日本人は再び立ち上がるだろう。それではいけない。日本を日本たらしめている精神的要素、文化の粋。ここを徹底的に叩かねばならない。大麻と日本文化のつながりが深いのであれば、なおいっそう、大麻を撲滅せねばならない。ただの葉っぱ、ではない。GHQは日本人にとっての大麻の精神的意味を十分に見抜いていた。だから、大麻栽培は問答無用で禁止とした。
これに対して危機感を持ち、立ち上がった日本人がいる。日本文化と密接な関わりのある大麻を取り戻すために、GHQと交渉し、協議の上に制定されたのが、大麻取締法である。この法律のおかげで、"茎と種の活用が目的であれば"という条件付きながら、堂々と大麻の栽培が可能になった」

これは知らなかった。もっとひどい状態にもなり得た、ということだ。つまり、茎も種も含めた大麻全草が利用できなくなっていた可能性も十分にあった。茎がダメなら麻線維を使った製品はすべて日本から消滅していただろうし、種がダメなら七味唐辛子は六味唐辛子になっていたことだろう。
GHQとしては日本から大麻を根絶やしにしたかったが、ぎりぎりの理屈(大麻の商業作物としての優秀性)で「茎と種だけは何とかお目こぼしを」と交渉して、その成果が大麻取締法として結実した、というわけ。そういう意味で、まだしも、大麻文化は守られたんだな。

でも、もういいんじゃないかな。
大麻取締法のそもそもの設立意義は、規制のためというより、むしろ保護するためだった、という視点は新鮮だけど、一般人の大麻取締法に対する認識は、「葉っぱを吸ってラリパッパになっている不届き者を成敗するための法律」程度のものだろう。実質、規制の意味合いしかないと思う。
僕としては、大麻取締法を改正するか撤廃するかして、葉や花穂の使用を認めて欲しい。
CBDオイルの有効性について過去に何度も書いてきた。だから、大麻が薬としていかに優秀かということはここでは繰り返さない。僕は、一医療者として、この大麻成分ができるだけ多くの人の知るところになり、そして気軽に、安価に使えるようになれば、と願っている。
CBDオイルを普及する上でブレーキになっているのが、値段の高さである。現状、日本でのCBDオイルの値段は高すぎる。日本で使われるCBDオイルに含まれるCBD(カンナビジオール)は、すべて茎から抽出されている。実はCBDは葉や花穂に茎の100倍くらい高濃度に含まれているのだが、大麻取締法が葉の使用を禁じているため、葉から抽出した成分を使えない。そのせいで、CBDオイルの価格が日本でだけ異様に高騰することになる。
当院では10%のCBDオイル(30ml)を2万2千円で扱ってるけど、2万円を超えるとなると患者はそれだけで躊躇するし、勧める僕自身も心苦しい。でもこれが仮に2千円なら、ずいぶん手が出やすくなるだろう。

少し潮目が変わりそうな予兆もある。
CBDオイルは海外では当たり前に使われているわけだけど、東京パラリンピックに出場予定のとある選手が持病のてんかん発作の抑制にCBDオイルが必須だった。海外のCBDオイルはわざわざ茎から抽出なんてしていない。当然葉っぱから抽出しているし、品質管理がけっこうアバウトで、日本では禁止されているTHC(酩酊成分)も含んでいたりする。つまりこの選手は、日本のバカげた法律のせいで、自分の命綱のCBDオイルを日本に持ち込めないことになる。ホスト国としてどうなのか、という話になった。

2019年3月に、ずばりこの点(「医薬品としてのCBD製剤が国内で使用できない問題」)について国会質問が行われ、大臣から「ひとたび治験計画が提出されたら、国は厳正に審査する」という答弁を引き出すことができた。これを受けて、聖マリアンナ医科大学などの専門家からなる研究班が発足し、てんかんに対する治験が進められることになった。
海外ではサティベックスやエピディオレックスなどの大麻成分を使った医薬品が普通に処方されている。当然これらの成分は大麻の葉から抽出している。聖マリで行われている治験の有用性を厚労省が認めたら、CBDオイルの値段がかなり下がることになるだろう。
厚労省の役人のなかにも、今の法律がおかしいと思っている良識派はいる。飯塚先生が「大麻取締法が制定された時代は、THCやCBDの成分同定もできなかったし、どの部位にどういう成分が多いかもわからなかった。成分ではなくて、葉そのものを一律に禁止、というのがあまりにも前近代的」と言ってたけど、法律の改正に期待したい。

2020年6月、『Epilepsy & Behavior Reports』誌に日本初のCBDが著効した難治性てんかんの症例報告が掲載された。
『てんかん脳症を伴う生後6か月児のてんかんにカンナビジオールが著効した症例』
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2589986420300216
文字通り"何をしても治らない"てんかんだった。抗てんかん薬を12種類も試したが効かない。患者の親も医者も、絶望的になっていた。その難治性てんかんがCBDオイルであっさり治ってしまったという、奇跡のような話。
いい話のようだけど、こういうのが奇跡であってはいけないと思う。「てんかんなら大麻がいいよね」というのが常識にならないといけない。僕らは、かつてそこらへんに雑草のように生えていた葉っぱを、取り戻さないといけない。
ここ1,2年が勝負になるんじゃないかな。