親と子

「休校になって以後、中学生の息子がずっと家にいます。それがストレスです」
子供と一緒に時間を過ごせるのに、それがストレスですか?
「子供が学校に行っているとき、私、基本的にごろごろしてるんですね。スマホいじって、疲れたら昼寝して、っていう。
子供が家にいて、宿題とかやってるのに、そのすぐ横で自分だけごろごろしていられない。そういう姿を見せるのは、ダメかなって思って。
いつもは週に3回ほど習い事に行ってるんですけど、今はコロナの影響で休業してて、それでますますやることがありません。
家にいつも子供がいるというのがこんなにストレスだとは、私自身思ってもいませんでした。
コロナが流行していることもあって、外に積極的に出る気もしないし、本当、困っています」

40代女性で、年齢的には僕とほとんど同じである。このお母さんの悩みに、僕は深く共感した。
子供がいれば、親になる。親としての言葉を話すし、親としての姿を見せないといけない。
でも始終そういう格好をするのは、疲れてしまう。
それは当然のことだ。お母さんだって人間である。「親である前に、私は私だもの」と言いたいときもある。
子供の目を気にせずスマホをいじりたいし、ごろごろ昼寝をしたい。

それで、実際のところ、どうしてるんですか?
「子供に何かしてあげないとって思って、DVDを大きいスクリーンに映して映画みたいにして一緒に見たり、一緒に散歩したり。普段の私なら絶対しないようなことです。
中学生の子供とこんなにずっと一緒っていうのが、幼稚園に行く前以来のことで、どういう距離感で接すればいいのか、私にもいまいちわからなくて。今までの日常がなくなって、戸惑っています。
好きなようにごろごろして、好きなように外出して、子供が学校から帰ってくる前には家にいるようにして、っていう当たり前の日常が、なくなってしまいました。
何だかしんどいです。自分らしくないことをしているなぁって。
そもそも自分らしさって何だっけ、みたいなことも思いますけど」

コロナの余波がこんなところにも^^;
お母さんの気持ち、わかるなぁ。
僕は、幸か不幸か、独身で子供もいないから、僕自身、子供のままでいられる。家でずっとスマホをいじっていても、誰にも怒られない。
でも、子供がいればきっと、格好をつけるようになると思う。
たとえスマホを使って英語論文とか読んでいたとしても、スマホを長時間見ている姿を見せることは教育的ではないと考えて、あえて本を読むスタイルで勉強するかもしれない^^;
「子供は親の背中を見て育つ」という言葉は、「子供は、親に言われることをするのではなく、親がしていることをする」とも解釈できる。
このお母さんも、そういう言葉を知ってか知らずか、子供の前で気を張っているわけだ。

でも、もう少し息子のことを信じてもいいんじゃないかな。
中学生にもなれば、「親も人間」ということがわかるようにも思う。
ときにはスマホいじってだらだらするし、間違えたことも言うし、感情的に怒ってしまうこともある。
「親も、一人の人間なんだ」と気付いた瞬間、親に対して少し優しい気持ちになれる。

この息子さんは、休校が始まって以来のお母さんの不自然な感じに、気付いているんじゃないかな。人間関係って鏡だから、息子のほうでもストレスを感じているかもしれない。
ただ、母の不自然さに気付いていたとしても、「そんな、俺に気を使って、カッコつけなくてもいいよ」とか、そこまで大人ぶったことはなかなか言えないだろうけど。

いつまでも親に完璧を求めることを、甘えという。
親と子の関係性は一生変わらないけど、同時に、親も一人の不完全な人間なんだと気付くことが、大人への第一歩なんだな。