選択的夫婦別姓

『選択的夫婦別姓「賛成7割」、高齢男性に根強い「他の夫婦も同姓がいい」という価値観』
https://news.yahoo.co.jp/articles/028e304846c8e5042a25caf59118639ce2dc7272

選択的夫婦別姓の議論が盛り上がっている。
ある記事で、こんな意見を見た。「結婚すれば女性が夫の名字を名乗る、これを"日本の伝統だ"とする主張があるが、間違っている。そもそも庶民が名字を名乗り始めたのは明治に民法ができてからのこと。戸籍やら家制度が整備されて、その過程で、夫婦同姓という習慣が始まった。明治から始まった新しいルールであって、伝統でも何でもない。古来の伝統をいうのなら、武士階級は源頼朝と北条政子のように夫婦別姓が基本だった」

おもしろい指摘だね。
現代日本を生きる人にとって名字があることは当然のことで、江戸時代以前にはそれが特権だったなんて意識は全然ないだろう。
ただ、名字というものについて、女性は男性よりも割と冷めた目で見ているような気がする。僕は男だから、自分の名前というのは基本的に"一生もの"で、名前が変わることなんて想像もしてないけど、女性は「結婚によってあっけなく変わるもの」という漠然とした諦念といか予感というか、無常観みたいなのがあるんじゃないかな。
だからこそ、というべきか、女性は下の名前へのこだわりが男性よりも強いような気がする。女性にとって名字で呼ばれることは、どこか"世を忍ぶ仮の姿"的な、「一応その名前が自分を表す記号だから呼びかけには応じますけど」みたいな、仮称の雰囲気があって、でも下の名前こそ、本当の名前。プライベートな、本当の自分の重心が宿る部分。好意のある異性に下の名前で呼んでもらうことは、名字で呼ばれることと意味がまったく違う。何より心に触れられる気がする。逆に、嫌な男性上司に下の名前で呼ばれることは、冗談でも虫唾が走る。「私の心に土足で入ってくるな」という不快を感じる。

選択的夫婦別姓について、僕の意見は、「特にない。どっちでもすれば」、という感じだ。
ただ、夫婦別姓に賛成する女性の意見として、「結婚による名字の変更によりキャリアが分断されてしまう」というのは、確かにそうだと思う。論文とか読んでて、結婚以前の研究、結婚以後の研究で、名字が変われば、同じ筆者が書いたのかどうか、わからなくなるかもしれない。旧姓をミドルネームで入れるとか(Hanako Sato Suzuki)、鈴木(佐藤)花子みたいに括弧つきで入れるとか、ちょっとした工夫でまぁ問題ないといえばないけど、煩雑だよね。
でも、これがために「夫婦別姓賛成」とまでは思わない。そもそも優秀な女性は、こんなことでグチグチ悩んで立ち止まらないと思う。新しい名字にすぐになじんで、さっさとキャリアを築いていく。優秀だから周りが放っておかず、とんとんとキャリアアップしていくものだ。

僕が夫婦別姓に賛成する理由があるとすれば、もっと別の理由。
たとえば親が子供に名前をつけるときって、名字とのバランスってあると思うの。名字が4文字(なかむら)か、3文字(すずき)か、2文字(たに)か、みたいなのも影響すると思うし、音韻、響き、字面、いろんな要素が影響する。そういういろんな要素とか踏まえたうえで、そこにさらに親としての願いとか希望をも込めて、子供の名前が付けられるわけだよね。
でもさすがに、親は予言者ではないから、結婚相手の名字までは予想できない。そこで、悲劇というか喜劇というか、起こってしまう。
鈴木由美子のマンガ『オマタかおる』はこの点を真正面から見据えていた。主人公世良香(せらかおる)には小俣五郎(おまたごろう)という恋人がいたが、あるとき気が付いた。彼と結婚しては、名前が小俣香(おまたかおる)になってしまう、と。これが彼女にとって最大の不幸かつ最大の悩みとなった。
不幸の遺伝子というべきか、なんと、香の母(千代)も、結婚による名字の変更によって、大変な後悔を背負った人であった。世良家に嫁いだことで、世良千代(せらちよ)となり、「何かに似ている名前」になってしまった。
このマンガがおもしろいのは、作中人物がそういう名前にまつわる不幸に見舞われつつも、なんだかんだ明るく乗り越えていくところ。現実世界もこうあるべきだと思う。中学生のとき、下の名前が真希ちゃんという同級生がこう言ってた。
「スラムダンクに牧紳一ってキャラが出てくるけど、私この人と結婚したら牧真希でマキマキになっちゃうなー。原さんと結婚してもちょっと嫌かも。だってハラマキになっちゃうから」って笑ってた。別に深刻に言ってるわけではなくて、持ちネタにしてるようなたくましさがあった。
女性は、異性の選択に際して、その人の名字と自分の名前とのバランスさえ意識しないといけないわけだ。
このあたりを"女性に課せられた不公平"ととらえるかどうか。選択的夫婦別姓が導入されたら、こういう問題は決着するのかな?
結局女性の主張としては、「あなたの顔、性格、能力、年収などのスペック。すべて、私の結婚相手として申し分ありません。あなたの妻になりたいと思うし、あなたの家庭に入りたいと思います。ただ、あなたの名字と私の名前、その相性が最悪なので、あなたの名前だけは断じて引き受けるわけにはいきません。名字だけは旧姓のまま通させて頂きます」ということで、こんなこと言われた男性は心中相当複雑じゃないかな笑