6月11日土曜日 くもり、インボイス|箱庭日記

ごきげんよう
去年くらいからよく聞くようになった「インボイス制度」
ぼんやりと「個人事業主が困る」「文化が消える」みたいな角度から語られ始め、美術作家である自分は「あれ、わたし消えるのか」というぼんやりとしたかなしみを抱いておりました。で、今どういう風に語られているかというと
・世の中には免税事業者というものがいて、消費者から不当に消費税を取り、懐に入れていた
・今まで消費税をちょろまかしていた事業者が消費税を納めるだけの話
・よくわからないけど個人事業者は仕事が激減するらしい
・個人事業主の収入が10%減るらしい
・好きな作家やアニメーターが苦しむのは消費者としてつらいので反対

かな?と思います。基本的には「個人事業主が困る」が論点で「それは困る」or「そんなの知ったこっちゃない」ということで賛否両論といったかんじかなーとおもいます

立場として私も反対なのですが、考えとしてはみんなとはちょっと違っていて、
・消費者:負担が増える(ステルス消費税増税)
・事業者:給料を減らして仕事を増やしますと言われている状況(えげつない事務負担)
の2点かなと思います。

なぜかというと、そもそもインボイス制度とは「(消費税)免税事業者が課税事業者になる制度」ではなく「仕入税額控除の要件が適格請求書(インボイス)の保存となる制度」だからです。

どういう意味?ってかんじですが、自分なりに調べて考えたことからしゃべっていきます(ので、違っていることがあったらごめんなさい、直しますー)

まず、わたしたちが普段買っているものには消費税が8%のものと10%のもの、そして0%のものがあります。
それぞれ、課税事業者が売っているもの、免税事業者が売っているものです。

ものを売る上では色々な仕入があり、どの事業者も既に色々な消費税を支払っています。
ただし、消費税は消費者が支払うもので、仕入は消費ではないので、この時点で事業者は支払わなくていい消費税を支払っています。

ここで整理をします。事業者は
・支払う必要の無い消費税を仕入段階で支払い、売ったものから更に消費税を納める「消費税支払いまくりの課税事業者」
・支払う必要の無い消費税を仕入段階で支払い、売ったものからは消費税を支払わなくていい「変な段階で消費税を支払ってはいるけど本番(自分が売ったものにかかる消費税)では納めなくていい免税事業者」
の2パターンになりました。課税事業者さんはかわいそうです。

で、実際にはそんなことはなく、課税事業者は仕入段階の消費税が「仕入税額控除」というものでしっかり控除されております。これは仕入時に安く買っているわけではなく、納税時に減額されています。
整理をします。事業者は
・支払わなくていい消費税は支払わず、最終的に売った物の消費税を納める課税事業者
・支払わなくていい消費税を支払うが、最終的に売った物の消費税は納めなくていい免税事業者
の2パターンになりました。かわいそうでヤバい課税事業者さんは架空の存在でした。よかったよかった

インボイス制度の導入で免税事業者がバッシングを受けているのはここで、「免税事業者は消費者から不当に消費税を取っていた」と思われるからです。
実態はこうです。

①いくらで売ろうが非課税なので、5500円で売ったところでそれは5500円のものということであり、500円が消費税というわけではありません

②5500円で値付けをする時に、500円を消費税として捉えることはします。ただしそれは消費者から受け取るためではなく、既に仕入時に支払っている支払い不要分の消費税を、売上からちゃんと回収できるようにするということです。免税事業者は仕入時の消費税が控除されないので、それを加味した価格設定をする必要があります

③5500円で取引する時に、取引先に500円分を消費税として請求することができます。これにより、②の回収ができる上、取引先が課税事業者であればこの500円を控除できるので、Win-Winです

④課税事業者になるかならないかの売上の人は、課税事業者になったときに突然値上げをするわけにもいかないと思うので、売上の傾向をみて免税事業者の頃から段階的に値上げをします

⑤税金のことをよくわかっておらずふわっと商売しているふわっとした事業者さんは、免税事業者だからとやたらに安い価格設定をして赤字になっている、という人もいると思います

こんなかんじなので、消費者から不当に消費税を取って懐に入れていた!というのは、そうっぽいけどそうではないということです

ここで話を戻します。
インボイス制度とは「(消費税)免税事業者が課税事業者になる制度」ではなく「仕入税額控除の要件が適格請求書(インボイス)の保存となる制度」です。
※invoice:請求書

これについて整理をしていきます
ポイントは「仕入税額控除」です

仕入税額控除とは、最初に書いた通り、課税事業者が消費税支払いまくりにならないために、仕入時の消費税を控除する制度です。先ほどの③もそれにあたります
この仕入税額控除が適格請求書じゃないとできないよ~というのがインボイス制度です
適格請求書とは、レシートや領収書とはことなる書類で、[  課税事業者しか発行できません  ]
つまり、③ができなくなるということです。

ここでもう一度③をみてみますね
“③5500円で取引する時に、取引先に500円分を消費税として請求することができます。これにより、②の回収ができる上、取引先が課税事業者であればこの500円を控除できるので、Win-Winです”

免税事業者のままでも請求書に消費税として記載することはでるし、受け取ることもできますが、取引先企業(課税事業者)は支払わなくていい消費税を支払うことになり、控除もできない ということになるので、この場合免税事業者は消費税の記載を内訳から消して実質値上げをするか、消費税分の値下げをするかになるのかなと思います
ただし、企業からすれば仕入税額控除は欲しいので、課税事業者との取引になるということかなと思います

企業と取引する免税事業者は、免税事業者のままではメリットが無いので課税事業者に転身しますが、そうすると自分自身の仕入税額控除も必要になるわけですから、自分の仕入先が課税事業者かどうかも重要になってきます。

これからは全員が課税事業者でーす!ということで
支払わなくていい消費税は支払わず、最終的に売った物に含まれている消費税を支払う課税事業者

に全員がなるのならまだまあスッキリしますが、しばらくは、課税事業者になったことにより消費税を納める上に、仕入先が課税事業者とは限らない(つまりそこから仕入ても仕入税額控除がされない)、という、一番最初の “支払う必要の無い消費税を仕入段階で支払い、売ったものから更に消費税を納める「消費税支払いまくりの課税事業者」  ” がたくさんでてくるかもしれないし、それは今まで普通に課税事業者だった人もそうなるかもしれない、ということです。
かわいそうでヤバい架空の存在が現実になるんじゃないかなーとおもいます
この皺寄せがどうなるのかといえば、それぞれの事業者が我慢するわけではなく消費者にいきます。

単純な考え方で言えば、仮にスッキリと「これからは全員課税事業者でーす!」となれば
“わたしたちが普段買っているものには消費税が8%のものと10%のもの、そして0%のものがあります。
それぞれ、課税事業者が売っているもの、免税事業者が売っているものです。  ”   
課税事業者しかいなくなれば、消費税0%で売られていたものは8・10%で売られるようになるわけなので消費税増税ですよね。

個人事業者の収入が10%減るというのは消費税分を奢ると思われているからかなあと思いますが、個人事業者のみなさんは支出税額分の回収が見込めれば価格据え置きですし、見込めなければふつ~に値上げするので消費者はふつ~に支出が増えます。

ただ、試しにとても簡単な計算をすると、値上げは避けられないかなと思います

課税事業者が330万円で仕入し、550万円で売った場合、仕入税額控除により仕入は300万円、売上のうち50万円は消費税なので残りは200万円、5個売ったので1000万円が残りあとは何かで1万円も入り(雑)、課税事業者になりました(経費などを全く考えていない計算ですが…)

免税事業者が同じ額で仕入、販売した場合、仕入税額控除は無いので仕入は330万円、消費税はかからないので残りは220万円、現在の免税事業者は年商1000万円以下なので、3つ売れたということで660万円にしておこうかな。

このまま課税事業者になり、仕入先もみんな課税事業者できっちり仕入税額控除がされる場合でも、同じ売り方では10%減、仕入先が免税事業者のままなら余計に減るので、課税事業者になったらどのみち10%以上の値上げが必要になるのかなあというところです

最初は(現在の)課税事業者、免税事業者間取引のみの話ではありますが、免税事業者が課税事業者になれば、そのとなり(仕入先)の免税事業者も課税事業者にならざるを得ないというわけで、すぐに色々な物が値上がりするしかなくなると思います。
また、しばらくは「消費税支払いまくりの課税事業者」が増えると思うので、もともと免税事業者がやっているような構造で支払い超過分は物価に上乗せされていく(そうしなければ無理)ということです。
無理!を選ぶことで初めて、消える個人事業主というものが出てきますが、その前段階にあるのは物価の上昇だとおもいます

また、既に消費税転嫁対策特別措置法というものがあって、簡単に言うと消費税増税時に増税前の額を請求する搾取の防止法なのですが、そういうものが出てきてもいいんじゃないかなと思うので、
やっぱり個人事業主が消えるというよりは、消費者の負担が増えるんじゃないかなーとおもいます
(だって値上げして売れるようにサポートしたほうが税収がいいわけだし……)

というかんじで、事業者として自分の手元に残らない間接税のために値上げするのはイヤだし、消費者として(当たり前ですが事業者も消費者です)値上げはふつ~にイヤです。


あとはやり取りする書類や管理するお金のいろいろ、税金の計算が増えるので面倒くさい。電子帳簿保存法とかいろいろ

なので、インボイス制度は消費者として出費が増えるよ、という角度でもっと語られていいんじゃないかなあと思っております。

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