「タカラヅカ博士」爆誕までの道のり
昨年10月に論文提出してから3月25日の学位授与式に至るまでの紆余曲折の記録です。Facebookに書き綴ってきたものを、まとめ直してみました。
生涯学習の時代、学び続けたい皆さまの何かのお役に立てば幸いです。
2022/10/25 博士学位申請論文を提出した話
「博士号って、論文を書けば課程外でも取れるんですよ。
中本さん、これまで書かれた著書をまとめたら取れるのでは?」
…そんなことを勧めてくださった方があり、やってみようかなと思い立ったのが、2018年5月頃のこと。あれから約4年半、力作?は完成し、ようやく提出までこぎつけることができた。
なにしろ宝塚歌劇というのは演劇研究の分野ではまだまだ異端児、そんなテーマに、これまたキャリア的にも超異端児な私が挑むわけだから、色々と難しいことも多く、「ほんとうにできるのか?」「頑張ってきたことが水の泡になってしまったらどうしよう」という自分の中の不安との戦いが一番しんどかったことかな。
そんな時に行き着く先は結局「良いものを完成させることしかない」という思いしかなかったので、そういう意味で、書き続ける作業はむしろ救いだった。
もちろん、いざ始めてみると「これまで出した書籍をまとめればOK」という簡単な話では全然なくて、今までナンパな文章しか書いて来なかった私は「論文にはツカミとかいりませんから」という超基本的なところからのスタートに(笑)。ご指導いただいた先生にも随分とご苦労をおかけした。
でも、その過程で知った多くのこと、身につけた手法、広がった世界は自分にとっての糧となっている。これを得られただけでも、挑戦した価値はあったと思う。
提出の段取りがこれまた大変。準備しないといけない書類は多いし、一番アタマを悩ませたのが、論文本体をどう綴じるか?という問題だった(笑)。何しろ、かなりの枚数があり、5部も提出せねばならないので、コピーして穴を開けてバインダーに綴じるのも大変な作業となってしまう。
結局、利用したのがACCEAのスピード製本サービス。無線綴じを約半日でやってくれて、しかも価格も割とお安め。これも先に課程外博士を取得された方に教えていただいたのだが、ホント助かった。
晴れて提出したら「ウェーイ♪」と心が開放されるかなと思ったのだけど、全然そんなことはなくて、ずっと続いていた緊張状態と、これを緩めようとする力が私の中でまだ拮抗している感覚に。早く自分を解凍して、次に進みたい。そんな自分の状態もまた新鮮だったりした。
まだ「提出したぞ」というだけで、この先、大学側のいくつかの会議があり、さらに公開審査会なるものもあり、関門は続く。とはいえ、もはや私にできることは限られるはずだから、あとは野となれ山となれ!?
…いや「人事を尽くして天命を待つ」だな!
晴れて学位授与まで行きつけた時には、今度こそ心おきなく「ウェーイ♪」と大喜びしたいと思う。
※ところが、わずか3日後に早くも大きな関門にぶち当たる私なのだった……
2023/1/26 公開審査会:人はここぞというときに大チョンボをしてしまう法則の話
「3日後にぶち当たった巨大な関門」の話は次に置いといて、先に「公開審査会」のお話。
何せ長文を30分以内、しかも本文を読んでいない人にもわかりやすく伝えるのは難しい。何度も発表原稿を書き直し、パワポのスライドも丹精込めて作成し、3回ほど練習もした。
たまたま、前の週に観た星組新人公演の天飛華音くんのご挨拶が素晴らしかったので、僭越ながら目標にしようと密かに心に決めた。当日もお昼ご飯を食べながらタカラヅカニュースの新公映像を見直し、かのんちゃんを降臨させた。時間には十分余裕を持って出かける準備をして、家を出た。これぞ「人事を尽くして天命を待つ」…うふふ♪という余裕な気分だった。
ところが、である。
会場に入り、パワポのスライドを投影するセッティングをし始めた時、気付いたのだ。
スライドを保存したUSBメモリを家に忘れて来てしまったことに!!!!!
念のためGoogleドライブにもファイルをアップロードしておいたのだが、こういう時に限ってログインしようとすると「パスワードが間違ってます」と言われ続ける。
言ってみれば「今日こそ、その日」。ここ5年ほどでやってきたことの総決算みたいな日なのに、よりによってそんな日に、こんな初歩的な忘れ物をするかああああ自分!
周りの人たちを総動員してあれやこれや試した挙句、たまたま持ってきていたMacBook(論文を参照する必要が生じた時用に念のため持参していた)と、プロジェクターをつなげることができる特殊なケーブルを学内で見つけてきてもらうことができたので(主査の先生を走らせてしまった…)、何とかスライドを使ったプレゼンをすることはできた。だが、開始時間は10分遅れ。これが大事な商談だったら、この時点でアウトだろう。
3回も練習したおかげか、パニクっていた割にはプレゼンは何とか滞りなく済ませることはできたけれど、副査の先生方のコメントがこれまた思っていた以上に愛の鞭で、さらに凹んでしまった。だが、公開審査会というのは本来そういうものだよ…と、これも周りの人たちに教えられた。
それに、自分でも薄々気づいていた弱い部分、やや適当に書いてしまった部分を悉く突かれた感もあり、それはそれでありがたい話でもある。この年になってコテンパンにやられるという経験は貴重である。心して謙虚に受け止めて今後に活かしていかなきゃと思う。
こうして、一度は大パニックに陥りつつ、いろんな方の様々なお力添えにより、何とか乗り切ることができたのだった。
もうほんとに、感謝しかない!!
この後もまだ色々な手続きがあるのだが(「学識確認の罠」もある!これについては次節)、とりあえず一段落ということで、軽く打ち上げ。
疲労困憊状態で帰宅したら、家のパソコンにUSBメモリが虚しく刺さったままになっていた…。結局この日は自分自身への不信感が拭いきれず、夜中の3時ごろまで寝付けなかったのでした。
2023/1/31 学識が問われてしまった話
課程外で博士号を取ろうとした場合、「学識確認」なるプロセスを経なければならない。専門知識と語学に関して、博士課程で学んだ人に準じる知識があるかどうかを確認するというわけだ。
だが、これには免除規定があり、非常勤講師などの実績のある人も免除になると聞いていた。私も早稲田で非常勤講師をさせていただいているから、当てはまるはずだと思っていた。
何せ私は英語が大大大大大(×100)の苦手である。かつて大学受験の共通一次試験でも信じられない低得点をたたき出し、社会人になってからは全くといっていいほど英語には触れないドメスティックな人生を送ってきてしまった。そんな私でも「免除規定」に当てはまるからいける…と、そう考えていたのだ。
だが、人生やっぱりそんなに甘くはなかった。
無事に論文を提出し終え、ホッと一息ついた3日後のことだった。
忘れもしない10月28日、金曜日の夜10時もまわった頃、突然、主査の先生から携帯に電話がかかってきたのである。わざわざ、こんな時間に電話とはいったい何事???
先生「中本さん、英語で何か発表したり、書いたりしたことある?」
私「…ありませんけど…??」
先生「英語以外の外国語、何かできないかなあ?」
私「…できるわけないじゃないですかっ」
先生「…そうか…やはり、ダメかぁ」
どうやら「この人、学識確認の免除規定には当てはまらないのでは?」との差し戻しが、事務局からあったらしい。
そこで改めて「博士学位申請について」の規定を読み直してみたところ、「申請者が大学の教員(非常勤講師も含む)であって、かつ、提出された研究業績書等に基づき、関連分野および外国語に関し、相当の学識があると判断された者」は、学識確認が免除されるとある。つまり、単に非常勤講師やっているだけではダメなのだ。
私のこれまでのキャリアから、
「外国語に関し、相当の学識があると判断」
・・・・できるわけないのは、一目瞭然だった。
さすがに、この時はショックだった。ひどく落ち込んだ。何しろ、これまで頑張ってきたことが「英語ができない」というわりと恥ずかしい理由で、すべて水の泡になるかもしれないのだ。
何故、ちゃんと規定を読み込まなかったのか? これでは英語というより、むしろ日本語の読解能力が疑わしいではないか。
だが、立ち直りが早いのは、私の良いところである(笑)
どのみち学識確認受けなきゃならないことは決まったのだから、落ち込んでいる暇はない。今から、できることをやろう!
そう気持ちを切り替えて、その日はとりあえず『英検2級 文で覚える単熟語』をAmazonで購入してから寝たのだった(とりあえず高校卒業レベルぐらいからのリハビリが必要だと思ったのだ。ちなみにその後、準1級と、1級の途中までやった)。
それからは、時間を見つけては地道に英語の勉強。
あれほど嫌いだった「英語」にこれほど熱意を傾けたのは、これまでの人生で初めてのことだった。
しかも、驚いたことに、意外と楽しかった!?
何しろ、高校時代に比べると、学習用ツールが格段に充実している。それに、こちらの視野もそれなりに広がっているから、さまざまなジャンルの英文は普通に読んで面白いのである。
英語、楽しいかも〜?と思えたのも、人生初めてのことだった。
(結局、このとき始めた「毎朝、PLAYBILLの記事を一つ読む」「寝る前に『1日5分、ビジネス英語』を聴く』といった習慣は、今も続いている)
こうして何とか、専門知識および英語の「学識確認」を乗り越えることができた。英語の学識確認を担当してくださった先生からは「よく出来ました」とお褒めの言葉をいただき、胸を撫で下ろしたのだった。
終了後は、この件をとても心配してくれていた学生(彼女はめちゃめちゃ英語が得意で、卒業後は留学の予定だ)と「高田牧舎」にてランチ。
彼女、わざわざ花束まで持ってきてくれた。
学生さんからも心配されていた私(笑)…ほんと、色んな方々に心配かけながら、ここまで来たなあ。
せっかくだから、穴八幡宮にも、お礼参りに行ってきた。
これで、私がやるべきことは全て済んだから、本当にあとは結果を待つばかり、となった。
2023/2/25 タカラヅカ博士爆誕!?
晴れて、博士学位(課程外)授与のご連絡をいただきました!
もっとも私はこの日、音楽学校の文化祭を観にムラに遠征していた。幕間にスマホをチェックしたら、主査の先生からの留守電メッセージが。教授会で授与が確定した直後に、わざわざお電話くださったというのに…(笑)
これからは「タカラヅカ博士」と名乗れるしら?
…と、自分で思い付いて自分でウケてしまった。
※この思い付きをTwitterで投稿したところ、さらにバカ受けが拡散してびっくりすることに。
2023/3/14 生涯学習開発財団の「博士号取得支援事業」に受かってしまった話
じつは、生涯学習開発財団なるところが実施している、50代以上の人むけの「博士号取得支援事業」に応募していた。これが何と!!受かってしまったので、授与式に行ってきた。
本年度の合格者は6名(男女各3名)。
そもそもこんなトシになって博士号なんぞ取ろうという物好き?は少ないだろうし、私ごときが受かるのだから応募者も5名ぐらいじゃないかと本気で思っていた。ところが授与式での話だと応募者は年々増えていて、今年は60名近くの応募があったとのこと。なんでまた私が受かったのか謎は深まるばかり???…いやいや、光栄なことだけど。
授与式の後に懇談会があり、皆さんのお話を聞くことができたのだが、研究内容もさることながら、博士号取得に至るまでのドラマもそれぞれに面白くて、このあたりが50代以上の博士号取得者の妙味かと感じ入ってしまった。やはり大学卒業後に院に進学して取得するのとは全く別の重みがあるような気がする。
その後、女子3名にて近くのタリーズにて女子会したのも楽しかった。
それにしても、宝くじを買うぐらいのつもりで…と言ったら失礼かもしれないけれど、本当に受かればラッキーという気持ちで応募したのに、いただいたもの(金銭というよりむしろご縁)が思った以上に貴重すぎて今更のように驚いてしまった。
書類選考に通って、二次面接を受けたときも、ダメ元と思っていたので全然緊張しなかったのだが、それが良かったのかも。そして、面接官の方々からいただいた質問が実に鋭いところを突くものばかりで、きちんと読んでくださっているのだなと感じられて、とても嬉しかったのだった(なかなかの上から目線な物言い)。
考えてみれば文系から理系まであらゆる分野の論文に対してここまでやるのはすごいことで、いったいどうやって審査されているのかを懇親会の場で質問してみた。色々な専門の審査員がおられるそうだが、全員が全ての論文を読まれているとのこと。そう聞くと、ますますありがたく恐れ多く、なんて大変なものに応募してしまったんだ〜と、さらなる衝撃を受けてしまった。遅すぎだろ(笑)
色々と思うところが多くて、心がキャパオーバーしそうになったが、少しずつ自分の中で整理していきたいところだ。こうした体験もこれからチャレンジされようとする方々の何かの参考になればと思う。
※授与式の様子はこちら。合格者インタビューも後日財団のサイトに掲載されるとのことなので、またお知らせしますね。
お祝いにいただいた品々が面白すぎた件
まず、早稲田大学「舞台芸術入門」チームの先生方がお祝いにくださったのが…ジグゾーパズル、パズルだよ(大爆笑)
集められてるのはおなじみミュージカル作品のポスターたち。
何て先生方らしい素敵な贈り物なんでしょう。
さっそく作り始めたところ、やめられなくなってしまい…このまま夜更かしする日が続くと身体を壊してしまうという危機感を感じたので、観念して「ジグソーパズル集中デー」を決めて完成。額に入れるとなかなか素敵なインテリアとなりました。
大爆笑祝いその2はこちらの「どら焼き」。
宅急便でいきなり届いて、開封したとき思わず声出して爆笑せずにはいられなかった気持ちをお察しください。
ちなみに私、「どら焼き部長」を名乗るくらいどら焼き大好きなのだが、まさか自分がどら焼きになれる日が来ようとは!
この他も、何人かの方からいただいたお祝いの品がことごとく、考え抜かれたユニークなものばかりだったのがとにかく嬉しかった。もしかして私、「面白いものをもらえる才能」があるのかも(笑)
2023/3/25 コスプレ学位授与式レポ
「博士学位取得者は全員、あのアカデミックガウンと角帽を着せてもらえるらしい」
そう聞いて、密かに楽しみにしていた学位授与式は、想定外の驚きに満ちた新鮮なものだった。
(前日)
大仰にもリハーサルがあるというので、参加してみたのだが、そこで配布されたのが「校歌の振り付け解説」!? 元気良く腕を振るようにと厳命された。
しかし、客席参加型には慣れている私をなめてはいけないよ。家でちゃんと動画も見ながら練習してから臨んだのだった。
(そして当日)
あいにくの雨模様。でも、この季節らしい天候とも言える。
早稲田アリーナでの卒業式・学位授与式は感染予防対策のため学部ごとに4回に分けての開催だった。
博士号取得者は、アカデミックガウン&角帽の着付けから始まった。それぞれの身長と頭まわりのサイズ(事前に確認された)に合ったものが全員に準備されている。帽子は水平にかぶり、房は左前に垂らすのがお約束らしい。
式が始まり、静々と入場してきた総長以下の教授陣も全員マント&帽子を着用しているのにこれまたびっくり!これは本気のコスプレイベントではないか。タカラヅカの男役がマイ燕尾を持っているように、偉い先生方はみんなマイガウン&マイ角帽をお持ちなのだろうか?などと、くだらないことが気になってしまう。
博士号取得者は全員、壇上にて学位記を渡してもらえる(だからリハーサルがあったんだな)。ガウン&帽子の着付けが乱れていると、スタッフの方がすぐに直してくれるという気合いの入りようだ。一礼するとき角帽を落とさないように!とも固く言い渡されていたが、何とか落とすことなく学位記を受け取ることができた。
最後に全員起立し、応援団長のリードの元で校歌を歌う。会場全体が愛校心に溢れている感じがして胸熱だ。練習の成果を発揮しようと張り切って腕を振ったが、校歌が3番まであるとは知らなかった。だんだんと腕は上がらなくなり、しまいには地獄の筋トレと化していったのだった…。
式の後は雨も上がり、総長から通りすがりの知り合いの学生まで、友だちがいない割にはいろんな人とツーショット写真を撮りまくって、コスプレを満喫♪ とくに、緑の袴でばっちり決めたヅカオタ学生たちは可愛くて、ジェンヌさんと一緒に写真を撮ってもらったようなウキウキ気分だった。
まさかこの歳になって、こんな晴れがましい式に参加できるとは!
聞けば、このように華やかなコスプレをするようになったのは、ここ20年ほどのことだとか。大学時代の卒業式はとても地道だっただけに(諸事情で会場も普通の大教室だったし)、なんだかんだいってとても嬉しかった。
(そして翌日)
右手の二の腕の筋肉痛がつらかった(泣)
…以上、ご指導くださった先生方、心折れそうになった時に力になってくださった皆さま、そして、このことをお知らせしたときに喜んでくださった皆さま、ほんとうにありがとうございました。この場をお借りして、心からの感謝を…って、なんだか大階段のご挨拶風味になってるな(笑)。
ともあれ今後も、学術研究の世界とヅカオタ界のあわいに生きる者として、両者の架け橋となれるよう尽力して参りたい所存です。なお、こちらの論文は書籍化を目指しております。読みやすくブラッシュアップした形でお届けできればと考えていますので、どうぞご期待ください。
「春風を以って人に接し 秋霜を以って自ら粛(つつし)む」
これからも、精進してまいります。