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2回見たので映画「グッバイ、ドン・グリーズ!」を語りたい

 みなさん初めまして。コンテナ店子と言います。


 今回はアニメ映画にはなりますが、久しぶりにがっつり語りたい映画が出て来たので、「グッバイ、ドン・グリーズ!」を語ろうと思います。
 この映画は非常に楽しみにしていました。たぶん、ここ数年で一番楽しみにしていたくらいです。個人的にはスパイダーマンのノーウェイホームよりも期待値だけで言えば上だったくらいです。


 その理由については、自分の事をちょっとでも知っている人でしたらわかると思いますが、監督のいしづかあつこの事がすごく好きだからです。彼女が作る作品の登場人物は非常に人間味に溢れています。

 本当の人間って完璧な存在ではありません。いい所もあれば悪い所もあり、それが複雑に混じり合っています。それを描くのが非常にうまいし、どのキャラクターも細かい表情やバックストーリーの描かれ方でどうしてそんな人間性を形成しているのかがよくわかることが多いです。

 それに、本作も彼女が得意な青春ドラマをやると言うとこを聞いていましたし、キャラクターが普段女性をメインにすることが多い監督が男性メインの映画を作ると聞いてどんなふうになるのか楽しみにしていました。
 やっぱり男性と女性で魅力的な人間を描く時のやり方は変わると思います。それ自体は本作のパンフレットで彼女自身が言っていました。実際問題本作は今まで以上にヴィジュアルが完璧な存在ではなかったし、それによって生々しい感じが出てしまっていた。


 そんな訳でこの映画だけは絶対に見なければととても楽しみにしていましたし、公開日は仕事が終わり次第すぐに見ることにしました。それが終わった後の率直な感想としては、申し訳ないけど、かなり高めにしていた期待に比べれば好きじゃない映画だと感じてしまいました。


 ただ、いしづかあつこ監督の作品は繰り返し見ることによって新たな発見があったりすることが多いことや、話の構成のされ方から2度目にはまた違う見え方がするように感じたのと、この映画に対して異常なほどにハードルを上げ過ぎてしまっていたことを改めて気づいたことから、もう一度改めて見直すことにしました。

 実際問題2回目見たことでよりキャラクターへの理解度はかなり深まりましたし、ストーリーの奥深い所まで理解できるようになったので、1回目よりは好きになることが出来ましたし、今では割かし好きな映画の1つになってきている気がします。
 まだ完璧にこの映画を理解出来ているかというとそうではないように感じますし、3回目見た時また評価が変わるように感じますが、とりあえず今現状での評価を表現したいと思ってレビューを書くことにしました。

 それじゃあ行きます。今回もネタバレはなしで行きます。



好きな所①キャラクターが興味深い


 いしづかあつこ監督の作品に出てくるキャラクターはみんな善悪があいまいになっていて生々しいです。そこまでに比べたらちょっと微妙ではありますが、この映画に出てくるキャラクターはみんなこの物語の中で変化すべき中身の欠点があって、どんな人生を歩んできたのか何となく理解することが出来ました。


 この映画を見た人はもうわかると思いますが、キャラクター同士がどういった出会いをして仲良くなったのかはわかりません。ただ、話の主題となっている主人公のローマとそれを冒険の世界へと連れ出すことになるドロップが何で打ち解けたのかという所については会話の端々からよく伝わってきているように感じました。
 お互いが求めている所を互いに補完し合っていると言うか、お互いに楽しそうに生きてはいますが、その一方で自分の人生に不満を感じている部分を持っています。それを埋めてくれるのがドロップにとってはローマだし、ローマにとってはドロップだったと思います。

 あんまりミニシアター系の映画になじみのない人はそこまでなじみがないかもしれませんが、映画にはちゃんとしたストーリーはない物があります。例えばアレクサンダー・ロックウェル監督の「スウィート・シング」とかがそうです。あれも少年少女が親の元を離れて歩いていくストーリーなのでこの映画ととても良く似ています。


 どちらも好き嫌いが別れる感じではありますが、子供たちが会話をしながら自分たちの内面を見つめ直すようなストーリーという感じで、ただ会話しているだけのように感じますが、その中で強い感情のぶつかり合いとかもなくても、少しづつそれが変化していくのを表情の変化からよく見て取れたので、それでストーリーが大きな出来事などがなくても、彼らを好きになることが出来れば全然退屈にはなりません。


 この映画では話の本筋よりも前の出来事がほとんど描かれていないで、普段の様子や他の人とのやり取りで人間の内面を描こうとしていました。恐らく映画の尺が90分くらいしかなくてそこまでやっている時間が取れなかったのだと思います。ただ、その分彼女が得意とする表情だったり細かい会話だったりからキャラクターの内面を脳で理解できるようになっていたと思います。


 これはすごく大事なことだし、いしづかあつこ監督作品が好きだと言う人は、大体これが理由だと思います。ただこのキャラクターはこういう性格だと口で説明されるだけでは全く共感を持つことが出来ません。ただそうなんだと知っているだけで、ただの暗記です。これに対して、脳で理解することは、自分で考えてそうだと確信をもてているので、自分の中でそうだと言う正解に辿り着いていることからその考えに自信を持つことが出来ます。
 そして、それによりキャラクターにより愛着を持つことが出来ます。

 本作のドロップとローマの絆もそうです。どういう出来事がきっかけになったのかはわかりませんが、この2人が互いに足りていない物を埋め合う物を持っているのは言うまでもないでしょう。それを口で説明せずに、ちょっとした会話だったりから、お互いが求めている物をもう片方が持っていたり、お互いに普段の生活の様子が似ていると言うことから、視聴者にこの2人は仲がいいんだと考えさせることが出来るようになっていたと思います。



好きな所②ドロップの描かれ方が素晴らしい


 本作のカギを握る人物であるドロップの描かれ方が素晴らしいです。作中でも言われていますが、彼は身長が他2人に比べて小さいし、言動が子供っぽいので、幼いキャラクターに見られがちです。実際問題キックボードに乗っていたり、服装がコスプレみたいな格好になっていたり、まだ声変りが始まっていないような声を出せる声優を起用しているように、スタッフ側もそれをかなり意識しているように感じます。


 そして、この映画において彼の役割は日常に何か足りなさを感じているローマとトトを冒険の世界に連れ出すことはもちろんのこと、映画全体のトーンを明るくし、彼が何に対しても明るく前向きに、楽しいことを見つけようとする様子を見てて視聴者を楽しませることがあります。なので、2人よりも幼いような見た目にしているのでしょう。


 その一方で、カットによってはかなりビジュアルが大人っぽく見える時もありました。映画全体を明るくて天真爛漫なキャラクターがいるのに、割と落ち着いたトーンに見えるのは、彼が時々みせるカールがかかった髪の毛と太い眉によって見える大人のような表情があったからでしょう。


 実際問題、彼はふらっと表れていつも前向きで明るい性格をしている一方で、何かに焦っている様子を見せる時があったり、ローマたちと出会うまでも様々な経験を踏んだようで過去に何かがあったかのように見せかけています。そのため、映画全体を通して説明されない彼の過去だったり、抽象的な目的を持っていてそれが明確化されない所から、今までに大きな経験があるように見せ、ローマたちよりも高みにいて、彼らからすればある種憧れる場所もあるように見せていました。
 なので、一見子供に見えてもまれに大人っぽく見えるような、そんな不思議なビジュアルにしたのでしょう。

 彼が特にバックストーリーも語られず、いきなり現れて今まで小さいころからずっと一緒にいた2人に割って入っても違和感がないのは、やはりこの大人でも子供でもないような、まるで妖精のようなヴィジュアルをしているからでしょう。ふらっと表れて突然消える風来坊な彼には、まるでこの世のものではないようなヴィジュアルがお似合いなように感じます。



好きな所③風景が美しい


 彼女が描く映像は全てが美しいです。ただ、今までの映像とはその意味が少し違いました。いしづかあつこ監督作品を1つでも見たことがあればわかると思いますが、彼女が描く風景にはただそこにある以上にキャラクターの感情だったり立ち位置だったりをより深く表現するための素材などに使うことが多いです。その一方で、本作では徹底的に作品のトーンを表現するために利用されていました。


 この映画の風景は終始夜だったり、森の中の木漏れ日で明るい時間でも夕暮れ時に包まれているような感じになっていました。これによって、作品全体がノスタルジックな雰囲気になっている様に見えたし、それによって少年たちの冒険が、大人のオーディエンスの視点だと規模が小さい物に見えても子供のころの思い出のような感じに見えるので、ある種懐かしい感じに見えて年齢的にちょうどいいような物に感じたと思います。

 それに、夕暮れ時のような雰囲気によって世界感が幻想的に見えているので、どこからともなく表れて捉えどころのないような雰囲気をしているドロップを話の中心に添えていると言う意味ではとても合っていました。彼が連れ出し、奥へと導いていくこの話において、それがすぐ近場の森でもその描かれ方によって特別な場所の様に感じ取ることが出来るようになっているのはやはり風景が幻想的で美しいからに他ならないでしょう。


 あと、この幻想的という所は、ある大きなポイントが終盤で深い意味を持ってきます。そのシーンは本当に素晴らしかったです。このシーンのためだけにこの映画は常に夕暮れのようなオレンジ色に包まれていたようにすらも感じます。


好きじゃない所①キャラクターの深みが足りない


 上でも言いましたが、いしづかあつこ監督は善悪があいまいなキャラクターを描くのが非常にうまいです。彼女が作るキャラクターは自分の大切な物を守るためであれば、他人はもちろんのこと、自分の大切な友達であっても傷つけてしまうことがたびたびあります。ただ、それが本当の人間らしさというべきだと自分は思います。


 それに、視聴者が応援すべきキャラクターに悪いことをさせるのは中々ガッツがいることです。ちゃんとその動機を共感できるように描かないと、そのキャラクターの評価が下がってしまって、好きだと思ってくれていたファンの気持ちが離れてしまうからです。だから、出来るだけキャラクターの悪い部分を描くにしてもそれを短くしたりあっさり目に終わらせてしまう作品が多いです。
 でも、いしづかあつこ監督はそれを当然のようにやるし、キャラクター視点で見て必要なことであれば一切遠慮なく彼らの評価が下がることでも行います。しかし、それが逆にキャラクターの感情の強さだったり、何かを犠牲にしてでもそれでも守りたい物があることを視聴者が理解できるので、個人的はそれがすごく好きです。

 ただ、この作品にはそれがありませんでした。一応ちょっと悪いこともしますが、それもせいぜいいたずら程度だし、他の人を傷つけていたり、キャラクターの評価を下げるような行為ではなかったです。
 別にそれがなくてもいいと思う人もいるかもしれませんが、個人的には大事な要素だと思います。なぜなら、それがないとキャラクターがとても表面的に見えて、作り物っぽさが強くなってしまうからです。


 この映画がまさにそうです。どのキャラクターにも内面が与えられてはいます。しかし、それが非常に表面的で、制作者側が作った型にあてはめられて作品のために存在している人間にしか見えませんでした。このキャラクターらが映画で描かれている本編外の一面という部分においてどんな人格形成をしていてどんな顔をしているのかというのがほとんど想像つかなかったです。

 現実の世界でも人間は会う人によって自分の性格だったり雰囲気を変えることが多いと思います。自分もそうです。職場とプライベートはもちろん、プライベートでもその相手の人柄に合わせて自分を演じてどこまでみせるか決めています。みなさんもそうでしょう。


 しかし、この映画の登場人物は本当に1つの側面しか映画内で見えてこなくて、他の一面がほとんど出てきませんでした。それのせいで、本当の人間には見えなかったです。プロの役者でもなければ、どうしてもこういう人間に見せたいと思ってもぼろが出てしまう物です。ですが、この映画にはそれがほとんどなかったように感じます。
 一応作中で感情の変化はちょこちょこあって、会話劇の中で色んな事を知って考え方が変化するようではありましたが、それも1つの方向にしか進まなくて、最初から決められた流れに沿っている様にしか感じられなかったので、会話が感情のままに出ている物ではなく、他人が意図して作った様にしか見えませんでした。


 この映画が一見すると非常に薄っぺらくてのぺっとした物に見えてしまうのはこれが理由なのだと思います。キャラクターの性格が位置づけられた時からあらかた話がどんなふうに進んで、キャラクターがどんなことを身に付けて行くかおおむね予想出来て、それが思った通りになってしまっているように感じました。もう少しキャラクターの内面に違った面も描いたり、より人間らしさを付け足して欲しかったです。



好きじゃない所②アニメーションのレベルが低い


 意外にもというべきなのかは疑問ですが、この映画のアニメーションは割と酷かったです。自分はアニメ映画のCGが嫌いです。フルCGならまだ我慢できます。しかし、普段は手書きにしているのに一部で作業を簡略化するためにCGを使うのはすごく好きじゃないです。なぜなら、一見してわかってしまうくらい映像の中の質感が違くてその世界から浮いてしまっているからです。

 この映画でも、キャラクターが自転車に乗っている所から始まりますが、その自転車は明らかにCGで、手書きの森の中の幻想的な世界観にCGで後付けされた物が現れたせいで台無しになってしまっていました。


 そのほかにも車とか他の乗り物もたまに出ていましたが全部それもCGだし、結構な頻度で出て来ていたので、いちいち気が散って集中できなかったです。前のいしづかあつこ作品はほとんどCGを使ってなくて、ほんの数シーンくらいしかなかったのに、前作辺りからけっこう増えて来てて、今回はかなり目立つくらい使ってしまっていました。せっかく作り上げた規模の小さい身近な場所でもその中で大きなものを得られるような、ひと夏の冒険をかなり壊してしまっていたように感じました。


 あと、無意味に風景を簡略化してしまっているシーンもありました。そこだけ明らかに森の中にある周囲の木の描かれ方が違う上に、それもすごい雑だったと言うか、手前に大きなものが動いているからそっちに目がいかないだろうと高をくくったのかもしれませんが、いしづかあつこがそう言う手のぬき方をしたことにけっこう悪い意味で驚きでした。彼女は視覚的な効果にかなり強いこだわりを持っていると思っていたので、自分の映像を細部まで見て貰えることを前提に作っていると考えていたからです。
 このせいで、ただこのシーンがダメなだけでなく、彼女自身の評価をさげてしまったように感じます。


 それと、視覚的に吸収できる要素がこの映画にはかなり少なかったです。森の中が舞台なので使えるものが少なかったのはわかります。でも、彼女が作る映像は繰り返しになりますが、ただどんな場所にいると言うだけでなく、感情だったり見た目だけで暗喩的に表現することが多いです。なので、何気ないシーンでも見逃せないし、よりキャラクターへの理解度が視覚効果でも深めることが出来て、会話が少ない青春ドラマでもより説得力を持たせるのに繋がっていました。

 なのに、この映画では視覚的に吸収できるものが幻想的であること以外にほとんどなかったです。2回目見た時に特別な効果を持たせようとしている風景の描かれ方があるシーンはちょいちょい発見できましたが、それもほんの少しだけで、彼女だったらあらゆるシーンがすべてそれで埋め作らされているくらいだったのに、この映画では全然足りませんでした。もっと映像作品を作っているのだから、視覚的に読み取れる要素を増やして欲しかったです。


好きじゃない所③挿入歌が多い


 前作の時も思いましたが、いしづかあつこ監督作品は挿入歌がやたら多いです。特に、キャラクターの感情が大きく変化する時や感動的になるシーンではほぼほぼ絶対かけてきます。それが好きな人もいるかもしれませんが、個人的には好きじゃないです。彼女の事を素晴らしい監督だと前々から思ってはいますが、ここだけはずっと好きじゃないです。

 ミュージカル映画でもなければ、挿入歌はあんまりかけるべきではないです。なぜなら主人公たちはそれを聞いているわけではないからです。だから、その曲を聞いて視聴者が感情を乗せられてもそれはキャラクターの行動で見てる側がそう考えたのではなく、制作側がこう思って欲しいと言う感情に誘導されてしまっているだけなので、作っている側が出て来てしまってしまいます。

 特にいしづかあつこ監督は感動して欲しいと思ったタイミングでそれを使って来るから、制作側が感動してくれ!って言っているのが感じちゃって、映画から気持ちが離れてしまいます。そして、この映画でもそう言うシーンがちょいちょいあって、その度に映ってる物が偽物っぽく見えちゃっていました。

 今作もそうですが、既に技量が高い監督なので、何もしなくても感動できるシーンは感動できるので、それをわざわざ絞り出そうとする必要はないです。見てる側も馬鹿じゃないし、感動してくださいと言われなくても勝手に感動します。だから、もっと自然に映して演技とか撮影だけで視聴者の気持ちを盛り上げればいいのにと思います。次回作ではそれを改善して欲しいです。



まとめ


 以上が自分がこの映画を見た後の感想になります。正直な評価を言うと、思ってたよりはかなり悪い映画ですが、この映画を単体で評価するなら割かし好きという感じです。いしづかあつこ監督が作る作品は全てが素晴らしいので、完璧な作品が出来上がるのを前提で映画館に行ったから、そう言う意味ではがっかりでしたが、青春ドラマとしてみればキャラクターは割かしいいし、演技やキャラの表情も興味深かったので、決してつまらなくはないともいます。


 この映画あんまり好きじゃない人もいると思います。かなり表面的な部分のストーリーは起承転結が薄くてのぺっとしているように感じるので、そこで好き嫌いが別れちゃうのかなと感じます。個人的にも1回目見た時はけっこう微妙に感じました。


 ただ、複数回見て彼らのキャラクターの内面をより理解し始めたりする間にだんだん興味を持ち始めて、2回目見終わったときには彼らの事をけっこう好きになることが出来ます。なので、割と何回か繰り返し同じ映画を見れる時間に余裕がある人や、動画配信サービスとかで見たりするのがちょうどいいような感じの映画だと思います。
 たぶん彼女のキャリアの中では良くも悪くも一番忘れ去られやすい作品の1つだとは思いますが、割とハードルはあげずに見に行くとけっこう気に入る人もいるかといえるでしょう。

 そんな感じです。また、何か語りたい映画が合ったりなんだりしたら記事を上げるので、またよろしくお願いします。

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