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【全曲紹介】Dave - Psychodrama - #1 Psycho

UKの若手ラッパーDaveの1st studio album、psycodramaがものすごい良かったので。かなり久しぶりに全曲紹介をやろうかと(力尽きたらごめんなさい)。あと、紹介というか、僕の感想なのであまり真に受けないでください…

このアルバム、本当に本当に美しい作品です。自分の内面に抱えた痛みや喜び。それらが素晴らしいトラック、素晴らしいフロー、そして素晴らしいリリックで全編通して紡がれていきます。曲単位で音楽を楽しむことが当たり前になった今だからこそ、ぜひアルバムを通じて彼の言葉に耳を傾けてほしいです。

ちなみに、 アルバムタイトル の「Psycodrama」とは心理療法のこと。心に抱えた問題、過去を演劇を行うことを 通じて解決していくことを目指す集団心理療法です。つまり、このアルバムはDaveにとっての心の治療(=Psycodrama)になっているのです。

「1曲1曲が1年間にわたるDaveの治療の過程として紡がれていく」というコンセプト(製作開始が去年の1月、今年3月リリース。)になっているみたいです。

早速曲の中身をみていきたいと思います。

1)Psyco

タイトルの 一部にもなっているPsycoという曲でアルバムがスタートします。冒頭のイントロでは恐らくセラピストと思われる男の声で始まります。 2018 年1月23日(火)からDavid(Dave)の治療を始める、という録音ボイス。 Daveはこの日からこのアルバムの製作を開始したそうです。この男はアルバム中に何度か登場し、Daveの治療進捗を報告していきます。

Tuesday, 23rd of January, 2018/I'm here with David/This is our first session/We're just gonna talk about your background/Where you're from, any issues you've been dealing with/So, where should we start?
2018年1月23日(火)/デイビットと一緒にいる/これが我々の最初のセッションだ/まずは君のバックグラウンドについて話をしようか/君がどこから来て、どんな問題を抱えてきたのか/それじゃあ、どこから話を始めようか?

イントロが終わると曲に入ります。

曲は3部構成:
この曲は躁鬱病に苦しむDaveの心情が3つのパートに分かれて紡がれていきます。最初のパートは躁状態のような暗く、攻撃的な歌詞から始まります。

Part 1:

Stop all the pain/How do you stop all the pain, huh?/I used to hear a voice when I was praying/But nowadays, I don't even wanna be saved/Nah, fuck that, I don't wanna be saved/I was born to be wild, I don't wanna be tamed
この痛み全部を止めてくれ、どうやったらこの痛みが止められるんだ/昔は祈りを捧げるとき、よく声が聞こえたんだ/でも最近はもう救われたいとすら思えなくなってきたんだ/そうさ、くそくらえさ。救われたいなんて思わない。俺は自由で力強く生きるために生まれてきたんだ、飼い犬になるなんてごめんだぜ

更に、攻撃的な歌詞が続きます。

Talent's in my blood and I don't wanna be vain/But if I'm a psycho, then I don't wanna be sane
俺の血には「才能」が流れてる、俺は無価値なものにはなりたくない。俺が「サイコ野郎」だとするなら、俺は普通になんかなりたくないね。

*Vain(無価値なもの、儚いもの)と同じ発音のvein(静脈)がかかっています。整脈はもちろんその前のBlood(血)にかかっています。デイブのリリックにはこういうのがとてつもなく多いです。

デイブは攻撃的な言葉を吐き続けます。人と違う自分、そんな自分を力ずくで肯定していく、といった内容です。色々なものが信じられなくなって、辛くなって心に痛みが走る。だからこそ他人に対して攻撃的になって、自己肯定する、と言った感じです。

If any one of you take a shot on a track/My niggas come back and put a shot in your frame
もし誰かがディスってきたら、/俺の仲間たちがきてお前を撃ち殺してやるよ
  *1つ目のshot on a trackは曲でディスる。2つ目のshotはそのまま、撃つ。frameは「的=敵の体」ですが、shotとframeは「写真を撮る」と「写真立て」も掛かってます。殺して、「遺影」にしてやる的な?ワードプレイ。

話は幼少期にまで及びます。先生は自分を救ってくれなかった。子供の頃から変わり者扱いされて、人生の最初の時点で躓いた、と。

My teacher used to say I need counseling/Couldn't stop asking me, "What do you feel?"/There's so many old scars that they wanna reveal/We got off on the wrong foot 'cause I don't want him to heal, nah
先生は俺にはカウンセリングが必要だって言った/「何を感じるんだい?」って質問攻めにしてきたんだ/俺には沢山の傷がある、あいつらはそれを晒したくて仕方がないんだ/俺は人生の出だしで躓いたんだ。だって俺はあいつに傷を癒してほしいなんて思ってなかった。  *ここも癒すのhealと踵のheelがかかってて、heelはその前のwrong footにかかってる。

巧みなワードプレイを入れながら話を続けていきます。

I thought I had a screw loose but I lost one/Ninety-nine problems, money, it is not one
俺は自分のネジが緩んでると思ってたけど、ネジはなくなってたみたいだな
99の問題があるけど、金はその中に入ってないさ
*99 problemsはご存じJay-Zの大ヒット曲の引用。沢山の問題を抱えている心境を吐露しつつ、金は問題じゃない、稼いでると吐き捨てます。

自分の自慢話をしながら、それでもやはり心は安定しません。

Tears on a pillow/Bro, I shed so many tears on a pillow
枕が涙でぬれてる/なあブロ、俺は枕で何回も涙をぬぐったんだ
My niggas went to school with the rich and we were broke/Hiding crow in a Rubicon drink/Which is funny 'cause that's how we put food in the fridge
俺の仲間は金持ちのやつらと一緒に学校へ行って、俺たちは一文無し。
ジュースの中にウィードを隠してた笑えるだろ?だって、そんな風にfoodを冷蔵庫に入れてたんだからな

*ロンドンは貧富の格差がとても激しいらしいです。最後のラインの「food」には食べ物という意味とドラッグという意味があるそうです。
Daveはドラッグ(Food)を子供用のジュースに隠して冷蔵庫に入れてた。それを売って家族を養うための食糧(=food)を手に入れてた。冷蔵庫に隠してたドラックのおかげで(皮肉にも)食糧を冷蔵庫に入れられた、と。笑えるだろう?と。巧みなラインです。

そして話は第二幕へ・・・

Part2
ここでガラッと曲調が変わります。苦しかった幼少期、ドラッグを売って凌いだ極貧時代から一遍し、ラッパーとして成功する話に移行するわけです。切り替わりのスイッチになる言葉は以下の一言

”Who am I?(俺は一体何者なんだ?)”

ここから一気に展開が変わります。成功して金を持っている自分。
それを誇って、見せびらかすような内容に変わっていきます。

Someone tryna live his best life
/I just wanna take a pretty woman for a test drive
俺は最高の人生を生きようとしてる男だ/俺はただテストドライブに可愛い女の子を連れて一緒に行きたいだけなんだよ
Learned you can judge a nigga by the women that he curves/I love this game, I ain't lost focus/I'm a hitmaker, if you haven't noticed/I could be the rapper with the message like you're hoping
どんな女を振れるかで男は判断される、ってことを学んだんだ/俺はこのヒップホップゲームが大好きさ、俺が気を抜くことなんてない/もしお前が気づいてないなら言っとくけど、俺はヒットメーカーだぜ/お前らが望むように、俺はメッセージを纏ったラッパーになれるんだ

ここまでが2番目のパート。フレックスしてポジティブになって勢いづくわけですが、また曲調が変わります。そう。ここでもう一度Daveは立ち止まって考えます。それがパート3。

Part3:
曲調が物悲しいピアノ調に代わります。

But what's the point in me being the best if no one knows it?/Brother I'm a careful, humble, reckless, arrogant, extravagant/Nigga probably battlin' with manic depression/Man, I think I'm going mad again/It's like I'm happy for a second then I'm sad again
だけど、誰も知らないとすれば、「最高」とは俺にとって何なんだ?/なぁ兄弟、俺は用心深くて、謙虚で(貧乏で、かも?)、無鉄砲で、尊大で、金を使いまくって…/でも躁病の鬱に悩まされてるような男なんだよ…/なぁ、俺はきっとまたイカれちまうんだ。/少しの間だけ幸せで、その後また悲しみに暮れるんだ。そんな感じなんだ

苦しい過去から一転、成功を収めてポジティブになったと思われたデイブですが、また自分の中にある疑問や痛みが湧き上がってきてしまいます。そして心の闇に引きずられていきます。

And to my fans, the reason I could get to this/You're my drug, the instrumental my therapist/Man, I need some therapy
俺のファンたちへ、お前らが俺がここにたどり着いた理由なんだ。/お前らは俺のドラッグさ、そしてビートが俺のセラピスト/そうさ、俺には治療が必要なんだ

ここでDaveはこのアルバムを通じて治療をしていくことを宣言します。
さらに、最後の言葉は自分自身に向けて、問いかけるように紡がれていきます。

You ever fall 'sleep 'cause you don't wanna be awake?/In a way, you're tired of the reality you face?/If you're thinking 'bout doing it/Suicide doesn't stop the pain, you're only moving it/Lives that you're ruining/Thoughts of a world without you in it, hiding/I ain't psycho but my life is
お前はずっと寝続けてるんだ、それはお前が起きたくないからだろう?/ある意味、お前は自分が向き合ってる現実に疲れちまったのかな/もしお前が、それをやろうとしてるなら、/自殺では痛みを止めることはできないぞ、それは別のところに痛みを移してるだけ/それはお前の周囲の人の人生だよ、それをお前が(自殺で)台無しにしちまうんだ/お前がいない世界のことを考えてみろよ、/俺はサイコじゃない、でも俺の人生は…

ここで曲が終わります。セラピーを受ける前のDaveの心境が3つのパートでとても鮮やかに切り取られていると思います。聴きながらDaveの精神状態の変遷に不安になりつつも、完全に彼の内側の世界に引き込まれてしまいますよね…

・・・

以上が1曲目です。


Daveのリリックの特徴として、Double Entendreと言われる2つ以上の意味を掛ける歌詞や引用がものすごい多く、にも拘らずただのワードプレイに終始せずに彼の内面がくっきりと映し出される。これこそ真のリリシズムと言えるのではないでしょうか。僕は、この1曲目でわしづかみにされてしまいました。(紹介した以外にも、ものすごい数のワードプレイが入っています。どれも一級品です。全部解説したい…)

完全に余談ですが、日本でも舐達麻の人気が爆発していて、USでもJ ColeのDreamvilleが今年はかなり勢いづいていますよね。なんとなくですが、今年に入ってから昔ながらのlyricism,deep meaningを伴ったヒップホップの復興・復権が世界中で起こっているような気がします。もちろんOld Town Roadみたいな曲も流行っているので、今後ヒップホップはどっちに向かっていくのか…(個人的には前者がもう一度中心に来てほしいと切に願っています!!!) いずれにせよ、本当に面白い流れになってきましたね。

余談が長くなりました。それでは、2曲目にいきましょう。

続く・・・)

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