見出し画像

【全曲紹介】Dave - Psychodrama - #8 Environment

いよいよアルバムも後半に突入です。8曲目のタイトルはEnvironment。最初に言ってしまいます。この曲、僕はアルバムでトップ3に入るぐらい好きです。

ここまで、多くの曲で自分の内面や経験をラップしてきたデイブ。この曲では自分から見た街に住む人々について、淡々と自分の本音を語っていきます。アーティストとリスナーの間にある認識の違いや、ドライな音楽産業の現実について、吐き捨てるようにライムしていきます。この曲に限らず、デイブは社会に対して激しく憤っていながら、どこか諦めているような、憂鬱な印象を受けます。世界的にも人気はうなぎ上り。USのメインストリームラッパーのようにもっとイケイケになってもいいのに。若干20歳の彼はなぜ、ここまで絶望するのだろう。曲を聴きながら何度も彼の心の中が気になってしまう。そして、その深い思考と感情に引きずり込まれてしまいます。

それでは曲の内容をみてみます。

[Intro]


What do you think people see when they look at you?
人々が君を見つめるとき、彼らは何を見ていると思うかね?

4曲目のPurple Heart以来にセラピストが登場します。成功して有名になった自分を行き交う人が見つめるとき、彼らは何を見ているのか?とデイブに問いかけるところから曲が始まります。デイブは「Look」といって、本音を語り始めます。

You see our gold chains and our flashy cars/I see a lack of self worth and I see battle scars/He has to be with twenty man when he wears jewelry/And you see it as gangster, I see it as insecurity/Where I'm from, everybody wants to make it out/But nobody wants to see somebody make it out
皆は俺たちのゴールドチェーン、そしてきらびやかな車を見てる。でも俺は、自己肯定感の欠如、そして戦いの傷を見てるんだ。あいつはジュエリーを身に着けて、20人の男を引き連れなきゃいけない。皆はそれを「ギャングスタ」だ、と捉えるけど、俺はそれをみて「心の不安定さ、自信の無さ」を感じる。俺の見てきた世界では、誰もが成功したいと望んでいる。でも同時に、他の誰かが成功するのをみたいやつは一人もいないんだ。

周囲の人々が自分をみて感じていることと、自分がみて感じていることを対比させていきます。この曲はずっとこのスキーム(視点の対比)で進んでいきます。

「全員が成功したがっている世界において、他人の成功を願う人は一人もいない」。世界の矛盾に対して、皮肉と絶望を込めて、且つ淡々と冷めた視点で描写していきます。

You see the video vixens and all their pearly whites/But you don't see the dirty nights, long days and early flights
お前らは真っ白な歯をしたPVモデルたちを観てるけど、お前らは苦しい夜と早朝のフライトと長い撮影のことを何もみてないんだ。

Video VixensはラッパーのPVに出てくる綺麗なお姉さんたちのことです。ヒップホップのビデオの煌びやかな部分だけを観てるけど、実際にはMVを取るのは大変なんだ、ということだと思います。Dirty Nightsの意味は苦しい夜をいくつも超えてきたということなのでしょうか。それともモデル側の視点で夜は目茶目茶にされるということ、でしょうか。多分前者だと思うのですが、自信無し。

You see, all the groupie girls and think they're heaven sent/I see twenty-five minutes worth of empty sex
グルーピーの女どもがいるだろ?お前はきっとそれをみて最高だ、神からの贈り物だって思うだろう。でも俺にとっては、25分間の、空虚なセックスの価値しかないんだ。

ここでも自分を羨む他者の視点と自分の視点を交差させて説明していきます。そして、ここからは音楽業界に関する話題に移っていきます。

You see this industry where everybody came up/I see a bag of weird rappers and some fake love/Fake handshakes and fake spuds with fake comments
お前らはヒップホップに対して、全員が売れて、芽が出て、上がってくる業界みたいに思ってるだろう。一方で俺は、大量の糞みたいなラッパーと偽物の愛をみてるんだ。そして、偽りのハンドシェイク(握手)と、偽りのコメントをしてくる偽物のくそ野郎ども。

この後も対比が続きます。次はとても印象的なライン。

Niggas saw keys and went to trial for shottin'I saw keys, learned to play, and made thousands from it
お前らはコカイン(keys)をみつけて、それを売ったせいで裁判に行ってる。俺はキーボードの鍵盤(keys)と出会って、演奏方法を習ったんだ。それで今じゃ大金を稼いでる。

デイブの音楽家としてのプライドが表れている良いラインだと思いました。同じkeyでもお前らはコカインを売って裁判をしている、俺は鍵盤のキーと出会って、使い方を学んで大金を稼いだと。かっこいいです。

続いて、表に出るショーケースの自分と、曲作りをしている裏の努力をしている自分を対比します。自分の人生は映画じゃない、というラインが印象的。

You see the club poppin' when we do the show/But you don't see the studio, my life is not a movie, bro/Champagne bottles and all the screaming girls
It's ironic how you'll never hear a scream for help/Fuckin' hell, why do you think we're going through the same thing?
俺たちのライブ中にクラブが大盛り上がりなのをみてるんだろ?でもお前は俺たちのスタジオでの姿はみていない。俺の人生は映画じゃないんだ。シャンパンボトルと叫んでる女どもをみてるんだろ?皮肉にもな、きっとお前には助けを求めてる叫び声は聞こえないんだろう。地獄みたいなクソな世の中さ、なんでお前らは俺たちが同じ道のりを通ってきたなんて思えるんだよ?

騒いで踊ってる女の叫び声は聞こえても、街で苦しんでいる人の助けを求める叫び声は聴こえねえだろうよ、とスピットします。聴いていてつらいです。つらいけど刺さります。

そして浮き沈みの激しい音楽業界の厳しい現実を語ります。売れていれば厳しいプレッシャー、売れなくなればポイ。搾取されるだけされて、捨てられると。20歳の青年がこんな風に感じてラップをしている姿を想像すると、とても切ないです…

Depression when you make it, the pressure and the hatred/Your people talk about you, you can't say shit/The moment that you ain't it/The labels are looking for replacements/Same shit, people start forgetting what you've done for them/Everyone in music's gonna take until there's nothing left
何かを成し遂げると、憂鬱な気持ちになる。重圧とヘイトが押し寄せてくるんだ。周囲はお前のことを話始めて、逆にお前は何も言えなくなる。そして自分が売れなくなると、レーベルは代わりを探し始める。そして同じように、そいつらの為に頑張って成し遂げたことを、そいつらは忘れ始める。音楽業界に携わってるやつら全員は、そこに何もなくなるまで搾り取ろうとしてくるんだ。

そして曲の締め。

I heard success can come quickly but it leaves faster/Secrets are what my enemies have been after/Only L's I'm hiding in my closet have a V after
成功は一気にやってきて、それより早く失われてしまうって聞いたよ。
敵はずっと「秘密」を暴こうと追ってくる。でも俺のクローゼットに入っている「L」は後に「V」が続くやつだけだぜ。

ここもクレバーなライン。Lは「Loss」を意味します。自分を落とそうとするやつらはいつも秘密も暴こうとして俺のクローゼットに空ける。そして、そこにある「Loss(=デイブにとってマイナスなこと)」を探そうとする、と。

ただデイブのクローゼットに入っている「L」はその後に「V」が付くもの、つまりルイヴィトン(Luis Vuitton)、高級な服しかないぜ、というラインです。Lにはマリファナの意味もあるのでそれも掛かってるかもですね。クローゼットに後ろめたいモノは何もなくて、高級品しかないから探しても無駄だぜ!という。

そして、曲の終わりにはまたもやセラピストとの録音ボイスが入ってきます。

[Outro]


So looking at it from another perspective, playing devil's advocate/Considering you know you're obviously becoming famous, so to speak/But you still deal with a lot of issues on a human level/Do you ever just sit and wonder about the stories behind the people you meet day by day?/Does it make you feel grateful, in a weird way, for your life and problems?
それじゃあ、物事を少し別の視点からみてみようか。敢えて反対側の意見を演じてみるよ。言ってしまえば、君は確実に有名になっていっているよね。自分でもその状況をよく理解していると思うけど。でも君は未だに人として(≒精神的には)沢山の問題を抱えているね。君は毎日目にする人々の裏に隠された一人一人のストーリーについて、座ってゆっくりと考えたことがあるかね?このやり方で君は、自分の人生や問題点に対して、感謝したくなるような気持ちになるかな。変なやり方だけどね。

この曲に限らず、他人に対して攻撃的で批判的な発言を繰り返してきたデイブに対して、セラピストは敢えて逆の立場から問いかけます。デイブが批判してきたような人々が、「何を考えているか、何を感じて生きているか」を相手の立場に立って考えたことがあるか?と。そうすることで、自分のこれまでの人生や問題に対して、感謝したくなるような気持ちにならないか?と問いかけるわけです。

そして、問題の曲、Lesleyにと繋がっていく、と。いよいよアルバムも終盤に差し掛かります。

続く・・・・

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?