【全曲紹介】Dave - Psychodrama - #3 Black
3曲目、Black。アルバムのリード曲として最初にカットされた曲です。タイトル通り、黒人の差別問題に関する内容になっています。ポイントはあくまで「デイブの一人称」で人種問題が語られているところ。
デイブはインタビューで「黒人と一括りにはできない。住んでる地域や文化、文脈などによって状況は全く異なるんだ。全員がそれぞれ違う経験をしている。ロンドンに住むナイジェリア人としての俺自身の経験と視点からこの曲を書いた」と語っています。問題を俯瞰し、多様な視点や固有の経験があることを認識した上で、一人称でつづられる言葉。そうした言葉にはとても強い力と説得力がありますね。
また、この曲のMVにはサッカー選手のラヒーム・スターリングが登場したことでも話題を呼んでいます。彼は足に銃のタトゥーを入れていて、それが不適切だという批判を受けイングランド代表から外せと糾弾されたそうです。しかし、実は彼は父親が銃によって殺害されていて、「足のタトゥー自分は絶対に銃に屈しない、銃ではなくサッカーのシュートを打つ」というメッセージだったとのこと。イングランドサッカー連盟も彼を全面的に支持することを表明しています。そんな彼がこのMVに出ることの意味には深いメッセージを感じずにはいられません。
前置きが長くなりましたが、曲紹介に移ります。
この曲は3つのバース、フックは無しのタイトな構成です。いくつかラインを拾ってみたいと思います。
Verse1
”black is beautiful, black is excellent/Black is pain, black is joy, black is evident
It's workin' twice as hard as the people you know you're better than/'Cause you need to do double what they do so you can level them”
Blackは美しく、Blackは素晴らしい。Blackは痛みで、Blackは喜び。そしてBlackは明白なもの。自分の方が優れてるのに、2倍働かないといけない。2倍働かないと彼らと同等にはなれないから。
デイブは「Blackであることは明確で誰にでもわかるもの」というところから、それによる差別によって2倍働かないと同じように評価してもらえない、という訴えます。
The blacker the berry the sweeter the juice/A kid dies, the blacker the killer, the sweeter the news/And if he's white you give him a chance, he's ill and confused/If he's black he's probably armed, you see him and shoot
黒ければ黒いほど、ベリーはジュースにすると甘くなる。そして子どもが殺されたとき、犯人が黒ければ黒いほど、メディアにとっては甘い蜜になるんだ。もし白人なら、釈明のチャンスが与えられるのさ、「きっと病気か、混乱してたんだ」って。もし黒人なら、攻撃されるんだよ。そいつは撃たれちまうだろう。
”The blacker the berry the sweeter the juice”は肌の色が黒ければ黒いほど素晴らしい人間性を持っている、という黒人に対するポジティブな言葉で、”The Blacker the Berry”という小説からの引用です。
しかしデイブはこのラインの次にネガティブなラインを持ってきて厳しい現実を対比します。ちなみに、この引用は2PacやKendrick Lamarも使った表現。Youtubeのコメントなんかを見ると、リスナーの中には2Pacの再来だという人もいるぐらいです。
Verse2
2ndバースに入っても、黒人の厳しい現実をデイブはライムし続けます。
Black is growin' up around your family and makin' it/Then being forced to leave the place you love because there's hate in it/People say you fake the shit, never stayed to change the shit
黒人は家族と一緒に成長して、何かを成し遂げても、その後いきなり愛した街から強制退去させられるんだ、だってそこにはヘイトがあるから。周りからは「お前はずるをして儲けたな」といわれる。それを変えるチャンスを得るために、そこに留まることさえできないんだ。
デイブは歴史認識問題についても言及していきます。僕はこのラインでハッとなりました。確かに日本の世界史教育でも、奴隷制度以外で黒人史はほとんど出てこない。このラインから我々が考えなければいけいないことは多いのかも知れません。
Black is strugglin' to find your history or trace the shit
You don't know the truth about your race 'cause they erasin' it
黒人は自らの歴史を見つけ出して、それを紐解くことにいつも難しさを感じてる。自分の人種に関する真実を知ることができないんだ。だって黒人の歴史はいつも消されてしまうから。
Verse3
バース3でもテーマは変わりません。話はより大きな内容になっていきます。
Black is bein' guilty until proven that you're innocent/Black is sayin', "Free my fucking niggas stuck inside in prison cells"/They think it's funny, we ain't got nothin' to say to them/Unconditional love is strange to them; it's amazin' 'em
黒人は罪人なんだ、身の潔白を証明できるまでは。黒人はこういう「俺の仲間たちを牢獄から自由にしやがれ!」って。でも人はそれを嘲笑するだろう。それに対していうことなんて何もないけどさ。/きっと無償の愛ってやつはあいつらには奇妙に映るんだろう、彼らにとっては驚くべきことなんだろうね。
Jay ZがWhat's Freeでライムしていたような、黒人文化の美味しいところだけ搾取しようとする者に対しても言及します。
Black is so confusin', 'cause the culture? They're in love with it/They take our features when they want and have their fun with it
Blackってやつは本当に混乱させられるよ。その文化のせいだって?あいつらはそれが大好きなんだ。やつらは俺達の特質を奪うんだ。それが欲しくて、それで楽しみたいときはね。
Poverty made me a beast, I battled the law in the streets/We all struggled, but your struggle ain't a struggle like me
貧困は俺をビーストにしたんだ、俺はストリートで法律と戦ってた。俺達は皆苦しさと戦ってるけど、お前の闘争と俺の闘争は似たものじゃない。
このラインから冒頭で説明したデイブの考え方が見て取れます。一括りに黒人闘争といっても、それは一人一人直面しているものは違う、と。
そして最後のライン。ブラックであることは変われるものじゃない、と受け入れて?曲が終わります。
Black is like the sweetest fuckin' flavour, here's a taste of it/But black is all I know, there ain't a thing that I would change in
Blackはまるで一番甘いフレーバーのようだ、ここにあるものこそ、その味なんだ。でもBlackは俺が知ってることのすべて。俺の意思で変えられるものなんてそこには何一つないんだ。
この曲に限らず、デイブは社会問題や人種問題についても恐れず積極的に発言していきます。散発的に言及するというのではなく、この曲のように1曲3バースまるまる使って主張してくるあたりに彼の深い思想や思考を感じます。
つづく・・・
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