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Kool & The Gang/Live At PJ's(1971)

ポップなディスコではない「クルギャン」


クールの3枚目は前作「Live At The Sex Machine」続くライヴ盤で、同年にリリース。
実況録音盤を立て続けにリリースするあたり「Sex Machine」のチャート・アクションが良かったことに加え、ライヴに自信を持っていたことが伺えるが、2枚の性質はやや異なる。


「Sex Machine」は当時のロックっぽさもあり音質含めかなり荒々しいファンク・アルバムであるのに対し、本作「PJ's」は音、音楽性がかなり整理されファンク、ジャズ・ファンク寄りになっている。(両者の違いはジャケットからも感じ取れる)
ただしどちらもサンプリング・ネタとして有名な曲を含む。

さて一般的にクール・アンド・ザ・ギャング(Kool & The Gang)はアース・ウィンド・アンド・ファイヤー(Earth, Wind & Fire)と並んで日本では、いや世界においても売れ筋ディスコ・グループであると認識されていることがほとんどであるが、どちらも初期は最高にクールでイナたいブラック・ミュージックをぶちかましていた。

そのクロさやイナたさ故に後年の評価は芳しくないがファンクやソウル等のブラック・ミュージック、特に「レア・グルーヴ」を愛する諸氏にとっては大好物の音であり、この2組の初期の音楽はブラック・ミュージックを心底愛しているかどうかの試金石、リトマス試験紙ともいえるである。

まあ平たく言えばこの辺をしっかり聴いてないロック系リスナーがクールとかアースを「ディスコ・グループ」とか「ポップなダンス・ミュージック」とか安っぽい言葉で片付けないで欲しいってこと。

Live At PJ's

本作はウエスト・ハリウッドのクラブ「PJ’s」での実況録音で引き続きDe-Liteからのリリース。
一部の曲でストリングスをオーヴァーダブしている。

①N.T.
「Non Title」を表すド頭からワウワウと唸るギター、チャカポコなるパーカスに悶絶のミッド・ファンク。ホーンのソロ回しもあるけどテクニックを誇示するものではなくあくまでバンド全体のグルーヴを重視したとても控えめなもの。続くドラム・ブレイクはサンプリングとして有名。Nas、P.E、N.W.A.、ATCQ等を筆頭に膨大なネタにもされている。

②Ricksonata
うた心溢れるメロディは口ずさみたくなること請け合いのメロウ・ソウル。

③Sombrero Sam
チャールズ・ロイドのカヴァーはパーカスやリムショットの乱れ撃つラテン風味。「Ain't It Funky」風メロディで疾走するフルートが心地よい。

④Ronnie's Groove
アップなファンク。咆哮するホーン・セクションとジャズ・ファンク的ギター・カッティング、合いの手を入れるガヤ(掛け声)、ストリートの焦げ付くような匂いが充満する。ヴァイナルの収録時間の関係かあっさりと終わってしまうのがもったいない。ここまでA面。
 
⑤Ike's Mood/You've Lost That Loving Feeling
再びカヴァーで再びラテン・グルーヴ。前者はアイザック・ヘイズ、後者はライチャス・ブラザーズ。邦題「ふられた気持」だそう。
ヴァイナルではクレジットが(一応)分かれていたが、CD以降は1曲として表記されている。スタジオでの弦のオーヴァーダブあり、やや興がそがれる気がしないでもない。まあ特に前者は弦が入ることでアイザック・ヘイズの仰々しさを上手く受け継いでいると言えなくもない。

⑥Lucky For Me
フルートがなんとも南国気分を醸し出すメロウ。気怠い夏を想起させるようなレイジーな雰囲気。ここでもわかりやすいメロディが後に大ヒットグループになる萌芽を伺わせる。

⑦Dujii
Gangstarr「Jazz Thing」ネタとしても知られる激ジャズ・ファンク。ハイハットを刻むドラムに導かれエレピも使って後年のように洗練されすぎず、かと言って熱すぎず、泥臭くなりすぎない実にいい塩梅のファンクはこの時期のクールにしかない最高のファンク。

⑧The Penguin
CD化に際してのボーナス・トラック。もともとは①「N.T.」のシングルB面で、UK盤ではその「N.T.」に差し替えられていたこともあるらしい。シンプルなベース・リフが曲を引っ張っていく。

まとめ

本作は私にとっては生涯5本の指に入る名盤なのだがやはり通常の音楽ファンには全く届いていないようで、検索してもレコ屋とそっち系を愛する人たちが運営するわずかなブログしかヒットしなかった。

しかしながら強烈なファンク・ビートと人懐っこいメロディというバンドの2本柱はこの頃からしっかりと確立されており、この後で大ブレイクを果たすのもむべなるかな。

この後も1972年には「Music Is The Message」、「Good Times」と2枚の名盤を立て続けてリリース。翌年には決定盤「Wild And Peaceful」。この後出た編集盤も素敵。個人的には「Spirit Of The Boogie」(1975)ぐらいまでのクールが最高。

その後はどんどんとディスコ、ポップ化していき、更にはヴォーカリストを迎えて「Celebration」とか歌う人気バンドになっていく。

あと余談

余談だがBeastie Boysの「Check Your Head」に「Live At PJ's」という曲がある。と言うかこのアルバムは「Finger Lickin' Good」とか「Groove Holmes」と聞き覚えのある言葉が並ぶ。「Gratitude」に「Pow」なんてものも。「Professor Booty」に「Lighten Up」とこちらもいろいろ連想できる。
彼らのオタクっぷりが発揮されていると言えるであろう。
ビースティズはトラックは好きなんだけどラップがあんまりハマらないんよね…


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