「悪口を聞いたら、どうする? 高学年向け」Rev.0 

「悪口を聞いたら、どうする? 高学年向け」Rev.0 
                          作者:中島 征一郎

「ねえねえ、CさんがAちゃんのことムカつくって言ってたよ。」

Bちゃんは周りをきょろきょろ見ながら、そう言ってきた。
またか。そんな事を言われても何もできないし、嫌な気持ちになるだけなのに、何で告げ口するんだろう。
私は結構好き勝手にやってて空気も読まないから、私の事を嫌いな人がいるのを知っている。でもCさんって名前が出たのは、初めてかも。

「あ、そうなんだ、教えてくれてありがとね。」

そう言うと、Bちゃんは嬉しそうに笑った。
でも、なんか少し嫌な笑顔。私の悪口言われているのに、反論もせずに、その事だけ教えられても、嫌になるんだよね。

「うん、またAちゃんの悪口を言ってる人がいたら教えるね。」
「え、あ、そうだね、うん、お願いね。」

本当は嫌だしもう教えて欲しくないんだけど、もうやめて、と言えないのは何でだろう。
Bちゃんは、今年からクラスが一緒になって、別に仲良くはないのだけど、近づいてくる。まあ別に嫌ではないから別にいいんだけど、なんていうかおどおどしてて苦手ではある。

「A!今日の学校終わったら、一緒に遊ばない?」

そう言われて振り返ると、笑顔のCがいた。
Cとは幼馴染だから付き合いも長い。明るく人懐っこいCはクラスの人気者だ。でも、その取り巻きは、ちょっと怖い。Cと仲良くすると嫌な顔をされるから、今の学年になって少し距離が遠くなった気がする。

「いいよ!何する?」

と答えてから、Bちゃんが視界に入った。
そうだった、Cは私の悪口を言っていたんだっけ。

「でもさ、AさんはBさんと遊ぶんじゃないの?」
「そうだよ、Aさんいなくても、ウチらだけで遊ぼうよ。」

Cの取り巻きが、私の事をにらみながら、そう言った。
Cは困った表情をしていたけど、何も言わなかった。

「そうだよ、Aちゃん今日も一緒に遊ぼうよ!」

Bちゃんが私の腕にしがみ付いてきた。いや昨日は遊んでないから、今日も、じゃないけど。
Cと目があって、お互いに仕方ないね、という表情になって話は終わった。

「あのさC、かげで私の悪口言ってる?」

体育の時に、整列しながら隣のCに話しかけた。

「え?なんで私が、かげでAの悪口言うの?何かあれば直接言ってるじゃん。」

うん、そうだよね、知ってた。

「私は言わないけど、まあ、でも言う子はいるよね。でもきっとAに嫉妬してるんだよ。」

なるほど、あいつらか。でもまあ、想定内だわ。
ほっとくのもよいけど、何か仕返ししたいなぁ、なんて思ってたら、次にCから言われた言葉にドキッとした。

「でもさ、Bちゃん、ちょっとウザくない?」
「え?」
「だってさ、Aに対する独占欲ヤバいでしょ?」
「それならCの取り巻きだって、かなりヤバいよ。」

心臓がドキドキしているのがバレないように、冷静に切り返した。つもり。
Cは私の顔を覗き込むように見て、笑ったから、バレたらしい。

「次、Aさんの番ですよ!」

先生の声にびっくりして、走り出した。
走りながらも考える。
さて、どうしよう。

Bちゃんに言う必要はないけど・・・でも言ったらどうなるんだろう?
いつも嫌な気持ちにされてるし、言う立場から言われる立場になったらどうなるのかな?
そう考える自分ってひどいヤツだ、とは思うけど、たまには言う側になってもよいでしょ。

「Bちゃんさ、Cがウザいって言ってたよ。」

曇り空の下、Bちゃんと一緒に帰りながら、話してみた。
どんな反応するのかな?とBちゃんを見ると、いなかった。
あれ?振り返ると、少し後ろでBちゃんはうつむいて立ち止まってた。

「Bちゃん?」

声をかけると、顔を上げた。泣いていた。怒っていた。

「何でそんなこと言うの!?ひどいじゃない!」

え?ひどい?

「悪口言われたって、わざわざ私に言うことないじゃない!」

そう言うと、手で顔をおおって固まってしまった。
そのBちゃんの姿を見て、私の怒りのスイッチが入った。
今まで我慢してきたから、溜まっていた怒りが止められなくなった。

「何言ってんの!?あんただって散々私に、悪口言ってたよ?とか告げ口してたじゃん!なに勝手に自分だけ悲劇のヒロインぶってんのよ!」

Bの腕を掴んで、Bの泣き顔をにらみつける。

「あんたは、どんな気持ちで私に言ってたのよ!」

Bは泣きながらも、苦しそうに悲しそうに、ゆっくりと言葉にした。

「ごめんなさい・・・だって私もAちゃんとCさんみたいに仲良くなりたかったんだもん・・・。」

Bの言葉を聞いて、手を離すと、もうため息しか出なかった。
いや、それならそうと、最初に言ってよね。
そう話してくれたら良かったのに、私のモヤモヤは何だったのよ。

「そっか、そうなんだね。でもさ、そんな事されて仲良くなれるわけないじゃん?」
「・・・うん、そうだよね、ごめんなさい。悪口を告げ口されるのがこんなに苦しいなんて知らなかったから、本当にごめんなさい。」

泣きじゃくるBを見ながら、ため息しか出なかった。
このまま終わりにしても良いけど、私がやめてって言わなかったのも悪かったし、告げ口もしたからなあ。

「で?これからどうする?」
「もしAちゃんが許してくれるなら、もうしないし、許して欲しい。」

泣きながら話しているから、なんかよくわからないけど、まあいいか、って気持ちになった。
もちろん、本当にヤバい時は相手に伝えるのも大事だけど、誰かの悪口が耳に入ってもCみたいにその人に言わずに自分で止めるのも大事だよね。

それに、自分がやられて嫌なことは相手にやらない、と言うだけでなく、やられて嫌なことは嫌だと相手に伝えることも大切なんだなぁ。

Bちゃんの頭を撫でながら顔を上げると、雲が晴れて、青空が広がっていた。

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