オンライン飲み会で吐くって、そんなお笑い反則だろ
ある日インスタをボーッと見てたら、友達がオンライン飲み会で吐いていた。
大学の友達と飲んでいたのだろうか。吐く瞬間をバッチリ撮影されていて、その様子がストーリーに投稿されていた。うつろな焦点が定まらない目、赤くほてった顔。次の瞬間、すぐさまゴミ箱を引っ張り出し、ゲーゲー気が済むまで吐いていた。
彼の名前はシゲル。
たった15秒のストーリーだったけど、オエーッと吐くシゲルの姿を見て、声を出して笑ってしまった。
オンライン飲み会で吐くって、そんなお笑い反則だろ。
なんで部屋で一人で飲んで、吐くまで持っていけるんだよ。パワープレイにもほどがあるだろ。
僕は普段あまりお酒を飲まないし、コールを振るような激しい飲みの場に行ったことがないんだけど、居酒屋で隣の席の集団が「イッキ!イッキ!」と狂ったように飲んでる光景を何度も目にしてきた。いったい彼らは何のために酒を飲むんだろう。苦しそうにうめく彼らを見ては、いつも疑問に思っていた。トイレに行けば、必ず誰か吐いている。ひどいときは、洗面所に嘔吐物が溜まっていたりする。なんて迷惑なんだ。僕はいつも怒り狂っていた。
しかし、オンライン飲み会であれば何でも自由だ。いくら飲んでも、何をしても周りの迷惑にならない。スーパーやコンビニでお酒を買えば、居酒屋で飲むより安いのでお金を気にせず飲みまくれる。僕も何度かオンライン飲み会に参加して、自分のペースで好きなお酒が飲める楽しさを味わった。
に、してもだよ。にしても吐くまでひとりで飲むなんて、なんでそんなことできるんだよ。
画面越しに吐く姿を晒すシゲル、笑いながら撮る友人たち。僕も一緒になって笑ってしまう。なあ、シゲル。その芸人根性はどこから出てきたんだよ。
そりゃみんなに囲まれて飲まされたとかなら分かるよ。飲みすぎて吐くことだってあるでしょうよと。
だけど、オンライン飲み会だぞ?自分のペースで飲んでいいんだぞ?誰もコール振らないし、誰も無理やり酒入れてこないんだぞ?どうやったら吐くまで追い込めるんだよ。生まれながらの爆飲み民族かよ。
なあ、シゲル。そのストイックさを日常でも発揮しろよ。お前そのポテンシャルなんで隠し持ってんだよ。
いや、待てよ。
もしかしてみんなを笑わせるためにわざと爆飲みしたのか?画面越しにでも宴会芸人の魂を見せつけてやろうと、わざと飲みまくったのか?
シゲル、まさかお前、自粛でろくに出歩けないストレスが溜まる毎日に少しでも明るい笑顔を届けようと、その身を捧げたのか?
「マジかよ。こいつ吐いてるぜw」と、指をさされながら自らが嘔吐する姿をカメラに収めさせることで、生身の人間ではなくパソコンの画面という無機物としか顔を合わせない灰色の毎日に笑いを届けてくれたのか?
だとしても代償が大きすぎるだろうよ。どういう引き算だよ。
届けられる笑いから失うものを引いたら明らかに失うものの方が大きいだろうが。なあシゲル。お前は義務教育で何を学んだんだよ。
オエーッ!っとゴミ箱に突っ伏すシゲル。断末魔のようなオエーッ!の裏で、彼は涙を流していたに違いない。
オエーッ!オエーッ!
これは彼の叫びだ。
「俺はこの身を捧げ、みんなに笑いを届けている。この絶望の世界でみんなを笑顔にする方法はこれしかない。俺は絶対にコロナを許さない。絶対にだ。」
力強くゴミ箱を握る彼の手を見ていると、そんな声が聞こえてきそうだった。
しばらく笑った後、僕はスマホをそっと置き、吐いて吐いて吐きまくってたシゲルに思いを馳せた。オンライン飲み会終了後、真っ暗になったパソコンの画面に映る泥酔した自分の顔を見て、彼はいったい何を思うのだろうか。誰もいない部屋で、ひとり吐瀉物を片付けながら、どんなことを考えるのだろうか。僕には知る術がない。
一つの笑いの裏には、数えきれいほどの苦しみがある。笑いと苦しみは表裏一体なのだ。その身を捧げ、体を張った笑いを届けてくれたシゲルには、尊敬の気持ちしかない。
にしても、にしてもだよ。
オンライン飲み会で吐くって、そんなお笑い反則だろ。
最後に、今日の一杯を彼に捧げてこの文章を締めることにしよう。
ありがとうシゲル。君は僕を笑顔にしてくれた。またいつか元気で会おう。このクソッタレの世界で、君だけが一筋の光だ。
ありがとう。乾杯。
(おわり)
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