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よっしゃ、またチャンス到来や。

映画関係者のみならず、エンタメに関わっている人なら誰でも気になっていることを直接タイトル、サブタイトルにした書籍だ。著者の稲田氏とは、一度お会いしたことがある。吉本のあるプロジェクトでインタビューを受けた。日本語化された外来語の意味に合わすならヒアリングといったほうが良いかもしれない。2時間半ほどお話した。僕は演出家とか脚本家が来て、吉本の表裏のエピソードをお話すれば良いのかと思っていたら、随分ビジネスよりの吉本のマーケティング、メディア戦略、マネジメントに関するイノベーションに関しての質問をされて戸惑った思い出がある。いま思えば、そのプロジェクトもさることながら、後者にご興味があったのかもしれない。この本を読ませて頂いて、その意を強くした。

内容については、僕がこの何十年メディア、コンテンツ業界で体験した中で感じ、仮説を立てて対応してきたこととそう変わりない。自分の考えがずれてないことを確認できた。ただ、これからこの業界に入ってくる人には、今求められているコンテンツの傾向を掴むことができて、とてもいい本だと思う。まさにタイムパフォーマンスが高い。しかし、ここで僕が要約してしまうと、まさにネタバレで稲田さんの本を買わない人が出てきては申し訳ないので、本を読んだ後、僕が考えたことを若干整理して書いてみたい。

良い資料がなかったので、平成26年度版の情報通信白書から上図のグラフを引用してみる。御覧のように、当時の予測では20年前の1万倍のデータが溢れていることになっている。今は、勿論もっと多くなっているに違いない。
ところが、人間の情報処理能力は1万倍になんてなってないし、1日が24万時間になったわけでもない。
ましてや、大学生も昔よりちゃんと授業に出なければならないし、社会人も全然暇になってない。可処分時間がそんなに増えていない中で、SNSのおかげで、家族、友人、知人などと常時つながっていて、何か話題があればそれを放置しておけず参加しなければならない。そんな中で、トレンドを追いかけなければいけないとなれば、映像コンテンツの観飛ばしも起こってきて当たり前だし、自分自身どうかと聞かれればやっているのだ。それは、職業柄いろいろなものを観なければならないということでもないのだ。僕自身、日本の地上波のテレビドラマは第一話は取り敢えず観るが、最終回まで観る作品は1本か2本しか無い。
第一話だけで判断するのは早計だ、それはイントロだけで音楽を聴くのを止めてしまうに等しい鑑賞態度だと言われるかもしれないが、時間がないから仕方がないのだ。他にもNetflixやDisney+やAmazon Prime Video に観たい海外ドラマや過去の日本のドラマ、古今東西の映画が一杯あって、そこにある作品と比べて、自分の貴重な時間を使って観るに値するかを判断しなければならないのだ。
そのようなSVODの場合は、だいたい全話一気観が可能になっているので、自分が興味なくても話題になっている作品があれば、早送り、話飛ばしなど時短作戦で話について行けるだけの情報量さえインプットすればいいし、ハマれば第一話からじっくり観直せばいいのだ。
というのが、現代人の一般的な視聴動向かと思われる。
勿論、TVが普及している5,000万世帯に対して、インターネットに接続しているそれは4割程度だし、有料のSVODに加入している世帯となればそれより少ない3割程度ということなので、全国全世代そうだというわけではないが、この視聴方法がスタンダードになっていくのは間違いないだろう。

そもそもテレビにとって、可処分時間の王様の地位を脅かされ始めたのは昨日今日のことではない。家庭用ビデオデッキの発売、ファミコンなどTV受像機につないでプレイするゲーム機器の大ヒットなどあった。しかし、テレビ受像機のコモディティ化で、居間の中心に一家に一台の時代が終わり、一室に一台になったことで、その危機が顕在化しなかっただけだ。
ドリフの8時だョ!全員集合が終了し、スーパーマリオブラザーズが大ヒットした1985年、当時フジテレビの横澤彪さんが「これからは他局じゃなくてテレビゲームとかがライバルになっていくんだね」と言っていたが、基本的には限られた「可処分時間」をどう取り合うかがエンタテインメントの主目的というのはずっと変わっていないのだ。

じゃあテレビは圧倒的に不利なのかというと、そうでもないんじゃないかと思っている。能動的にならなくても受容できる、つまり勝手に入ってくるメディアって他にはないのだから、機会という意味では今だに圧倒的なアドバンテージを持っているのだ。例えばNetflixに新しく入ったドラマシリーズは、常にNetflixのホームにアクセスしている人以外に伝えるには相応の努力がいるが、地上波テレビは、僕のように第一話は取り敢えず観るという人がまだまだいるし、オンタイムでTV受像機で観ている若者が減っているというのは事実だろうが、「若者のテレビ離れ」と言って若者が誰もテレビを観ていないような言い方は正確じゃない。忙しいから、どうでもいい番組は観ないだけだ。
だとしたら、番組をちゃんと作れば、まだまだ地上波テレビには時間を使ってもらえると思うのだが。番組をおざなりに作っておいて、放送外で新しい収益源を求めて血眼になるのは、免許事業者たる放送局としてはアカンことなんやろうし、今をチャンスと捉えないのも理解できないんですわ。

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