見出し画像

進化と成長

フロンターレU-18は、進化している。選手たちは成長している。
そう感じさせられる3試合だった。

9月、再開を迎えたプレミアリーグEAST。川崎フロンターレU-18は、初戦の大宮アルディージャU-18戦を3-0で勝利すると、続くアウェーの2連戦、流通経済大柏戦に1-0、そして長年の好敵手、前橋育英には3-0で勝利。3連勝を達成してみせた。


〇自信

大きな成長を目に見える形で示したのは、大宮アルディージャU-18戦でゴールを決めた2人のアタッカー、FW13髙橋宗杜とMF14岡田泰輝。

岡田のスルーパスから髙橋宗杜が先制点を挙げれば、後半には、髙橋宗杜のラストパスから岡田が巧みな個人技から追加点を挙げる。
そして、続いてのコーナーキック、佐原秀樹コーチからの「セカンドボールを狙え」という指示が頭に残っていた髙橋宗杜が、MF6由井航太の触れたボールを押し込み、この日2点目のゴールを決める。

10得点のFW9岡崎寅太郎、7試合で3得点と結果を残していたFW28香取武がメンバー外で迎えた試合。その不在を感じさせない活躍ぶりで、チームの勝利に大きく貢献してみせた。


活躍の裏には、もともと2人が磨き続けたそれぞれの武器と、この夏で得た自信がある。

フィジカルとスピード、そして何よりの強みが守備であると自覚する髙橋宗杜。ライン間で受けてからのドリブルやスルーパスが強みの岡田泰輝。

それぞれ良さを持ちながらも、出場時間が限られ、力を発揮しきれないでいた2人は、クラブユース選手権、そして、何人かの主力が不参加となった8月の和倉ユースで出場時間を増やしていった。

「クラブユースでも先発経験して、夏で大きく成長したかなって個人的に思っていて。メンタル的にも技術的にもすごい大きな成長ができて この試合に臨めたので、あんまり緊張とかなかったです」(髙橋宗杜)

「クラブユースとか和倉とかで試合にどんどんかかわっていけたのがデカかったのかな、と思います」(岡田泰輝)

長橋康弘監督が春先から「とにかく面白いんですよ」と口にしてきた紅白戦で、コンビを組むことが多かった2人。

持っていた力を出すために必要だった出場時間を同じタイミングで得たことで、大宮戦でそろって、本領を発揮して見せたのは、必然だったのかもしれない。

その後の2試合、髙橋宗杜はゴールこそないが、「前半追い回してくれて、相手も疲弊してくれている」と岡崎寅太郎が感謝する、本人が何よりの武器と自負するその守備で貢献。一方の岡田は、前橋育英戦でDF2江原叡志のクロスに反応し、その嗅覚から先制ゴールを記録。いずれも、出場時間を伸ばし、チームへの貢献を続けている。

「今は自信に満ち溢れています」と髙橋宗杜が口にすれば、試合後ゴールシーンについて語ってみせる岡田泰輝の顔には、取材をしている側からも「いい笑顔だね」と声が出る笑みが広がる。

ピッチに立ち、試合に出ることが楽しくてたまらない。「自分のプレーをもっともっと見てほしい」。そんな雰囲気が2人からは伝わってくる。



〇新たな姿

フロンターレU-18が新たな姿を見せたのは、流通経済大柏戦だ。

MF11岡野一恭平が前半20分に挙げたゴールで、1-0でリードしたフロンターレだったが、後半14分、DF30林駿佑が流通経済大柏のFW29山野春太へのファールで一発退場。数的不利となってしまう。

夏前までのフロンターレには、試合運びに課題があった。

流通経済大柏戦、市立船橋戦はアディショナルタイムに失点。柏レイソルU-18でも試合終了間際にゴールを奪われ、勝ち点2を失っている。
それは、相手に多くのセットプレーを与えた末だったり、自陣に引きすぎた結果だった。

それまでのフロンターレU-18だったならば、流通経済大柏戦も、自陣に引き、多くのセットプレーを与えて、最後には守備が瓦解していたかもしれない。

それが、うまい具合に、深く引きすぎず、少しミドルの後ろぐらいのところで構えての戦い方を選択。得点を狙いに行く姿勢も見せながら、試合を進めていく。
ピッチに立った10人が目をそろえることで、数的不利ということをあまり感じさせない。与えたコーナーキックはわずかに1本。流通経済大柏の決定機は、FW29山野春太のシュートくらいだったのではないか、と思う。

CBとして、プレミアリーグEASTでは初めてのピッチに立ったDF32関徳晴。中2以来のCBだった由井航太。林の退場後、最終ラインの真ん中は、CBが本職ではない2人が務めた。
再三守備で好プレーを見せていたDF4元木湊大、キャプテンのGK1濱﨑知康、ハードワークが持ち味のDF2江原叡志のサポートも得て、乗り切っていく。

MF10尾川丈やMF25矢越幹都らもセカンドボールを拾い、終盤には岡野一が決定機を迎えるなど、チャンスもつくりながら、勝ち点3を持ち帰ることになった。

「何にも言わないのに、 彼らがコントロールしていたので、“なんかすごいな”と。10人になってのトレーニングしていないので。すごいな、と思います」と長橋康弘監督を感嘆させる、新たなチームの姿だった。


〇サポート

続いての前橋育英戦は、DF30林駿佑の出場停止と、右MFとしてそれまでの全13試合先発出場を続けてきたDF22加治佐海が、U-17日本代表に招集され不在。
フロンターレは、3試合続けて、異なる先発メンバーで臨むことになった。

最終ラインは右のCBは由井航太。そして、左のCBはU-17日本代表のフランス遠征帰りのDF5土屋櫂大。
由井が機を見た攻撃参加を見せれば、土屋もインターセプトからエリア正面へ顔を出し、シュートを打つなど、守備だけではなく、攻撃にも厚みを加えていく。

由井と土屋のコンビは、金曜日の練習が雷雨に見舞われ、紅白戦を行うことができなかったため、ぶっつけ本番。

しかし、「彼は何でもできるので。そんな心配はなく、いつも通り自分もできました」(DF5土屋櫂大)。

急造ということを感じさせない。むしろ、お互いのプレーがそれぞれを高めている。そう感じさせられる見事なコンビネーションで、チームの守りを支えてみせた。

急造の最終ラインで破綻なく、試合を進めることができた裏には、「由井はCBじゃないので。そこで負担かけないようにっていうのを意識しながら」(GK1濱﨑知康)という周囲からのサポートもある。
それが、この日由井が見せたような、大胆な攻撃参加にもつながっていたように思う。

その周囲からのサポートは、右サイドでMF8名賀海月、DF2江原叡志が見せた好連係にも、表れていた。

「海月に関わる、周りの選手っていうのも、すごく生きるやり方ですね、ボールが入った時にはちゃんとこう関係がつくれるような距離感であそこで起点つくっていました」。長橋康弘監督が評するように、MF25矢越幹都やMF10尾川丈らのサポートも得ながら、この日の右サイドは好連係を見せていく。

名賀は正確な技術、普段このポジションに入っている加治佐にも負けない戦う姿勢を見せていく。江原も普段以上に高い位置に顔を出すなど、名賀を生かし、名賀に生かされながら、チャンスメークを担った。

岡田泰輝の先制点の起点となったのも、名賀を起点とした江原の右クロスから。後半、名賀は正確なキックから岡野一のゴールをアシストする活躍も見せ、その武器をしっかり発揮して、チームの勝利に貢献してみせた。

途中出場のMF24児玉昌太郎がその武器であるドリブルを何度も見せ、岡崎のゴールにつながるプレーをして見せたのも、途中出場でボランチに入ったMF18八田秀斗がボールに積極的に触れながら、リズムを生み出していたことも、見逃せない。

「途中から入ってくる選手が思いっきりできる環境っていうのを、選手たち自身がつくっている」(長橋康弘監督)

今のフロンターレU-18には、ピッチに立った選手がしっかり力を発揮できている。そして、その状況を生み出しているのは、ピッチに立つ選手たちをサポートしている選手たち自身だ。


シーズンの佳境を迎える11月には、土屋やDF17柴田翔太郎、さらには「国際ユースサッカー in 新潟」で結果を残した加治佐もU-17ワールドカップに臨むU-17日本代表に選出される可能性がある。

この先も、フロンターレU-18のメンバーは定まらない時が来るかもしれない。

しかし、それでも、ピッチに立ったその選手はその力を発揮するに違いない。周囲のサポートを得ながら。培ってきたものへの自信をもって、その実力を見せていくはずだ。



今週末には、前半戦唯一敗れている昌平高校との一戦を迎える。

フロンターレU-18がそうであるように、昌平高校もまた、培ってきた技術に自負を持つ素晴らしいチーム。

「技術というところをこだわるチームであるということは、選手が気にしているところではあると思うので。そこだけには負けたくない、っていう思いはある」(長橋康弘監督)
「昌平だけ負けているので。気持ち見せるところだったり、今日よりももっと持っていかないと勝てないのかなって思ってる」(GK1濱﨑知康)
「昌平はドリブルとかが得意なチームだと思うんですけど、自分もやっぱりドリブルというのは特長としてあるので、そこで負けないようにしていきたい」(MF14 岡田泰輝)

特に前半は技術も、そして何よりも戦う姿勢を示すことができななかったあの敗戦から4カ月。


進化と成長を遂げたフロンターレU-18は、今年初めてとなる等々力陸上競技場での一戦に臨む。


きっときっと、それぞれ胸に秘めている悔しさと、培ってきたものへの自負、仲間たちへの信頼を胸に、そして等々力に集うサポーターたちの声援を力に変えて、素晴らしい試合をやるに違いない。

そして、その先にはさらなる進化と成長があるのだ、と思う。

(文中敬称略)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?