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人の絵にストーリーを付与する

フォロワーの絵をポスターにするため加筆を行った

人物画を貰う→舞台設定を追加し加筆する→文字入れしてもらう=ポスターになった!という遊びをした。これが偶然「全く知らないジャンルのアンソロのポスター」だったので、間に挟まる要素の抽出などが面白く、読み返すためにnoteを書くことにした。

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ジャンル混在アカウントを所持している。
繋がっている人は全員オタクだし、たまに活動ジャンルが被ったりもするが、各々が違う推し、違うCPの話をしているアカウントだ。これが中々心地よく、私のコミュニティでは度々「ジャンル外の人間から寄稿してもらう」という遊びが流行る。

知識が無ければ解釈もない為、ジャンル外の人間は真っ白なキャンバスだ。
そこに己の業とフェチズムと罪と罰を注ぎ込み、偏った情報とフィルターを通した主観的意見で好みの味付けに仕上げることで自分の好きなものを書いてもらえるのだ。
字書きも絵描きも3D屋も書道家もなんでもござれな我が界隈では、男性エンジニアを唆してブロマンスを書かせたオタクも居た。

という訳で今回の話も私にとってはよくある日常なのだが、要素抽出や情報の付与作業なんかが楽しかった為、この楽しさをいつでも取り出せるようモリモリ書いていこうと思う。

イベント36時間前にポスターを作り始める

1月7日(金)20時。TLにイラストが流れてきた。

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「パッとしない」とのツイートと共に流れてきたそれは大変可愛かった。人の推しを視覚情報でしか認識できない私は「あ~これはキャルダーさんの推しだなあ」と思った。このキャルダーさんがイベント36時間前にポスターを作り始め、2時間で出力してくれる印刷所を探し、そして土日休みに絶望していた今回の主役だ。ちなみにポスターはキンコーズ様で刷ることになった。

キャルダーさんの主軸は小説なので、美大出身の私は度々彼女の質問に答えたり、絵の要素の解説をするなどしていた。(これは本当に信頼関係やあらゆる前提がないとド失礼な行為でタブーなのだが)「パッとしない=調和している画面なので、好きな位置にお好みのドギツイ色を入れるだけで締まるのだ!へけ!」というDMを送った。そして「言われて前にπさんが言ってたの思い出したけど、1個のパレットで書いてた、どぎつさで締めたい」という返信が来た。そう、私がπさんで、キャルダーさんとは5年以上お付き合いさせて頂いている。友人です。

「1個のパレットで書く」というのは同じ画面に赤い服とリンゴがあった場合に同じ絵具で塗っていくような、画面の中で使用した色が制限されている状態を指す。全くこれは悪いものではなく、上でも伝えている通り調和をもたらしてくれる。カラーパレットを指定して絵を描く行為なんかもこれを活かした使用方法だ。意図的に使えば武器なのだが、無意識下であればあまり推奨されない。私は講評時に「πさんオレンジの絵具1本しか持ってないでしょ。」と罵られたこともある。絵に幅が出ないのだ。
※絵具の成分による違いを重視する油絵独特の文化かもしれない

とはいえその「調和が取れている画面」の活用方法は無限大だ。
こいつには数多の進化先がある。

概ね何を入れても喧嘩しないので、意図した差し色を使用しやすいし、わざとプリクラみたいな二値ペンで記号を落書きしてもポップにまとまる。要素をつけ足していくには結構もってこいなベースだったりする。

とはいえ日本語が不自由なので伝わらず、キャルダーさんの絵に加筆する形で例を示した。(これは本当に信頼関係やあらゆる前提がないとド失礼な行為でタブーです)※我々は特殊な訓練を受けています。

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こういう遊び方もあるよ!という話である。
「どういう絵を描きたいか」というのは「完成した絵からどういう体験をしたいか」という話なので、5年以上キャルダーさんの好みの作風・噛み締めたい旨味を傍で浴び続けた私は簡単かつドラマティックな演出方法をお伝えした。

人名の文字列を見て誰の推しかは分かるものの、読み方も下の名前すら覚えられない私に「ガンダムパロ本です」とかなりザックリした説明をして下さったので、お礼として「個人的にロボットアニメ系は軍と戦争の話だからポップできゅ〜とな絵を描けば書くほど絶望が引き立ち好きなのだ!へけ!」という返信をして日高屋の味玉とんこつラーメンを啜った。

東京は実に4年ぶりであった大雪の翌日で、溶けた雪が再び凍り歩道がスケートリンクになる大マジックショーが開催されていたのだ。寒い。
気づけば「まあ私のスペースのポスターだからなんでもありなのだ!へけ!」とハムちゃんずの仲間入りをしたキャルダーさんからお返事があり、以前頼まれて知らんジャンルのポスターを寄稿したことのあった私はこう思った。

「今なら本来タブーに近い行為をしても怒られないし、Win-Winなのではないか?」

他人の絵に加筆するという行為に結構な忌避感がある。台無しにしてしまった場合のデメリットが大きすぎるからだ。絵の出来次第では人間関係と直結するし、なにより他人が構築した作品で足し算と引き算をするのは根本的に失礼だなと感じる。

でも楽しいものは楽しいし、4年に1回はやりたい。

いままでの関係性があるし、4年ぶりに大雪も降ったし、キャルダーさんは自分の絵が他人との通信によって手持ちには居ないタイプのポケモンに進化したら喜ぶ稀なタイプだし、何より目を引くポスターを掲示して少しでも多くの人に友人の本を手に取って貰えたら嬉しい。

この日の私には自信があった。

36時間後サークルスペースに座る予定の友人なら、このお願いを断らないであろうと予測する狡猾さを兼ね備えたスーパー赤ちゃんになっていた。
日高屋の味玉とんこつラーメンにはそうさせる魔力が宿っていた。

かくして「使わずキャルダーさんが眺めるだけで良いのでお絵描きしたいでち」とお願いし、無事他人の絵にあんなことやこんなことをする権利を得たのである。
前置き長すぎ。

ヒアリングをする

「ここはこうするな~というのがあるなら見たい」とお返事を頂いたので、てっきり本人が楽しむ用かと思っていたら直後の通話で「明日Kさんにキンコーズ行ってもらうからKさんが寝る前に終わらせないと」と突然の締め切り&使用の決定を食らった。

時刻は21時過ぎ。Kさんは同じイベントに出るそうで、「これから12種のペーパー用の原稿をするんです」と言いながら作業通話に参加された。
12種?あと35時間で?
というか多分例のキンコーズもこの12種ペーパーの印刷がメインの目的であろうし、すごくゆったり見積もって残り20時間である。すご~。

なにはともあれヒアリングである。
この絵がなんの本の販促で、どういう意図があるのか擦り合わせねばならぬ。

【あると豊かになるもの】
・ポスターなので、載せる文字
・売るものの大まかな内容(推しシュチュ的な売りポイント部分の話でよい/絶望顔が見たいのでいっぱい出てきます、など)
なくても書けるけどあると多分楽しいのだ!へけ!

上記が実際に送った内容である。
事前知識としては「キャルダーさんが主宰している、特定のCPが主流ではないアンソロジー」「ガンダムみたいなやつ」「多分この絵の子は推し」程度であった。

そして返答がこちら。

公式エイプリルフールの新章!宇宙戦争編開幕!っていうネタのアンソロを出します。
デザインはガンダムSEEDパロで、アイドルたちはクローンにより何度も何度も殺し合いエンターテイメントをさせられていました。
それに気付いた相棒は自分を置いて逃亡先で死亡、自分もクローンと気付いてしまったのがポスターの氷鷹北斗くんです。

公式MVのリンク付きでくれた。手厚い。こういう所でアンソロジャンキーのキャさんは依頼慣れしているなと感じる。

サンプルがめちゃくちゃ伸びてないのでとりあえず知らない人からの目を引きたくてアイドルぽくないのに仕上げたいです!!!不気味に足を突っ込んでもいいのでどんな本が置いてるのかな?って寄ってほしいです。
本のサンプルはこちらです。

この宇宙船における氷鷹北斗くんについての説明も受けたが、読み手の解釈がブレるノイズになってしまいそうなので割愛した。

前回の胡乱!〇〇から見る(略)というアンソロジーをキャルダーさんが発刊した際も、全く知らない状態で蓮巳敬人くんの説明を受けポスターを制作したことがあるのでそんな感じの世界観かな~とぼんやり思った。ちなみに前回のポスターはこれ。

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ヒアリングは終わったので、次にアイデアフラッシュを出していく。
絵作りの下地でもあるが、解釈違い・決定的な認識ミスを防ぐ為にチェックしてもらう為である。


頂いた情報から連想ゲームを始め、相手の好みの旨味があれば追加で説明を貰えるし、間違いがあれば訂正され、キャラクター像の修正を図れる。
キャルダーさんから花丸を貰ったのは以下の部分。

何度も殺し合うエンターテイメント
→自分の世界が己のコントロール下ではない不快感
→大団円を得られない
→理不尽な希望
ピエロと分かっていても止められないエネルギー
→無様を理解しつつも動き続けるエンジン、人間臭く機械的

他にも「自分もクローンだった→役者から観客(部外者)に投げ出される感覚」などクローン関連の連想ゲームを行ったのだが、彼は結構アグレッシブらしくあまり悲観的にはならないようだ。(※キャルダーさんの解釈です)

とはいえ「宇宙」「殺し合い」「不気味で良いから目を引きたい」「元絵は自分もクローンと気付いてしまったシーン」、そしてオタク特有の”関係性推し”が揃えば充分です。

頂いた元絵はこちら。

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可愛い~~!こんな可愛い子が殺し合いさせられんのか…気合入れないとな…

遠景・近景で舞台を表現する

「宇宙服を着てヘルメットを被っているのであれば、船内では無いのだな」

最初にそう感じました。ということは、彼は宇宙船の外に配置しましょう!
宇宙船の窓は特徴的なので、丸窓の外に宇宙服があるだけで「ここは宇宙船で、自分は窓から銀河を眺めている」という舞台を設置することが出来ます。記号って便利~!

更に、窓を主体にすることで画角から画面は誰かの視界であると表現できます。
「外に居る彼、中に居る自分(誰か)」というシュチュエーションが産まれました。

近景:窓(船内)、中景:彼(元絵)、遠景:銀河(水平線)
を描くことが決定!書き込み不要で伝わりやすく、視線誘導の操作が楽そうです。何より時間ないし。ナイスコスパ!

近景:窓(船内)を描く


同心円定規で正円の窓を書きます。

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宇宙船からの写真を眺めながら、「電気を消して窓の外の宇宙を撮影することが多いのだな」と気づきました。綺麗に撮れるからでしょうか?
今気が付いたものでも、テレビやニュースで繰り返し見たことのあるタイプの写真です。つまり、「壁や窓を暗くし、逆光にするとそれっぽくなる」ということが分かります。
普段無意識に得ている情報から特徴を掴むことが出来ました。

中景:彼(元絵)、遠景:銀河(水平線)を描く

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テーマカラーはオレンジと聞いていたので、オレンジの周りにはキツめの青を乗せたいし、宇宙船の壁を緑にしました。

元絵に差し色などの加筆もバッチリ。ここはキャルダーさんに示す例として有用なように、技術のあまり要らない塗りを心掛けました。

「調和の取れている」元絵のおかげで、ヘルメットの外に加筆することでかえって「ヘルメット越しの顔」にぽさを出すことが出来ました。
ここの明暗が激しかったりメリハリがついていると、ガラス一枚挟んでいるという表現が難しくなるのでありがたいです。私はガシガシ塗ってからとりあえず不透明20%の白かけてみるか…トーンカーブいじるか…と手直ししていくタイプ。

「ポスター」に仕上げよう

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仕上げました。

具体的には、「グリーンの照り返しで窓っぽく」「枠を付け、一番外に半調をかけることでセルフ印刷時の白枠も馴染むように」だけの処理です。

中央下部にドーンとロゴが入ればまあ何とかなるでしょう!

視線を誘導しよう

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なんとかなりませんでした。

そういえば「殺し合い」「不気味で良いから目を引きたい」「元絵は自分もクローンと気付いてしまったシーン」と聞いていたので、折角だし内側からの手形つけるか!中と外の断絶彼の環境の理不尽さ(中に居る血まみれの人を宇宙船の外から助けることは出来ない)なんかもスパイスになって良いと思います。

手形は下へ尻すぼみになっているので、良い感じに文章に目線を引っ張れます。※文字は仮置き
でもまだ読みにくいですね。下に余白を作ったものの、グラデーション以外の要素が無いので目が引っ掛かりません。困った。

文字入れしたくないでち!このiPadにはフォントを全然入れてません!御本のこともわからないでち!と地団太を踏んでいたらキャルダーさんが文字入れをしてくれました。

好きなものを詰めよう!

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うん!これで良い感じになりました!

とはいえ「宇宙」「殺し合い」「不気味で良いから目を引きたい」「元絵は自分もクローンと気付いてしまったシーン」、そしてオタク特有の”関係性推し”が揃えば充分です。

中々クリア出来ているのではないでしょうか。手形によって明確に彼以外の人物の存在も示唆することができました。クローン要素は薄いですが、こちらは二次創作で元となる文脈を共有している人が鑑賞者なので(イベントスペースに掲示するポスターですからね)氷鷹北斗くんが宇宙服を着ているだけでクローンであると伝わるかと思います。多分ね!

完成(私のパートのみ)まで約2時間でした。高コスパきもちえ~~。

文字を入れて貰い完成!

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「映画のポスターみたいで楽しいから、誰か縦書きに入るコピー下さい」というキャルダーさんの呻きに優良フォロワーが反応し、

信じたかった
世界はあった。

というフレーズをプレゼント頂きました。ぐっとクオリティが高まった音を感じます。

意図せず生まれた効果

こんなクソ長いnoteをここまで読んでくれた方はお分かりかと思いますが、逆光の構図にしたことは全くの偶然でした。

宇宙船からの写真を眺めながら、「電気を消して窓の外の宇宙を撮影することが多いのだな」と気づきました。綺麗に撮れるからでしょうか?
今気が付いたものでも、テレビやニュースで繰り返し見たことのあるタイプの写真です。つまり、「壁や窓を暗くし、逆光にするとそれっぽくなる」ということが分かります。

おお~ぽいぽい(笑)とか言いながら塗った逆光の絵に、「逆光のリザレクション」のタイトル。

そういえば「殺し合い」「不気味で良いから目を引きたい」「元絵は自分もクローンと気付いてしまったシーン」と聞いていたので、折角だし内側からの手形つけるか!中と外の断絶彼の環境の理不尽さ(中に居る血まみれの人を宇宙船の外から助けることは出来ない)なんかもスパイスになって良いと思います。

こんな感じで舞台設定から選定した血飛沫の上に「キャラクターの死亡描写、殺人描写、恋愛描写、その他も倫理的に問題のある行為をする描写が多く含まれます。」の文字。

未履修ジャンルの未履修な元ネタの名前しか知らないキャラクターでしたが、面白い結果となりました。

前回の蓮巳敬人くんの時は0から自分で描いたので、結構な説明を受けてキャラクターを深堀りし、部分的にフィーチャーして面白くするという正統派な手順を踏んだのですが、
彼のキャラクター性をむやみに主張しないことでクローンっぽい雰囲気も出せたのかなと感じています。

あくまでオリジナルのアイドルである本人ではないので、その辺かなり遊びやすかったですね。
ていうかオリジナルだったら加筆申請出してないかも。

序盤で何度も申し上げた通り、これは本当に信頼関係やあらゆる前提がないとド失礼な行為でタブーです。
今後も私は何年も仲良くしている信頼し合った友人かつ、何度も絵の相談を受けている人にしかしないし、多分4年に1回やったら楽しいな、という遊びです。

「色々な前提を踏まえお願いした私」と、「私を信頼してくれていて、結果的にとても喜んでくれたキャルダーさん」との話ですので、批判は見えない所でお願いします。

132頁もあるつよつよアンソロは1月9日(日)に買えるらしいので、よろしくおねがいします!!!!!!!

通販あるのか私は知らないけど、あるとしたら下記ツイートに詳細が上がるかと思います。

以上、私の楽しい思い出でした。

イベント楽しんでね!

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